表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/51

第3章第6話:未解決のまま立つ(第3章 完結)

地方都市、Y市の夜明けはまだ遠い。

アジトの静寂の中で、麗子は姿見の前に立ち、再び「正義の皮膚」をその身に纏おうとしていた。

指先で慎重に手繰り寄せる、肌色の強化パンスト。その薄い膜が脚を包むたび、廃工場でブーツを脱がされ、剥き出しのつま先を弄ばれた時の透過刺激が、幻肢痛のように蘇る。

続いて、ロイヤルブルーのレオタード。第2章で「死んだ」生地は蘇生液によって弾力を取り戻しているが、麗子の心には、ゾルバの脂の臭いや、ゾディアックのねっとりとした指先の感触が、拭い去れない澱として沈殿していた。

「……っ、ん……あぁっ……」

腕を通し、レオタードが全身を万力のように締め上げた瞬間、麗子の喉から、情けない漏れ声が溢れた。

それは、昼間の教壇で見せる凛とした英語教師の声でも、戦場で正義を説くセイントレディの毅然とした響きでもない。

ゾディアックの「翻訳」という名の調律によって、理性を無残に剥ぎ取られ、絶頂の最中で無様に裏返ってしまった、卑俗で淫らな――自分自身ですら聴いたことのない「雌の嬌声」の残響だった。

(……やだ。着るだけで……私の身体が、あの声を求めて……っ!)

麗子の二つの突起は、レオタードの強固な着圧を「愛撫」として誤認し、鏡のような生地の表面に、鋭く、硬く突き立っている。特に右側の突起は、かつての絶頂を予習するように細かく痙攣し、彼女の敗北を視覚的に証明していた。

私は彼女の背後に立ち、その震える肩を静かに抱き寄せた。

「麗子……。あの時、君が上げた声も、その震えも……俺はすべて覚えている。それは君が汚れた証じゃない。君が、俺と共に地獄を歩き抜くための、真実の叫びだったんだ」

「健一……。でも、私の声は……もう、あんなに……汚れてしまったわ……」

麗子は、レオタードの裾ゴムを、自らの手で脚の付け根へと深く引き込んだ。

パチンッ。

鋭い音とともに、沈黙したままのブルークリスタルが恥丘を圧迫する。

かつては誇りだったこの「食い込み」の衝撃さえも、今の彼女にとっては、ゾディアックに調律された「消灯」の快感を呼び覚ますための、背徳のスイッチに過ぎない。

心は健一を求め、健一の温もりに救いを見出している。

だが、身体はゾディアックに刻まれた「条件」に忠実に反応し、正義の象徴である装備を快感の道具として受け入れてしまう。

この解決することのない、心と身体の凄絶な「ズレ」。

麗子はマスクを装着し、鏡の中の自分を見つめた。

そこに映るのは、かつてのような無垢な聖女ではない。

敵の愛撫に裏返った声を上げ、自分の装備に裏切られ、絶頂の廃人候補へと作り変えられながらも、それでも正義を捨てきれない、不完全で「濁った」ヒロインの姿だった。

「……行きましょう。私は、まだ……戦えるわ」

麗子の声は、再び凛とした響きを取り戻していた。

だがその裏側には、健一にしか聴かせることのない、ゾディアックの残滓に濡れた淫らな喘ぎの影が、消えない傷跡として刻み込まれている。

麗子は窓から夜の闇へと飛び出した。

ロイヤルブルーの聖衣は、風を切るたびに彼女の過敏な突起を擦り上げ、下腹部のクリスタルは沈黙したまま、彼女の不浄な熱を吸い込んでいく。

「心は健一、体はゾディアック」という逃げ場のない二重支配を抱えたまま。

セイントレディの孤独な、けれど「共犯者」を伴った新たな闘い――第4章の「変奏」という名の深淵が、今、その幕を開けようとしていた。

第3章 完結。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