第三十九話 ゴルド=ウォール=アークバルト
やっと描き上がりました。
ご賞味ください。
俺の名前は、ゴルド=ウォール=アークバルト。今年の夏に27になる、筋骨隆々とした男だ。
今の俺の主は、魂名授与式で、100年に一人現れるかどうかと言われる神名を授かった子供のカインの護衛職をやっている。
もともとは、この帝国の第二帝都ディーティレル、城郭都市の門番の子だった。親は、安定した職に就いていたが、少しばか、病気に弱くて、家近くの薬師から薬を毎日買っていたせいで、家は貧乏だった。
つーワケで、俺は薬師の隣の立派な建物、すなわち冒険者ギルドで冒険者となり、6歳くらいから薬草採取やゴブリン狩りをして、頑張って生活していた。
……が、そんなある日のことだった。丁度13歳になった頃だと思う。父親が門番の仕事中に胸をグッと押さえて倒れたんだ。俺はその時、城壁の外にいて、オークを狩っていた時だったと思う。幾らかデカくて、頭がいい特殊個体の討伐をしてたんだ。頭から血を流しながらも倒し、感極まっていた時のことだった。どうしようもないことと分かってはいたが、どうやら病気の悪化が原因だと家の隣の薬師が言っていた。
そんな時、その薬師に、「お前の母親もおんなじ症状を持っている。だから、独立しろ」と言われ、家から追い出された。
その時の笑みと言ったら奇妙なもので……。
俺の勝手な想像だが、薬師と母親でデキていたのだろう。
たまたまその時に帝都ヴォーヴナルグ行きの乗合馬車が通り、小遣い程度の金で乗れて、お世話になっていた冒険者と合流することが出来たから、今、俺は生きている。
そんな過去を持っている……、っとっと、て、話が逸れたな。
そんな俺が何で、護衛職になったかって?
そんなのは簡単、美味い飯が食えるからだ。ちっちゃい頃に食えなかった分、いろんなものを食ってみようと思っている。あえてもう一つ言うなら、報酬手当の額がかなりあるからだ。
一応付け足したが、俺は金よりも飯。そう、うまい飯にたどり着くために護衛職になったんだ!!
……で、最初に戻るが、カインというガキ……、いや、行動はどう見ても7歳児のそれじゃあ無いが。……と、生活周り担当の同じく護衛、エリアールと帝国学園の寮でカインの住み込み護衛をしている。
……そのエリアールという輩は、とんでもない家事スキル持ちの魔導士だった。
魔導士っていうのは、上級魔術を扱える者のことを指すのが大半なんだが、この魔導士は方向が普通のと異なった。
一つ一つの魔法を見てもそうだ。魔力を大量消費して行使するのが普通の上級魔術だというのに、エリアールは、調理用の為だけに改良して、極小規模かつ微量の魔力で転用している。
まあ、帝国上官の護衛についた時の飯より、今のほうが断然に美味いからそんな些細なことはいいだろう。魔法が暴走したらどうするかだけを考えておくにとどめよう。
……と、ここまでカインを扉の向こうに見送って、自分のこれまでとその他色々を考えた訳だが。
「……遅せぇな」
帝国学園で初めて見る重厚な封筒にて召されたカインが全く戻ってこない。
一年生で、しかも10歳入学ではなく7歳入学の特異さに目を付けられているカインがいろんなことに呼ばれるのはわかっているが、いくらなんでも遅い。
しかし、カインが入っていった扉には鍵がかかっていて、何がどうなっているのか、確認すらも出来ない。
また、奇妙なことに、人の気配は確かにそこにあるのに、扉に耳をくっつけても物音一つとしてしない。
……考えても、俺には手出しも何も出来ねぇな。これまでの行動を考えても、カインを心配するより、攫ったほうを心配する方がいい気がする。
ゴルドはそう考え、筋トレを始める。
「こんな時間も有効活用しねえとな」
プランク150を数えるまでを10セット。
腹筋100回3セット。
腕立て伏せ100回3セット。
背筋100回3セット。
いつものメニューをやり始める。
一周目が終わり、二周目に入ろうとしたとき。
――パキッ。バリッ。
妙な音がする。
立ち上がろうとしたが、まだ75を数えたばっかりだ。
だが、ここで終わってしまったら、負けてしまう。
誰かって? 勿論過去の自分にだ。
そう、思考をねじ曲げて、自分の筋トレを続行する。
その間に、扉周辺の空間。
何もなかったそこにひび割れが入る。
しかし、ゴルドは、最後までメニューを切らすことはない。
あと、20。
襲撃があっても、大丈夫と自分に言い聞かせて。
そのカウントダウンが残り5になったその時。
完全にひび割れが崩壊し、そこからカインと……、誰だ?
