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43話 番外編③ 冷やし中華はじめました

お待たせしました。

「ダン長! ただいま戻りました!」


 昼過ぎの無人の魔女の家、買い物を終えたリンとフリッカが籠を携えて帰宅する。リンの修業をより高みに導くべく、彼らは買い出しとマギリアの好みのリサーチをしていた。


「おかえり、成果はどうだったか?」


 主が不在の室内から、彼らを迎える声が帰って来た。声に合わせて机の上で刻まれた顔が動く直方体の石塊、ダン長と呼ばれるこのダンジョンに魂が根付いた人間の声だ。


「師匠は僕の思ってた以上にあちこちで食べ歩きをしてたので、たくさんの声が聞けました」

「続ければアタシも、自分の金であんだけいろいろ食えるのかなー!」

(口の食べかす……あちこち回ってたら村人から差し入れもらったんだな)


 成果を嬉しそうに話すリンだが、因縁のある魔女の話題に触れたはずのフリッカの機嫌も悪くない。ダン長が目を凝らすと、フリッカの口元に食べかすがついている。『魔女様のおつかいとは偉い』と勘違いされたか、彼らが村人から食べ物を貰ったと彼は想像する。


「それで師匠は、苦い物がダメってだけで全体的に甘いのも辛いのも酸っぱいのも好きだそうです。ただ揚げ物屋のおじさんが言うには、店で初めて買ったコロッケで舌を火傷してから熱いのを警戒するようになったみたいですね」

「先週にリンが作ってたコロッケを嫌がるそぶりは無かったが……不意打ちで熱いのがダメなのか?」

「たぶん」

(つまりマギリアは苦くさえなきゃよくて、初めて食べさせるのは熱いのは警戒するんだな……)


 ダン長は村での聞き込みから要点を整理していく。


「よし、リンに教える最初の料理はだいたい決まったぞ。さっそく調理道具を持って中庭に移動だ」

「はい!」


 隠れて作る都合上、マギリアが忘れ物等で急に帰ってきてもいいよう外で作業することとした。





 中庭で始まるリンの調理実習。地面に置かれたのは水瓶がふたつに熾燐の簡易コンロ、まな板の乗った机には買ってきた卵に小麦粉、各種調味料と包丁や麺棒などの調理器具が並ぶ。 


「ところでダン長、これは……うどんですか?」

「うどん? あたしが生きてた頃でも普通にあったぞ?」


 卓上のラインナップを見て尋ねるリンと訝るフリッカ。小麦粉と麺棒からレシピをうどんだと連想する彼らだが、ここはマレビトと呼ばれる現実の日本人が何十人も召喚された後の世界。現代の食文化が流入してもおかしくはなかった。


「惜しいな、俺が横で手本を見せながらやるからリンは横で同じようにやってくれ」

「は、はい」


 ダン長は念動力がごとく道具や食材を動かし、リンに手本を見せる。水瓶から水を掬い塩を混ぜ、小麦粉と卵と一緒に混ぜ始めた。リンはそれを見てとり、同じように混ぜた生地を捏ね始める。


「わ、黄色くなってきた!」

「ああ。この水瓶の底に沈んでいるのが木や草を焼いた灰だ。上澄みの水を使うと麺が黄色くなるんだ」

「は、灰? 食えるのかそんなの……」


 捏ねるにつれ黄色くなる生地に驚くリンとフリッカ。彼らがおつかいに行っていた間に野焼きをしていた跡の灰を水に混ぜていたのだ。今でも沖縄の一部では、草木灰のアルカリ成分を利用して伝統的な沖縄そばを作っている店もある。


「よし、リンの方も捏ね方は順調だな! あとはフリッカ、この冷蔵庫に氷を詰めてくれ!」

「あ、ああ!」


 リンの筋力と体力も生地を捏ねるのに申し分なく、横で作業するダン長の分に遜色がない出来になっていく。二人でそれぞれ捏ねて滑らかになった生地をダン長が予め作っていた氷冷蔵庫に入れ、フリッカが上の段に氷を詰める。


