■謎の男編 その3
以下独白。
なかなかいいところ突いてくるな。
もちろん理由はあるさ。
それというのもこの間、東京でヤバイ連中を相手にいっぱい引っ掛けたわけだ。
いうまでもなく仕事はリスクが高いほど見返りはでかいからな。
が、しくじっちまった。
いかな一流のアーティストといえども、駄作もあれば失敗作もある。
いわゆるマンネリってやつが起こしたスランプだな。
例えばだが、あんた音楽は好きか?
そうでもない?
なら画家でもいいや。
有名な画家の作品なんかでも、そういったものをいくつか見たことがある。
かつて自らが描き上げた作品の自己模倣、洗練されてはいるが新味は皆無、ただきれいな絵の具が塗ってあるだけ……余談だけど、俺はちっとは絵にうるさいのさ。
美大を目指していたが、バカらしくてやめた。
それはある美術の時間での出来事だ。
「お前自身を描け! 感性赴くままに!」
なんて先公がのたまったわけだ。
で、俺は白いカンバスに白い絵の具と水で絵を描いたんだが、その作品はなぜか評価はされなかった。
なんでだろうな?
好きなものを描けって言うから描いたのに、あろうことか怒られちまったんだからやってられんよ。
その不自由さに嫌気がさしたのさ。
おっと、話がそれたな。
で、そこには緊張感もなければ、なんら訴求するものすらないわけだ。
そう、緊張感さ。
大事なのは。
こいつがないと神経が張り詰めない。
気分も高まらない。
よって自ら墓穴を掘る。
俺は油断してしまったんだよ。
一流であるという自負に潜む慢心によってな。
そして都会を追われ、逃れるように田舎から田舎へ。
そうして落ち着いたのが、このきた道の先にある某村ってわけさ。
金はなかった。
株ですっちまった後なだけに、悪いことは続くと思ったよ。
そんなこともあって、隠れるにも生活するにもいいと思って田舎を選んだ。
なんといっても家賃だとかが安いしな。
そしてなにより人がいい。
だから、俺のようないかがわしい人間でも歓迎してもらえたわけだ。
逆にそれだけ悪いやつもいないってことでもあるのだろうけどよ。
大体にして悪いやつってのは、田舎では暮らしてはいけないのさ。
ワルは刺激を求める存在だからな。
必然、田舎では満足できずに都会へ、ってな構図さ。
かつての俺がそうであったようにな。
で、当初はそんな暮らしに満足していた。
手品なんぞもできるんでガキどもにも人気があったし、それによって親たちも俺に対して信頼を寄せていた。
が、しかし、都会ズレした刺激を求める体質が、そんな平凡な日常つまり退屈を嫌ったんだ。
どうにかならないものか?
ただ、じたばたしても始まらない。
金がないことにはなにもできんし、田舎町になんてそもそも金もない。
都会は金の消費スピードが桁違いに速いからな。
そんなやりきれない日々を送っていたときに、ある話が舞い込んできたのよ。
言うまでもなく悪い話さ。
ある飲み屋で俺がいっぱいひっかけていたときのことだ。
見知らぬ男が話しかけてきたのさ。
だが、ピンときたね。
そいつが、かつての俺と同業であることにさ。
向こうもそれに気がついて話しかけてきたんだろう。
善良な人間が多い田舎では、嫌でも裏街道のオーラーは悪目立ちするからな。
あれと同じだ。
モスキート音って言ったっか?