不思議空間から出てきたのは、カインを含め6人。
どう見てもカインの1.5倍に近い身長の奴がいる。
見知らぬ、青年というべきか、若者というべきか分からないが、リーダーのような男の手がカインの肩に触れている。
本来ならば、護衛であるゴルドは即座に見知らぬ敵として排除すべきなのであるが、カインの平然とした表情を見て、手出しはしない。
「この人がオレの護衛のゴルドだ。……護衛もその面会に連れて行っていいのか?」
カインの声は、その男に向けられていた。
………………。
…………。
……取り敢えず、あといくつやればいいかを忘れたが、まぁ、5つだけだし。
ゴルドは、思考を放棄した。
この意味不明さに煩わされるのも、己の精神鍛錬の一環だと思いながら。
その台詞に悩む素振りが、その男から見えたが、あっさりと答える。
「まぁ、あの会長のことだ。いいだろう。ただ、変な真似はさせるなよ」
そう言って、この研究会の会長の下へと向かうことになった。
◆ ◆
会長の下へと歩く途中のことだ。
カツカツと音をたてながら廊下を歩く。
それと同時に俺は周囲を観察していた。
護衛という仕事の基本だ。
歩き方や佇まいから、相手の強さ、癖、職種を見分ける。
勿論、耳も使って会話に耳を澄ませることもある。
が、今はその会話もない。耳に入るのは、カツカツと響く、靴の音だけなのだ。
この空気に耐えれなかったのか、リーダー格の男が口を開く。
「ゴルドといったか? お前は、目の前で空間が砕ける瞬間を目撃したはずだ」
「そうだな」
「では、何故驚かない?」
「……いや、途中で止めたら負けだからな」
過去の自分を超える為に頑張っているのに、止めるワケがない。
「……?」
リーダー格の男は、何言ってるんだコイツという目線で俺を見る。だがしかし、「こっちが、そう言いたいわ!」
数秒間の沈黙が流れ、会話の矛先はカインへと向く。
「おい、カイン」
「何でしょう?」
「お前も含めてだが、変な奴しかいないのか?」
……心外だ。
己の心を磨くのは誰しもがやっているはずだ。
「……まぁ。オレもってとこが引っかかるけど」
カインは苦笑しながら答え、リーダー格の男は額を手で押さえた。
「……そうか」
沈黙の間を過ごし、目的地である扉の前に着く。
「会長、ティールです。試験合格者をお連れしました」
「入れ」
その声が聞こえ、俺達一行は会長室に入った。
部屋の大きさは七畳程で、装飾は、木目調一式の書齋といった感じ。壁面には本棚が付いていて、本棚の本のほとんどが過去の研究会員の文献とか、調査資料で一杯だった。あと、魔術研究会と名乗るだけあるのか、魔法陣のタペストリーが空いている壁に飾られていた。
「思ったより小せぇんだな」
俺は素直に思ったことを口にする。
護衛と言う職ではあるが、何というか、カインがこの組織に馴染んでしまっている感じが凄くて、警戒することを忘れるんだ。
「よせ! 会長に失礼だろ!」
さっきのが失言なのか、リーダー格の男に怒られた。
「まぁまぁ、君達、ようこそ、いらっしゃい」
会長つまり手紙の差出人、すなわちゲイツは一応警戒対象だ。しかし、その挨拶は先程の「入れ」とは違い、柔らかい印象を受ける。しかし、値踏みするようなジトッとした視線を感じる妙な感じだ。冒険者でも騎士でもない感じ。学者のような細身ヒョロヒョロなのに、その視線を感じると背中がソワソワした。こういう手合いはウザいから嫌いだ。
よって、第一印象より、俺の中の危険人物に認定した。
「君が噂の神名持ちかな?」
「そうですが、何か? 早く帰りたいのですが」
……早く帰りたかったのか?