「――30分、じゃあ取り出した生地を滑らかになるまでひたすら麺棒で伸ばす!」

「は、はい!」


 寝かせた生地に打ち粉をふりかけ、麺にコシを与えるために麺棒で伸ばす作業を始める。ダン長は物体移動で簡略化しているが、横のリンは額に汗かき麺棒を手繰り生地を伸ばす。


「生地を伸ばしたら、次は出来る限り薄く縦に延ばしてから細切りにして束にする!」

「えっと、うどんを作る要領ですね?」

「ああ、それよりずっと細く切る」


 リンとダン長は卓上に薄く伸びたそれぞれの生地を切り始める。一定の厚さで切り出す作業に慣れているダン長は機械のような精密さで均等な幅の麺を作っているが、リンの方は慣れない麺の幅に苦戦しているようだ。作業を終えた後は再び氷冷蔵庫に入れて、切った生地をしばらく寝かせることとした。


「よし、切った麺を寝かせている間に具材の調達だ。家にある燻製肉や買い置きの食材を細切りにしていこう。それと卵もまた使って……」


 麺を寝かせる間に他の具材を調達するダン長は魔女の家から肉といくつかの野菜を取り出して、リンに細切りにさせる。卵については『今度また教える』と言っていくつかの調味料と卵を混ぜたものを熾燐のコンロで焼いて細切りにする。


「――寝かせて2時間、こいつを茹でれば『中華めん』の完成だ! 家庭料理の大きな味方、こいつがあれば家の食事が一気に変わるぞ」

「すごい、黄金色に輝いてますね!」

「なんか聞いたことがあるぞ、『らーめん』ってやつの麺だこれは!」


 麺を寝かせている間に他の具材を調達し終わり、時間をおいて氷冷蔵庫から完成させた麺を取り出す。ダン長とリンが製作したのは中華めん。小麦粉にかん水を練りこんだ独特の食感とコシがある、現代人には非常に馴染み深い食材である。


「ああ、ラーメンの麺だ。マギリアが村にかつてマレビトが屋台を引いて来たことを振り返っていたな……作る側の面倒を考えれば、現地に普及が遅れるのも仕方ないか」


 ダン長は反応を見ながらひとりごちる。記録上でラーメンを日本で初めて食べた有名人は水戸黄門と言われているが、15世紀にラーメンが振舞われたという資料も残っている。その一方で民間でラーメンが人気になったのは鎖国の影響もあって20世紀に入ってからという遅さだ。作り方を知っているマレビトがいても情報の伝達が遅い現地に受け入れられ、普及するかどうかは時と場合次第だ。


「だがまあ、熱い物を警戒するマギリアにアツアツのラーメンを出すわけにもいかないだろう。それにラーメンやるには時間が足りん。俺が教えるのは酢と醤油と砂糖があればその場で作れる」

「酢と醤油と砂糖……ですね?」


 ラーメンの選択肢を捨て、この中華めんを別の料理に活かすとダン長。


「肝心のこいつのタレだが……ここからの配合は教えることはできん」

「「なんだって!?」」


 順調に調理を続けていた思いきや唐突に限界を伝えるダン長に驚きを隠せないリンとフリッカ。味付けは料理の出来を決める最重要なものだが、マレビトの知識を授けられないとダン長は言う。


「大雑把な分量はわかるんだがな。こっちの醤油や酢が、俺の世界のと同じ味がするか保証できないしな……そしてなにより……」

「なにより?」

「俺にはもう、味がわからないんだよ」


 ダン長は己が味付けに関与できない理由を淡々と告げる。リン達は声にこそ出さないものの、その表情から動揺が見て取れた。


「味覚の再現だけはダメだったんだ。食事はやはり、生きる者の特権だと思い知らされた」


 食というのは舌のみで味わうにあらず、空腹感と満腹感の相関、命を繋ぐ喜びを享受する生理的娯楽の側面がある。飢えれば普段より貧相な食事すら美味に感じることもある。

 対してダン長には、満腹による充足もなければ餓死の危機が無い。生者のための食という喜びを共有する術を持たないのだ。


「ふーん、あたしはフツーに腹も減るし飯も食うけどな」


 ダン長に対してフリッカが言葉を返す。同じ死者とはいえ、魔素を与えられて再構築された魔物とは勝手が違うようだ。


「ダン長、僕にご飯の作り方を教えてくれるのに……もうご飯食べられないんですか?」


 リンが心配げな視線を投げかける。ダンジョン運営当初にキルトが買ってきたドーナツをリンの目の前で断ったが、付き合いの長さから彼の中でダン長が食を楽しめない重大さが彼の中で増していた。


