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■新興宗教編 その4~過去~


「淡白、心が読めない、ポーカーフェイス」


そう言われることはよくあった。

しかし、それらはCにとってはどちらかといえば褒め言葉だと思っていたが、その真意はいま父親がいったことと同意なのだろうか?


そう思うと、なんともいえない嫌な気持ちになった。


学校には真面目に通っていた。

いや、真面目にというのはCの生き方には該当しないかもしれない。

そもそも、サボるとか怠けるということを生まれてこの方したことがないCにとっては、逆に真面目ということも存在しないのだ。


親の教育や遺伝もあるだろうが、Cはダラケたり怠けたりすることは理解できないこととしてあった。


学校に行くと決まってそういう連中がいたが、それを見てCはいつも思っていたのだ。


『やつらはなんで、ああなんだろう?』


と。


楽であろうが苦しかろうが、時間は等しく過ぎていく。


それなら、濃度の高い時間を過ごす方がどう考えてもいいのではないか?

なぜ、熱中しないのか?

どうして強く、太く生きることができないのか?

と。


幼い頃から、勉強も運動もやるほどに等価もしくはそれ以上のものを与えてくれるものだということを誰に教えられるでもなくCにはわかっていた。


こんな当たり前のことすらわからない下等な連中をCはバカにするでもなく、不思議な生き物という目で見ていた。


感情も肉体も、思うようにコントロールできた。

だから怒鳴ったり威張ったりする先輩や教師たちも、やはり同様の目で見た。


しかし、そんなCの完璧ぶりを面白く思わない連中もいた。

Cは当然その連中のこともわかっていたが、手出しできないことも同時に知っていた。


Cは勉強はもちろんだがスポーツにも精通しており、格闘技もこなす手練。

悔しがりつつも、Cに楯突く者などいなかった。


しかし、一度だけ憤りを覚えたことがあった。


それは忘れもしない、中学2年の2学期の中間テスト。

科目は社会。

この教師はCのできのよさを認める一方、自分が作っているテストでいつも満点をたたき出されていることに対して、ちょっとした嫉妬を覚えていた。


そして教師自身はイタズラのつもりだったのだろうが、そんなつまらぬ対抗意識がCに生涯忘れることのできない事件として降りかかったのだ。


それというのもテストの問題におおよそ勉強とは直結しない、教科書の欄外に書かれている注釈を問題として出したのだ。


注釈まではノーマークだったCは、その答えがわからなかった。


結果、その問題は埋めることができず満点を逃した。


テストが終わった後、急ぎ社会の教科書のテスト範囲をくまなく探した。

しばらくかかって、やっとわかった。


Cは今でも覚えている。

世界史の教科書198ページの欄外に、小さく書かれているその西暦のことを。


『なんでこんなどうでもいい部分をテストに出したのだろう?』


その時点では単なる疑問でしかなかった。

しかし、答案を返されるときに、その真意がわかった。

教師はいやらしい笑みをたたえながら、


「98点!」


と、Cの点数を高らかに読み上げて手渡した。


「へぇ、アイツ満点逃したんだ」


「そんなこともあるんだねぇ」


教室内ではヒソヒソとCに対する哀れみや、ざまあみろ!といわんばかりの言葉がささやかれた。


それら外野の声は耳に入ったが、別段気にはしなかった。

それよりも、なぜこんな問題を出したのか? そっちのほうがCには関心があったからだ。


「先生、この問題をなぜ出したんですか?」


尋ねるCに対して教師は言った。


「お前を試したかったのさ。優秀なお前のことだから、教科書の隅々まで記憶していると思ったんだがな。ははは」


『えっ?』


「それだけですか?」


いぶかしそうに聞くCに対して、教師は勝ち誇ったような顔をしていった。


「そうだよ。それがどうした?」


『それだけの理由で?』


他にもいるクラスの生徒もこの教師の子供じみた挑発の犠牲となり、みな点を落とした。

俺だけではなく、クラスの全員が……。

コイツはそのことをわかっているのか?

ちっぽけなプライド、エゴ、嫉妬心……。


そうは思ってみたもののそんな正義感など実はどうでもよく、Cの心に傷を残したことはまったく別のものだ。


『なんという無力……』


そう、無力である自分に対してどうすることもできない激流のような感情が怒涛のごとく押し寄せた。


机に座り、太ももの上に乗せた手を力強く握り締めた。

テストは千切れんばかりにグシャグシャだ。


あんなクズに、いいようにされるなんて……。

ただ、教師であるという立場なだけで……。


わかっていたことではあるが、Cははじめて身をもって知ったのだった。


「上と下がある」


ということを。


頭が上がらない。

逆らうことができない。

そんな弱い立場にだけは絶対につくまいと、Cはこのときから今に至るまで決して忘れることなく生きてきた。


その日の答案は机の奥深く、誰にも見えない場所に隠している。

ときどき見つめては、そのときの感情を忘れないように、と。


人間は例外なく忘れっぽくて流されやすく、弱いものであることもCはわかっていたからだ。


とはいっても、Cはその答案を見るまでもなくそのことを忘れずに生きてきた。

いうなれば、その答案は楔。

忘れないことはわかっていたが、あえてつなぎとめておきたいものとしていつまでも取っておいたのだ。


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