Ep.78.5 事実でも、言っちゃいけないことがある(フライ&キール視点)
「フローラに謝ってきたのかい?」
男子寮への帰り道。丁度フローラの部屋の窓の真下に当たる裏道に差し掛かった辺りでフライはキールにそう聞いた。ふっと唇を緩ませたキールも、自然な声音でそれに答える。
「えぇ。一方的な誤解と身勝手で、ずいぶんとご迷惑をおかけしましたから。殿下も、……今まで本当に申し訳ございませんでした」
「もういいよ、別に。フローラも許してくれたんだろう?」
「はい。『最高のミルクティーにあう紅茶をくれたら許してあげる』と笑ってくださいました」
「ははっ、彼女らしいな」
自然と声を溢して笑った初めて目にするフライの優しい微笑みに一瞬面食らってから、キールもメガネを押し上げて笑う。
「本当に、殿下は変わったお方に惚れられましたね」
「……っ、はぁ!?あり得ない。何を言うんだ、僕と彼女は友人だよ」
「えっ!?そうなんですか!?」
予想外の答えに目を見張るキールに対し、真冬なのに暑いのか手で自分を扇ぎながらフライがつらつらと語る。
「大体惚れるわけないでしょう、顔はまあま可愛いけどあんな色気も胸も無い……わっ!」
しかしその瞬間、ガラッと開いた窓から突然大量の湯がフライめがけて降ってきた。ばしゃーんっと頭からそれを浴びたフライの姿に笑いを堪えながら、キールがポツリと呟く。
「聞こえたみたいですね」
「この距離で!?嘘でしょ!!?……って言うか、なにこれ」
ポタポタ水が滴り落ちるフライは、お湯のあとに降ってきた黒い布地を手にとって広げる。それは、デザインが品があり美しく、かつ動きやすいと評判のミストラル王家に仕える侍女のメイド服だった。
ふむ、口元に手を添えたキールが真顔で呟く。
「濡れたままだと風邪を引くからそれに着替えて帰れってことですかね」
「いや、真顔で恐ろしいこと言わないでくれる!?僕は絶っっっっっ対着ないからな!!!」
そう叫んだフライがフローラの望み通り女装をする日が来るのか来ないのかは、神のみぞ知る別のお話。
~Ep.78.5 事実でも、言っちゃいけないことがある(フライ&キール視点)~