「気にするな。俺がその場に参加できなくても、リン達が楽しんで食べている姿を想像すれば、俺もその楽しさを共有できるものだ」

「ダン長……」

「配布したシナリオの名前をエゴサして『楽しかった』って感想を見つけると自然と口角が上がるようにな」

「よくわからん例え出してんよ……」


 共食できなくとも、食の喜びを分かち合うことはできると告げるダン長だが、馴染んだアナログゲームを例えに出すも、余計わからなくなったフリッカを呆れさせる。


「ということでだ、リンはリンの『美味しい』をぶつけてやれ」

「わかりました!」


 ダン長に背中を押され、リンは味付けの試行錯誤を始める。その間に日が沈み、マギリアの帰るであろう時間が近づいてくる。






「あー動いた、普段より痩せてる! リン、飯はまだか?」


 夜の帳が降りたラビス迷宮基地の魔女の家。帰宅早々、カロリーを使ったことをアピールしながらマギリアはリンを呼ぶ。声に反応して台所から頭一つ背の低い弟子が夕飯の皿を持って現れる。


「師匠、お疲れ様でした」

「おや? なんか上機嫌だな」


 リンは気分よさげに室内を歩き回り、食器を並べたり茶を淹れたりしながら食卓をセッティングしていく。何も知らされていないマギリアは普段と違う彼の様子に疑問を呈する。


「ええ、ダン長が料理を教えてくれたんですよ」

(ダン長が唐突に食文化を聞いてきたから何かあると思ったが……まさかリンにチンコロは無いよな?)


 リンの返答でマギリアはダン長との昼のやり取りを思い出したらしく、愚痴を密告されたのかと一瞬眉をひそめる。


「マレビトの世界の伝統的な麺料理、『冷やし中華』だそうです」

「ヒヤシチューカ……なんとも皿の上に花が咲いたような」


 二人の眼前の皿から季節を選ばず温暖なダンジョンの気候に不釣り合いな冷気が漂ってくる。皿に盛られた黄金色の細麺のさらに上に、細切りのハム、錦糸卵、野菜数種が放射状に並べられている。そして具材の上から垂らされた濃い暗赤色のタレが、色を変えるとともに酢醤油の淡い匂いを鼻腔に届ける。


「さ、ぬるくなる前にいただきましょう!」

「ああ、いただきます」


 師弟は食事を始める。ベロを火傷しようがないだけに、マギリアは好奇心に駆られてタレの絡んだ麺をフォークで絡め口に運ぶ。


(っ! 匂いの正体は酢と醤油の混ぜものか、酸味と辛味がこの食べ慣れぬモチモチの麺に絡んで……口に沁みる!)


 麺を一口運んだマギリアが目を見開く。酸味と辛味の調和をウェーブがかった麺が余さず掬い上げ、口内に爽やかだが決して軽くない刺激を届ける。


「この黄色い麺、昔マレビトが作ってたラーメンのと同じらしいですよ」

「そ、そうか……私がラーメンはもっと赤くて熱々だったと記憶していたが、冷たい料理にも合うんだな」


 リンの言葉を聞きながらマギリアは己の思い出を振り返る。麺は茹でた後に氷でしめたことで、独特の弾力が生まれている。燃えるような赤いスープの熱さと辛さに苦戦しながら必死に麺を手繰っていた記憶を呼び覚ましながらも、彼女は麺の海に蓋する具材たちに手を伸ばす。


(ハムがボリュームを補い、薄切り卵焼きの甘味が酸味と対比する。そしてよく冷えたパリパリの野菜が味の奔流で濃くなった口内を洗い流す! これがマレビトの料理、ボリュームから味の濃淡まで一皿の間で計算されている)


 夢中になってペース配分を無視してフォークを進めるマギリア。弟子をとってから潰れがちになった休日の道楽が一時的に帰ってきたのだ。


(なにより、バラバラの食材をまとめているのは独特のヒヤシチューカのタレだ。麺には刺激的なめんつゆ、肉にはソース、卵焼きには掛け汁、野菜にはサラダドレッシング。あらゆる具材に違う顔を見せながらも、持ち味を活かしつつ調和を生み出している!)

