盗賊
煮込み料理を堪能していると、ジョンさんが、
「実は、イリーサお嬢様は、とても我儘で横暴な令嬢だと聞いていたんですが、噂は当てにならないな」
と言う。アーサーさんもソランさんも頷き笑っていた。
『私ってどこまで悪役令嬢って広がっているの?』
「いいえ事実です」
と言うルイ。執事のくせに。フォローがないのよ。
「いいえ、お嬢様は、夢中になると周りが見えなくなるだけです」
とリリアンがフォローしている。話してるところにジェフリー様が来た。
「リリアン、お財布が戻ってくるのは難しいかもしれない。知らなかったのだがここ、コロイド領も今、内政が荒れていて警務隊も町の警備が手薄になり、領政警備に回されているそうだ。今日は、出歩かない方がいいな」
と伝えられる。コロイド領ってどこかで聞いたことあったが、今は、リリアンが落ちこまないようフォローしなければいけない。苦笑いするリリアンに、次の領地では何食べようかとか、違う話題を振って気分を紛らわしていた。
賑やかで楽しそうに見えていた町も影があるのだと意識する。あんな子供が盗みをして生活をする、そんな悲しいことを見て見ぬふりをしなければいけない私も落ち込む。
その日の夜は、なかなか寝つけなかった。
「お嬢様、起きて下さい。朝です。出発しますよ、イリーサ様」
とリリアンが起こす。眠い目を擦りながら窓の外を見るがまだ日が明けてない。
「出発の時間が早くなりました、さぁ、用意しますよ」
と腕捲りし、顔を洗わされ髪を整えられる。今日は、なんだか、髪が重く感じるので三つ編みにしてもらう。
「お待たせしました、皆さま」
とリリアン。
「おはようございます」
と挨拶をして、すぐに宿を立った。
ソランさん達がまた三方向を守ってくれ、馬車の中では、ルイがジェフリー様に
「大丈夫ですか?警備隊は、まだ手薄ですか?」
と質問していた。
「悪いと言うより悪くなりつつあるというべきかな」
と言い、私は、
「私のせいですか?」
と聞いた。ジェフリー様は私を見て、
「コロイド侯爵も随分派手にお金をばら撒いていた節があるし、娘のイザベラ嬢が婚約者候補を外されて、内輪揉めが激しいようだ。詳しいことはわからないが、狙われないためにも出発時刻を変えたのさ」
と少し私を気遣って話す。
「いいえ、皆さまに迷惑をかけているのは、私ですね、申し訳ないです」
「朝早くにしたから眠かったら寝ていいよ」
と言ってくれる。窓の外をみると、日が昇り、外の景色が一気に色がつく。草も木も土色も鮮やかに光を浴びる。
ガタガタ、ガタガタ馬車は走る。昨日とリズムが違う。こんな時出し、みんな気が立っているかもしれないが、念のため
「ジェフリー様、御者って昨日の方と変わりましたか?」
と聞くとジェフリー様は、目を大きく開け、ルイも驚いた顔して
「何故、そう思った?」
と聞いたから、
「昨日の馬車の運びと今日の方の馬車運びのリズムが違います」
と言うと、すぐにジェフリー様は、御者に向かって馬車を止めなさい、と言った。すぐに馬車を止めない御者に、ソランさん達は、なんだと近寄って来た。ジェフリー様が、ソランさんに
「馬車を止めてくれ」
と言い、ソランさん達3人がかりで御者に止めさせ、ジェフリー様が外に出て行く。
「決して扉を開けてはいけないよ」
とか言われ、緊迫感が漂う。
みんなの顔が怖いぐらいだ。
「ルイ、こんな時に言う事じゃないけど、お小遣い私にも頂戴」
と言うと、信じられないという顔で私を見た。
「万一にも盗賊に脅された時、お金を持ってたら少し状況は変わるかなって思ったのよ」
と言うとルイは、しぶしぶ、銀貨2枚を私とリリアンに持たせた。
「確かに万一はありますね。いい判断ですお嬢様」
貰った銀貨をすぐ履いている靴下の中に入れた。それを見たリリアンも同じく靴下の中に隠した。
馬の蹄の音が聞こえる。
『盗賊』
ジェフリー様が駆け寄って、ルイに
「盗賊が来たようだ、馬車は操縦出来るか?」
と聞き、
「やります」
とルイは、すぐ扉から出ていき鍵を閉めるように言われる。頷く私達。乱暴に走りだす馬車にソランさんが護衛してくれる。リリアンは神に祈るように私に、大丈夫ですからと何度も繰り返し言う。
荒れる馬車に心臓は、バクバクする。こんな時でも切迫する音に興奮する。
『なんて激しい音なんでしょう』
すると、金属のぶつかる音が聞こえる。見てはいけないと思いつつ、窓の外を見る。ソランさんが誰かと争っている。馬車は道からはずれ、木や草がおおい茂る道へ逸れる。すぐに止まるとルイが
「急いで降りて茂みに隠れて」
と言う。
言う通りに慌て降りる、リリアンの手を借り、踏み台棒は茂みに投げる。
降りたの見届けるとルイは、草の道から馬車道に戻るようだ。
『囮だ』
私達に少しでも時間をくれた。
「リリアン行くわよ」と木々が生い茂るなかに足を引き摺りながら入る。リリアンが踏み台棒を拾ってきてくれて助かった。
こんな時こそ冷静に、なのに心臓の音がうるさい。
水の音?
「リリアン、こっちよ」
人は、水が有れば多少は生きていけるはず?
「こっち」
蔦や茂みの高さが私の胸以上の高さになり足元も見えないがひたすら進む。リリアンが心配そうだ。
「リリアン頑張りましょう」
と声をかけ、30分以上歩くと、滝があった。




