悪魔、家出する
はじめまして、蜜柑です。
数ある作品の中から、本作を開いていただきありがとうございます!
この物語は、中身は善良なのに、口を開けば禍々しい呪文しか出てこない悪役令嬢が、タフな精神で愛と幸せを掴み取る……予定のお話です。主人公ガチ恋勢になる聖女や男装の麗人である王太子(本当は男性)も出てきます!
毎日更新していく予定ですので、少しでも「面白いな」と思っていただけたら、お付き合いいただけますと幸いです。
人生二度目ともなれば、たいていのことには驚かなくなる。
たとえそれが、前世で子供を助けてトラックに撥ねられた直後の、異世界転生だったとしてもだ。
(まあ、あの子は助かったんだもの。悪くないわね)
思い出して、にこりと微笑んでみた。
「サビア、愛しの我が娘! 今日もなんて愛らしいんだ。このパパのために、もう一度だけ笑ってくれないか?」
「あなた、サビアが困っておりますわ。さあ、お母様が新しいドレスを仕立てさせましたよ」
透き通るような銀髪と、少し勝気そうな瞳を持った五歳の美少女。
アイザック公爵家の長女、サビア。それが今の私の名前だ。
ここは、前世でハマっていた乙女ゲーム『愛と闇のロンド』の世界。
キャッチコピーは、「その愛は、世界を救う福音か。それとも破滅への輪舞曲か」。
この世界には、悪しき魔女たちがいる。魔女といっても女とは限らない。
魔力の多い肉体には、人ではなく、悪魔の魂が入ることがある。
そして、悪魔の魂が入った肉体は、その魔力を何倍にも増幅させて、破壊の限りを尽くす。
ヒロインである光の聖女リリィが、世界を滅ぼす「悪しき魔女」たちと戦いながら、王都のイケメンたちと恋愛を楽しむ王道ファンタジー。
それが『愛と闇のロンド』、通称『アイロン』だった。
サビアは「悪しき魔女」筆頭の悪役令嬢である。
人よりも肉体の魔力量が多かったせいで、人の魂が入る前に、悪魔の魂が入ってしまった。
ここからがややこしいのだが、私がこの体で目覚めたときから、本来のストーリー通りに、「悪魔の魂」はいた。でも「人の魂」も入ってしまった。私だ。
私は悪魔とこの体に同居中なのである。
しかしアイロンかあ。勘弁してほしい。
魔女たちを完膚なきまでに叩きのめす聖女様。
リリィはぽやぽや系ではない、悪役ぜったい殺すマンなのだ。
特にサビアは王都を壊滅の危機にまで追い込んだから、聖力で精神を壊され、最後は無数の剣に貫かれて息絶えた。
『――なあ、サビア』
脳内に直接、少年のように透き通った声が響く。
悪魔の魂であるサビアだ。なあに、サビア。
突如、胸の奥が熱くなり、激しい眩暈が私を襲った。
「サビア!? どうしたんだ、顔色が……!」
父様の悲鳴が遠のいていく。
私の魔力回路を無理やりこじ開けて、何かが外へ抜け出そうとする衝撃。
意識が混濁する中で、悪魔の声はどこか名残惜しそうに揺れていた。
『ここ、出るわ。お前みたいな「お人好し」と一緒にいたら、俺まで毒されそうだ。……その魔力はやるよ。せいぜい、好きに生きろよ』
泥のような重苦しい気配が、霧散していく。
そのまま私は、深い闇へと落ちた。
◇
……次に目を覚ました時、視界に入ったのは見慣れた寝室の天蓋だった。
どれくらい眠っていたのだろう。
枕元には、泣き腫らした顔の両親が、私の手を代わる代わる握りしめて座っていた。
(……行っちゃったんだ)
さびしいな、と思った。
向こうはどう思っていたか知らないし、私なんか邪魔だったかもしれないけど、私にとっては戦友みたいなものだった。
体に残っているのは、悪魔の魂が本来のものを増幅させた、並外れた魔力量。
最後にぶっきらぼうに「置いていった」、悪しき属性。
これってどうなるのかしら。
私は悪魔ではないけど、聖教審問庁の魔力判定ではどう出るのかな。
「サビア、どこか痛むかい? 大丈夫だよ、パパがここにいるからね」
「お母様がずっと側にいますからね」
震える声で私を呼ぶ、この優しい人たち。
(悪しき魔女と判定されると処刑だよなー…)
「サビアは大丈夫よ、少し、喉が渇いたわ。パパ、ママ。温かい紅茶が飲みたいな」
自分にも言い聞かせるように微笑むと、両親たちの張りつめていた空気が、一瞬でほどけた。
寂しいけど、あの子がいなくなってしまったなら、ここからは私がやるしかない。
処刑フラグだろうが魔力測定だろうが、なんとでもしてみせる。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
魂の同居人だった悪魔が家出してしまい、一人(?)残されたサビア。
果たしてサビアは、残された強大な魔力をどうにかして、平穏を死守できるのでしょうか。
……ちなみに、サビアが放つ予定の魔法詠唱は、本人の性格に反して「ものすごく悪役」です。そのあたりも楽しみにしていただければ幸いです。
次回は明日更新予定です!
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