「ごちそうさまでした……」

「食べるの早っ!」


 リンの皿の減りが半分を過ぎた頃には完食し、彼女は離れたソファで食後のお茶で身体を温めていた。


「いやぁダン長、久々に味わったマレビトの料理は中々よかったぞ」


 マギリアが一口飲んでカップを卓に置き、膝に連絡用端末を乗せてトントンと指で弾く。触覚センサーに反応して石塊にダン長が宿る。


「感想を俺に言うのは筋違いだ。こちとら横で手本を見せただけで、作ったのはリンだ」


 食事中は席を外していたダン長が、ダン長が作らせたというマギリアの誤解を正す。


「ほほぅ、リンにそんな味覚があったとはな」

「ダンジョンで暮らし、村で美味しいものを食べられるようになったからだろう。リンの『美味しい』感性を育てたのは、間違いなく師匠のアンタだ」

「むぅ……」


 ニアとエッダの騒動でリンを安全に村に出せると分かって以来、彼を遣いに出す時にマギリアは余分に駄賃を渡していた。彼の過度な節制癖のせいで表出することこそなかったが、当の本人すら無自覚に舌を肥やしていたのだった。


「はーっ、しかしリンがここまでしたということは……私の愚痴はリンに伝わってしまっていたか」

「フリッカが盗み聞きしていてな。あいつも料理を手伝ったんだ、許してやってくれないか」


 隠蔽の失敗を察してため息をつくマギリア。氷魔術の心得の無いリンが温暖なダンジョンで冷えた料理を作るには、フリッカの助力は欠かせない。彼女が今日の一品に協力した事実を添えて、ダン長は代理で許しを請う。


「ヒヤシチューカが食えたからいちいち怒らん。しかし、リンも愚痴ひとつでそこまでするか……」

(こうして子どもは周りから勝手に学ぶものか。あやつの枷にしようと押さえつけても無駄なら、いっそ……)


 マギリアは昼間の葛藤を思い返す。ダン長をダンジョンに留める為にリンを弟子にしたはいいが、それが災いして将来的に巣立つ時の彼女の心配事になった。


「師匠、お茶のおかわりはどうですか?」


 思案するマギリアの前でポットを持ったリンが声をかける。先の会話の間に彼は食事と洗い物を終わらせ、茶が空になったのを見つけたようだ。


「ん……ところでリン、今の修行に不満は無いか? リンは私よりも体力があるし、もっと学べる時間を使ってやりたいこともあるだろう」


 おかわりを受け取ったマギリアが改めて話題を切り出す。両者の体力差は修行を始めた初期からついて回っていた問題だった。山育ちで薪を売りに頻繁に村と往復していたリンと、長生きで成長限界がきたマギリアでは埋められない差があった。


「師匠……実は僕も修行のことで言いたいことがあって……師匠が元気無いって言われて、僕のせいでお時間を圧迫してたんじゃないかって」


 リンもダン長達と企てたプレゼント作戦が順調と見るや、己の意見を述べる。愚痴の密告が知られた以上、隠すべき手札は熾燐を勝手にコンロに改造したことを除いて何もない。


「アクアさん達に僕の修業を手分けしてもらうのはできないでしょうか? 向こうがいいって言ってくれるかまだわからないけど、どちらにせよ師匠に言わないと……」


 ダン長が提案した修行分担の順序は、まずはマギリアを説き伏せて地固めを済ませるというものだった。彼女はその希望を神妙な面持ちで聞いていたが、次第に口角を上げる。


「ククク……さてはそれもダン長の入れ知恵だな?」

「わっ……師匠!?」


 マギリアがリンを膝の上に乗せ、撫でながら身体をくすぐっておちょくる。急に抱きかかえられてまさぐられるリンは、笑いをこらえるのに必死だった。


「お前の気持ち、よくわかった。リンを出汁にしようとした私が間違っていた……これからは、ダンジョン総出で育成できるよう計らってやる」

(ダン長をダンジョンに繋ぎ止めるのは、他の手段を探すか)