ゴルドは、危険認定した直後にはみ出した答えを聞いて、「は?」となった。
「まあまあ、そうせっかちするんじゃない。
君は一年生でというよりは7歳児だ。何で此処にいるか分かるか?」
「ミレニアの推薦を受けた貴方が手紙を書き、呼び出された試験で不思議なことをして、合格して此処に連れられて来たから、ってかんじかな」
「成る程。経緯は理解しているんだね。でも、私が聞きたいのはそこじゃない」
「違うのか?」
「ああ、私は、何故君が選ばれたのか、を聞いている。ミレニアからの推薦だけで、君を面倒くさいマッチポンプ試験に掛けるわけがない」
俺含め、リーダー格の男やその取り巻きは黙って聞いているしかない。
「……神名持ちだから?」
カインは首を傾げながら答える。
……本当に帰りたいの? バカ真面目に答えちゃって。
本当に帰りたい奴は、こんな問答には付き合わないのに。
「半分正解だ」
会長は頷いた。
……半分は合っているんだ。
ゴルドは、思考を放棄した(二回目)。
「だが、神名持ちは歴史を遡れば帝暦前も含めれば何人でもいる。ただの珍しい存在ってだけだ」
「へぇ」
カインは、どうでも良さそうに返事をした。
「私は興味を持ったのだよ」
会長は突然脈絡もない言葉を出す。
「君の思考にね!」
その笑みは、やはり背筋が冷えた。
俺は今まで色んな奴を見てきた。
金に狂った商人。
名誉に狂った騎士。
力に狂った冒険者。
だが、こいつは知識に狂っている。
剣を抜く訳でもないし、魔法を撃つ訳でもない。
目の前にいるカインという存在を知りたいのだろう。
解剖するように。
分解するように。
頭の中まで覗き込もうとしている。
そんな種類の狂人だった。
「なるほど」
カインは特に気にした様子もなく頷く。
……いや、なるほどじゃねぇだろ。
普通はもう少し警戒するだろ。
だが、カインと出会ったときからそうだ。
俺が危険だと思う奴に平気で近付く。
そして、大抵の場合。
危険なのは相手の方になる。
……本当に意味が分からん。
七歳児とは到底思えねぇし、かと言って大人とも違う。
何かを知っているようで、何も知らないような顔をする。
だからこそ、会長も興味を持ったのだろう。
正直、俺にはもう、どうでもいい。
研究だの思考だの哲学だのの難しい話は頭が痛くなる。
はっきり言って、そんなものより、美味い飯の方が大事だ。
俺は護衛だ。主が危なくなったら殴る。腹が減ったら食う。
筋肉が足りなければ鍛える。
それで十分だろう。
カインとゲイツの会話よりも気になる事がある。
今日の夕飯は何だろうか。
エリアールのことだ。
きっと美味いものを作っているに違いない。
うん。
やっぱり俺は、研究会とかいう面倒臭そうな場所より、部屋の食時が好きだ。そう思いながら、俺は静かに腕を組んだ。
護衛の仕事は、まだまだ終わりそうになかった。
ゴルド、思考放棄、後、会話実況。
その後、妄想入り。
大丈夫かな、この護衛。