ガキどもにしか聞こえないとかいう不快な音。
それと同じで、悪者も同じようなものを発信しているんだ。
悪者同士にしか分からない、存在感ってやつをね。
そいつは言ったよ。
この村の山寺にある小さな仏像は、なんでも希少価値のあるものだと。
どうやらそいつをかっぱらいたいのだが、なんかいい知恵はないか?ってね。
寺には常に住職やらなんやらが住んでいるので、忍び込むのは難しい。
で、そこで俺は一計を案じたわけだ。
俺の得意とする手品を使ってのマジックショーをやって、村人を一堂に集めるってね。
村人は娯楽に飢えている。
都会であればデパートの屋上でも閑散とするような企画ですらみんなは喜び、目を輝かすだろうとね。
もちろん、俺も大喜びさ。
久しぶりの詐欺、本領を発揮できるわけだからな。
ただ、そいつには言ったよ。
俺は仏像なんぞに興味はないから金を用意しておけって。
俺のこれまでの仕事からの経験だが、複数で犯行するときは宝石やら美術品やらその場で簡単に割れないものには手を出さないことにしているのさ。
言うまでもなく後の山分けのときに、いらぬ悶着を起こすことになるからな。
だから金を用意させた。
ことが済んだらそいつを俺に渡すってことにしたのさ。
山寺は山中深くにあるんで、一本道を利用するしか行き来することができない。
その道を使わずに無理して山を下ろうとすれば確実に遭難する。
だから、途中で待ち合わせることでお互いに合意した。
取り分は五千万。
その仏像とやらにどこまで価値があるのかは俺にはわからんが、俺お得意の人たらしで村人たちを呼び出すのはお安いことだった。
そこで、手品ひとつでも披露してそれだけもらえるのなら、こんなに美味しい話もないと思ったさ。
金は山腹にある誰も使っていない炭焼き小屋の屋根裏に、現金を詰めたアタッシュケースを各自で用意したナンバーロック式のワイヤーで二重に鍵をかけた。
こうすれば、お互いに裏切ることはないだろうと踏んでのことだ。
犯行当日は、その前の晩から降り続く雨にも関わらず大盛況だったよ。
もちろん寺の連中もほとんどが見に来ていた。
ヤツは昨日の晩から山寺付近で様子を見て、いけそうなときに忍び込んで仏像を拝借するという手はずになっていたんだが、手品を見に来ている顔ぶれを見て俺はこいつはうまく行くな! と疑いないく思ったよ。
ショーでみんなを喜ばせた後、俺は雨降りも構わずに炭焼き小屋へ急行した。
仕事はどう考えてもやつの方が早く終わっているはずだし、早く現ナマを手にしてこの土地からずらかりたいと思っていたからさ。
ほとぼりも冷めたころだし、都会に戻っても大丈夫だろうと踏んでのことだがね。
で、炭焼き小屋についたのは日も暮れだしたころだ。
だが、入ってみるともぬけの殻。
まさかと思って、俺はすぐにアタッシュケースを確認しにいったよ。
だが、ちゃんとあった。
てことは、ヤツがしくじったってことか?と一瞬思ったわけだ。
しかし、それは杞憂に終わった。
その後すぐに小屋の戸が開けられる音を聞いて一安心……ってわけにはいかなかった。
ヤツは仕事はこなしたが、体調を崩した。
都会暮らしの人間には、山の寒さが分からないらしい。
夏とはいえ、夜は相当冷え込むからな。
そこに来てこの雨だ。
ヤツはすっかり体力を奪われて、高熱にうなされてガチガチいっていやがる。
ヤツは俺に言ったよ。
火をつけてくれってね。
ただ、薪はあっても外は雨。
燃やせるような物は何一つないときたもんだ。
「苦しい。死ぬ」
ってヤツぁ床にうずくまりながら呟いているわけさ。
確かに凄い高熱だったね。
額に手を当てたらものすごい体温が伝わってきたからな。
しかし、どうすることもできやしない。
どうしたものかとお互いに考えていたんだが、ヤツはあることを閃いた。
なんだと思う?
なにって、金を燃やしてくれっていうんだよ。
コイツには驚いたね。
確かに死んでしまっては元も子もないとは、まさしくこのことさ。
で、俺はもちろん拒否した。
そんなことできるわけがないんでね。
そしたら、そいつは言ったよ。
五千万燃やしてくれたら、一億払うって。
思わず笑っちまったよ。
飛んだ錬金術もあるもんだってね。
で、その担保として仏像を俺に預けるからって言うわけだ。
そういう話なら、まぁ聞いてやらんでもないかと思って金を燃やしたよ。
どんな気分だと思う?
金を燃やすってことが?
ふふふ、それが意外やなんとも感じないんだな。
勿体無いとか思いそうなものだが、それが全然。
不思議だったね。
よく燃える。
そんな感想しか思い浮かばなかったんだから。
で、金を次々に燃やしている最中にこの顔がおかしくなる出来事に直面したってわけさ。




