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いじめられっ子の悪役令嬢転生記 第2の人生も不幸だなんて冗談じゃないです!  作者: 弥生真由
第三章 主人公の定義

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Ep.95. 5 一筋の光(キール視点)

(殿下とフローラ様は大丈夫だろうか……)


 敵の空けた風穴から地上に飛び降り暗闇を一直線に走り続ける。敵陣のど真ん中に置いてきてしまったお二人の事は後ろ髪を引かれる思いだが、それでも婚約者の元へと走る足は止めることは出来なかった。


 奴等が人質の捕らえ場所にしていた町外れの小屋がようやく見えてきた。スプリングの王国騎士隊の制服を纏った大人に囲まれている彼女の姿に胸を撫で下ろす。逸る気持ちを抑えきれず、走りながら名前を呼んだ。


「ミリア……!!」


「キール!良かった、無事で……あっ!」


「ーっ!ミリア!大丈夫か!?」


 駆け寄って来ようとしてふらついた身体を抱き締める。常人より明らかに冷たいミリアの身体は小刻みに震え、肌は夜目でもわかるほど青白い。病状が悪化しているのだ。

 別れる直前にフローラ様が持たせてくれた魔力水を取り出し、彼女の口に含ませる。少しだけ、顔色が回復した。


「キール、このお水は……」


「フローラ様にまた出して頂いたんだ。具合は大丈夫かい?」


 背中を擦りながら問えばミリアは頷くけれどやはりまだ辛そうだ。それなのに。


「悪い人達が、フローラ様を狙っているんでしょう……?大丈夫だったの……?」


 彼女は辛さを圧し殺した声音で、フローラ様の安否を問うのだ。『君の無事を確める為に置き去りにしてきた』なんて、とても言えなかった。


「……っ、フローラ様、は……」


 果たして、何と答えたら良いのか。その正解を導き出すより先に、大地を揺るがすような爆発音が響いた。腕の中で小さく悲鳴を上げたその身体を抱き締め、空を見上げる。

 そして、その光景に絶句した。


「何だ、あれは……!」


 雷雲を遥かにしのぐどす黒い黒煙が夜空に立ち込めている。見ているだけで息苦しくなりそうな空だった。

 そこから、黒い魔力を纏った火の玉が隕石のように幾多も降ってくるのに、そう時間はかからなかった。




 先程まで静寂に包まれていた辺りが、瞬く間に地獄に変わってしまう。


 人々は天から注ぐ業火の異常さに怯え逃げ惑い、建物は焼かれ灰となり、森は炎の壁に変わり人々の逃げ道を塞ぐ。女性子供の絶望の泣き叫ぶ声が響き、男達が敵襲だと騒ぎ立てるが、誰にも原因がわからないから対処が出来ない。その景色は、まさに地獄絵図だった。


「……っ、とりあえず逃げよう!」


 唖然と観察している場合じゃない。少しでもこの場から離れなければと、ミリアの手を取って走り出した。







「キール、ごめん……、なさ…い。私、もう……!」


 少しして、息も絶え絶えに言ったミリアが力なく地面に崩れ落ちた。慌てて抱き上げるが、脱力しきったその身体は氷のように冷たい。

 ここまで悪化してしまっては、フローラ様に貰った薬《魔力水》も最早意味を成さないようだった。


「ミリア!気をしっかり持って逃げ切って生きるんだ、一緒に!」


「……っ、キール、危ない……っ!!」


「ーっ!?」


 突然目を見開いたミリアに突き飛ばされ、後ろに倒れ込む。その直後だった。自分達がさっきまで居た位置に、焼け崩れた民家の瓦礫が降ってきたのは。


「ミリア……っ、ミリア!!!」


 突き飛ばされたお陰で自分は無事だった。その代わりに瓦礫の下敷きになってしまった彼女の身体を、必死に隙間から引っ張り出す。


「身体には響くだろうが我慢してくれ、安全なところまで運ぶから……!」


「キー……ル……、もう、いい……から……」


 彼女を抱き抱え立ち上がった自分の頬に、温度を失った手が触れた。

 ただでさえ、弱まっていた身体。その身体に、健康体でも厳しいだろう量の火傷と打撃を負って、耐えきれる訳が無い。『だから、私の事は置いて行って』と、虫の息で言葉を紡ぐミリア。