 マギリアは幼子をダン長を繋ぎ止めるカスガイにしようとしたことを省みる。「リンが一人前になったらダン長が消えない理由が無くなるぞ」と直接リンに言えないだけに、彼女自身ももどかしい思いで両者の間に挟まっていたのだろう、食事中よりも嬉しそうな表情を見せている。


「出汁? まさか師匠って僕を食べようと――」

「他の連中に私からも交渉してみるということだ! 私にあの包帯みたいな解説をさせるな!」

(こっちの交渉は成功か、あとは向こう側の説得だな)


 一歩前進した師弟の騒ぐ姿を傍目に、ダン長は課題がひとつ消化されたことを確認した。







 翌日、迷宮基地の酒場に守護モンスターが全員揃って召喚された。そのホールの中央にダン長が縄で縛られて天井から吊るされている。その身には1枚の張り紙がくっつけられており、ダン長の所業を綴った文字が書かれている。


『私は無断で熾燐を持ち出してコンロに改造しました』


「マギリア、これは?」

「実のところ、あんな安物の石ひとつで私は怒ってはないがな。ダン長が酒場にアレと同じものを作れば、リンの教育を手伝う手間以上の見返りがくるぞとぶら下げた餌だ」


 迷宮内に偏在するダン長を縄で縛ることなどできないのだが、実のところ罰に見せかけた酒場のサキュバス達へのアピールだ。ダン長が吊るされている真下のテーブルには調理に使った熾燐のコンロが再現されており、上に乗った鍋がグツグツと中の湯を煮立たせている。


「しかしまあ魔力に応じて発熱する性質を利用した熾燐の熱源への活用、技術的にはあと一歩のところにまで達していたのだがな。とは言っても術者が直接触れていては熱くて魔力を注入し続けることは至難の業だ。そこでファンタリオ王都の魔術研究科ではガラス管の中に熾燐を入れ、中を魔力を通すスライムの髄液で満たして直接触れずに熾燐を加熱する機構を開発していたんだ。まあこれは温度上昇によるスライム液の膨張にガラスが耐えられず割れる失敗が頻発して未だに最適な分量の研究中らしいが……熱さを感じなければスライムの介在も必要ないダン長がまさか熾燐の熱源活用の先駆者となるとはな? 今の気持ちはどうだ?」

「そうだね」


 魔術に関して語り出すと台詞が長方形になるマギリアの悪癖を聞き流し、ダン長は当のサキュバス達の反応をうかがう。


「うわ、そんなもので火の代わりになるなんて! これは燃料代が浮くわね」

「いいね……着火は魔術で出来ても、出し続けるのはめんどいから」

「リンちゃんばっかずるいー! 私もこんなマレビトのお料理知りたいー」


 期待通り餌に釣られ頭の中でソロバンを弾くアクアと、火を熾す面倒を振り返るイグニス。ウェンティはどこ吹く風で卓上の冷やし中華を堪能しながら吠えている。


「フン、マギリアだけでは近々持て余すとは薄々思っていた。よし、我輩も食べた分ぐらいは教えてやろう」


 低く響く声で己の端末に宿るダン長に話しかけるのは透明人間のキルトだった。彼らに振舞っているのはダン長がリンの横で作って見せた手本の分だ。


「皆にも負担を強いるところもあるからな。その分、俺からも生活のサポートを惜しまないぞ。手始めに今皆に振舞っている中華そば、こいつを使ったマレビトの食文化を根底から変えた最高の保存食を紹介しよう!」

次で番外編が終わって、次々回より再びダンジョンクラフトに戻ります。

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