■新興宗教編 その10~過去~
「よくきてくれたね」
館長は例の口調でCに話しかけた。
「いえ、こちらこそありがとうございます」
ありがとうといってしまった。
口を出てから気がついたが、もう遅い。
まぁいいか、という気持ちでもあった。
「で、私の話はどうだったかな?」
「ええ、とてもいい話でした」
「そうだろう。そうだろう」
中年の男が割って入ってきた。
うんうんと、うなずきながら。
「でも、もう少し薀蓄のある内容でもいいのかなとは思いました。知的水準の高い人を納得させるには、内容の稚拙さは否めません」
間髪いれずに、怒気をこめて中年男が言った。
「おい! 君、いったい誰に何を言っているのかわかっているのか!」
『もしかしたら、こいつが考えたのかな?』
それを冷静に受け流し、なおも続けるC。
「僕なら、もっといい説法を作る自信がありますけどね」
「貴様! 分をわきまえろ!」
吼える中年男を手で制する館長。
「ほう、おもしろいね。君なら一体どうするというのかな?」
館長の問いかけに対して、Cはつとめて冷静に自分の意見を述べた。
現在の教団のあり方、問題点、課題、そしてこれからについて、を。
この間の来訪の時に受けた印象とチラシの少ない情報から考えたことに加えて、先ほどの説法から感じたことをアドリブで加えつつ披瀝した。
中年男は黙ってCをにらみ続けている。
理路整然としたCの応答に反論することができないのだ。
『ふん、低脳が』
Cは視界の横に入り込んでいる中年男を見ることなく、蔑んだ。
「ふむ……君はなかなか面白い男のようだな」
見事なあごひげを手で垂直に伸ばしながら館長。
「ありがとうございます」
Cは素直な気持ちで感謝の意を述べた。
「なんでウチの信者に某大の前でビラ配りさせたかわかるかね?」
「……なぜでしょう?」
「簡単な話さ、君のような優秀な人材が欲しかったからだよ」
Cの心に言葉が刺さった。
ハートを鷲づかみにされ、強く握られている。
痛気持ちいい不思議な感覚。
『洗脳』
Cはこの甘美な誘惑に惑溺していたかった。
が、しかし、その時館長の口から出た言葉は意外なものだった。
「君は、洗脳されてはいけない」
『えっ?』
これには意表をつかれたC。
俺を洗脳する目的でここに呼んだんじゃないのか?
肩透かしを食らった形となり、なぜかがっかりしている自分に気がつく。
聞かずにはおれなかった。
「なぜですか?」
「いま我が教団に欲しいのは信者ではなく、有能なスタッフなのだよ。若くて聡明な青年たち。その力を借りればより多くの信者が入信してくることだろう。100の信者より1の能力者。そう、まさに君のような人だね」
館長との話は終わった。
本当はもっと話したい気分であったが、そこは空気を読んであきらめることにした。
帰り際に受付の女性からアンケートに答えて欲しいといわれたので、それに取り組んだ。
あくびが出るようなどうでもいい内容ばかりで、適当にパソコンのボタンをポチポチ押していったが、ひとつだけどうしても難渋した設問があった。
それは、
「あなたは神を信じますか?」
という一文。
「……」
『この設問、ここの信者たちはいったいどっちを選んだんだ?』
Cは大いに悩んだ。