「馬鹿な事を、言うな……!」


 もう、言葉も上手く出てこない。首を横に振る自分の頬を、堪えきれない涙が流れてミリアの白い頬に落ちていく。


「私は、もう……ダメ、だか…ら……。早く、逃げ……て……」


「出来ない……!出来る訳がない、そんな事……っ!」


 こうしている間にも辺りの炎は勢いを増し、自分達の周りを取り囲んで行く。今すぐ逃げなければこのまま焼け死んでしまうと、よくわかっていた。それでも。ミリアを置いていく事だけは、どうしても、出来なかった。


「キール……、お願……い…。貴方…は……、生き……て…………。大好きよ……」


「ミリア……っ、ミリア!!!」


 頬に振れていた彼女の手から、フッと力が抜けたのを感じた。

 嫌でもわかってしまう。彼女の生命の火が、消えようとしていることが。


「嫌だ……!ミリア、ミリア……っ、逝くな!逝かないで……!!」


 ただでさえ何も熱を感じなかったミリアの身体が、腕の中で冷たくなっていく。死に拐われそうなその生命にすがり付くように、彼女の身体を抱き締めた。


(どうしてだ。どうして自分じゃなく彼女が、こんな悲運な死を迎えないといけない……!)


 もしこれが、妬みと悲しみに取り憑かれて他者を傷付けた罪への罰なのだとしたら、それを下されるべきは彼女じゃなく自分なのに。どうして、どうして、どうして……!



 町は既に火の海で、阿鼻叫喚の大惨事。周りの救いを求める叫びさえ他人事のように聞きながら。完全に力を失ったミリアの身体を、覆い被さるように抱き締めた。


「罰なら、どんな苦痛であっても自分で全て受け入れるから。頼む、誰か、彼女を、ミリアを、助けて……!!」





『どうか、大切な人々が生きるこの世界に、たくさんの幸せが溢れますように』





 祈った瞬間に柔らかく耳を掠めた、聞き覚えのある少女の声。それと同時に先程までより一際響いた周りからの歓声に、弾かれるように顔をあげる。

 まだ涙で少し滲んだ視界でもハッキリわかるくらいに力強く溢れた金色の光が、真っ直ぐに天を貫いた。


 その光の柱が一瞬で暗雲を吹き飛ばす。雲ひとつ無くなった夜空から、何故だかポツリと、雫が掌に落ちてきた。



 音もなく静かに降り注ぐそれは、金色の粒子を纏った恵みの雨だった。

 その雫が触れた人間の傷が、焼け落ちた建物が、灰になってしまった森が。浄化されるかのように再生され、元の姿を取り戻していく。その光景を見て、唯ただ、息を呑んだ。


「なんて、美しい……」


 月並みだが、他に言葉が出なかった。

 全てを包み込み癒したまうその輝きは、涙が出る程に美しい。奇跡だ、聖霊の巫女様の御加護だと皆が喜ぶ中。瞬く間に再生し、全ての景色が元通りになった頃、ふっと、頬に何かが触れてきた。


「すごく温かくて、優しい光ね……」


「……っ!ミリア…………っ!!」


 目を見開いた自分の腕の中で、空を見上げたミリアが笑う。頬に触れた彼女の手の温かさに、傷ひとつなくなった、顔色の良い姿に胸が熱くなる。人目もはばからず力強く抱き締めた彼女の身体は、温かい。


「あれだけ苦しかったのが嘘みたいだわ……。一体、何が起きたのかしら……」


 長年彼女を苦しめてきた病は、金色の雨に浄化され跡形もなく消え去った。心底不思議そうな彼女の呟きに、自分はこの奇跡をくれた人が居るであろう場所を見上げる。


「詳しい事はわからない。でも、これはきっと、フローラ様が下さった奇跡だ……!」


 先程まで絶望を撒き散らしていたのは、マリンが選んだ月詠の塔。逆に今、全てを包み込んだ光の発生源は、フローラ様が選んだ十六夜の塔だ。

 光の粒子を纏い聳え立つ塔の姿は神々しいまでに美しく、その日、フローラ様が選んだ十六夜塔は、まさしく皆の一筋の光になったのだった。



    ~Ep.95. 5 一筋の光(キール視点)~











ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 と言うわけで今回は、『Ep.93 敵に回したくない男』から『Ep.95 ヒロインの定義』の間の時間軸のキールのお話でした。

 前回のお話でフローラの力で何が起こったのか、第三者の目から見たらこんな感じでしたよ、と言う説明も兼ねた回になっております。


 長らく更新停止していたのに反応下さる皆さま、ありがとうございます(*´ω`*)今後もよろしくお願いします! 




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