■図書館の少年編 その1
20XX年7月18日 日本・某所 08:05
朝、目が覚めた。
というより、目を覚めさせられたというほうが正しい。
孝は体に何かが触れるのを夢見心地に感じた、が、それがすぐに現実のものであると気がつくや、すばやく身を起こして臨戦態勢に入った。
そこには背が小さく小太りで、かなり度の入った分厚い眼鏡をかけている少年が立っていた。手には枝のようなものを持って。
孝の険しい顔と攻撃を仕掛けてきそうな構えを見た瞬間、少年は突然情けない声をあげた。
「ま、待って! 僕はなにもしないよ。だから、殴らないで! お願い!」
孝は警戒を怠らず、少年に問うた。
「何の理由で俺を起こした?」
「し、死んでいるのかと思って。この間も同じように、寝ているかと思っていた人が死んでいたから、てっきり……」
警戒を少し緩め、なおも問う。
「お前は、ここで何をしているんだ?」
攻撃してはこないらしいことを確認すると、少年も気を緩めて話し始めた。
「僕はここで暮らしているんだ。家の中が危ない状態だったからね」
「家族は?」
「離れ離れなんだ。連絡もつかない状態……」
少年は、少し暗い顔を見せた。
「そうか……君の名前は?」
「名前なんて、顔を失ったときに一緒に消滅した。いまの時代、何の意味も持たないよ」
少年はかっこつけて、そういった。
まあ、多くの人にとってはそうなのかもしれない。
孝にとっての梢のような存在がいない人たちにとっては。
「ふん、いやな時代になったものだな」
孝はありのままの感想を述べた。
が、少年の意見は意外や違うものだった。
「僕はそうは思わないな。もちろん暴漢に襲われるという以前の日本では考えられなかったことに遭遇する危険はできたけど、それ以外は満足しているよ。いや、感謝すらしているくらいさ」
そんな少年の告白に驚きを隠せない孝。
「なんだって?」
「僕、いじめられっ子だったんだ。背が小さいし、気も弱いしね。かっこうのターゲットだったんだろうな。でも、みんな同じ顔になったら、そんな格差は完全に破壊されてしまった。君はどう? 同じ顔の人をいじめたいと思う?」
「いや」
元からいじめなどに興味のない孝だが、少年の言うことはなんとなく理解できるような気がした。
「それに余計な勉強や対人関係に悩まないで済むしね。ここで、好きな本を好きなだけ読める生活なんてのも悪くはないよ」
『こんな時代になって、逆に感謝している人間もいるんだな』
意外ではあるけど、そんなことも人によってはあるのか。
孝は思った。




