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いじめられっ子の悪役令嬢転生記 第2の人生も不幸だなんて冗談じゃないです!  作者: 弥生真由
第三章 主人公の定義

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Ep.95 ヒロインの定義

 闇に染まり砕けた水晶が、炎のつぶてとなって辺りに飛び散った。



 宙に浮いている指輪はうねる業火の中心にあってとても近づけそうにない。



 顔に向かって飛んできた一際大きな塊を、水《魔力》をまとわせた手ではたき落とす。ジュウゥ……と蒸気を上げて消えたそれを見たマリンちゃんが、ヒロインらしからぬ表情で舌を鳴らした。


「……なかなかやるじゃない、流石は悪役令嬢って所かしら」


「お褒めに預かり光栄です、主人公ヒロインさん。でもこれは、“私”が地道に修行してきた成果だから。ゲームに定められた役割なんて関係無いわ」


「ホンット生意気……!いつかの可愛くない良い子ぶってた女を思い出すわ。あいつみたいに、あんたもこの塔から真っ逆さまに突き落としてやったって良いのよ!?」


 そうマリンちゃんが叫べば、悪意に呼応したみたいに床一面に記されていた魔方陣が禍々しい紫に輝く。

 ずいぶんと距離がある筈なのに不思議だけれど、地上からも数多の悲鳴が上がっているのがわかった。きっと、今こうしている間にも地上の人々が指輪から暴走した魔力に襲われている筈だ。


「……今、地上では暴走した指輪の魔力が業火となって罪の無い人々を襲っています。死者が出る前に、“聖霊の巫女の指輪”をこちらに渡して下さい」


 凛と背筋を伸ばし、こちらを睨み付けているマリンちゃんへ右手を差し出す。私が踏み入った箇所から、魔方陣が少しだけ淡い水色に変化した。


「ふんっ、別に私の攻略キャラである王子達は皆移動させたし?なんの価値もないモブがいくら死んだってヒロインの私には知ったこっちゃないわ!」


 やはり、ライト達がこの場所を離れることになった原因にも彼女は一枚噛んでいたみたいだ。マリンちゃんが叫ぶ度に指輪の暴走は増し、一瞬色が変わった魔方陣もまた毒々しい紫に戻ってしまう。

 掌に爪が食い込むのも気にならないくらい、強く拳を握りしめた。


 やっと気づいた彼女の正体に、もっと早く気がつけていればと歯がゆい気持ちが沸き上がる。前世の私が死んだ日、ブランを平気で高校の屋上から捨てたあの日から、この子は何にも変わっていない。いや、むしろ、前より狂気にとりつかれているような気さえした。


「……貴女、本当に何も変わってないのね」


「はぁ?何ボソボソ言ってんのよ根暗!悪役令嬢の分際でヒロイン様に文句あるわけ?」


「ヒロインヒロインって、ヒロイン《あなた》はそんなに偉い人間なの?どうして罪の無い、尊い命を、自分の感情ひとつで平気で踏みにじって良いなんて思えるの!」


 こっちに転生してから、初めて本気の怒りで声を張り上げた。でも、彼女には何も届かない。


 マリンちゃんがハッと鼻を鳴らした。


「はぁ?偉いに決まってんじゃない。いい?ヒロインってのはその世界の主役なの、中心なのよ!ヒロインが幸せならその世界は幸せなんだから、皆私を愛して、崇めて、命令に従うのは当然のことでしょ!あんたがたぶらかした王子サマ達だって、ゲームのシナリオ通りに私を好きになるのが一番の幸せなのよ。それなのに、外面ばっかりいい子ちゃんな悪役令嬢あんたなんかに騙されちゃって、あー可哀想!この指輪をゲットしたら、すぐ助けに行ってあげなくちゃ。俺様な炎の王子サマと、クールで大人びた風の王子サマと、穏和で博識な大地の王子サマをね!」


 『あぁ、愛されヒロインも大変だわ!』と、マリンちゃんが高らかに笑うけど。私はその長セリフを聞いて、呆れを通り越してポカンとしてしまった。

 数秒してからつい吹き出してしまって、慌てて口元を抑える。


「ちょっと、何がおかしいのよ!」


 めざとく私の笑い声を聞き取ったマリンちゃんが地団駄を踏む。その姿を正面から見据え、胸を張った。


「あぁ、ごめんなさい。でも残念だけど……、貴女が今言っていた三人の王子様は、この世界の何処を探しても居ないと思うわ」


「はぁ?バッカじゃないの?ライト様とフライ様とクォーツ様に捨てられたくないからって、口から出任せ言うつもり?」


「出任せなんかじゃないわ。貴女が今上げた三人は、あくまで“ただのゲーム”だった時の彼等のことでしょう?」


 強気で勝ち気、才覚に溢れ、惚れたらガンガン攻めてくると定評だった炎の王子ライト

 常に冷静、感情の起伏は極めて少なく、飄々とした態度がヒロインにだけは軟化するそのギャップが人気だった風の王子フライ

 穏和で常に輪を重んじ、知識に長けて常に一歩俯瞰して物事を判断するけど、決して自身はでしゃばらず周りを動かすその強かさに腹黒疑惑からコアなファンの多かった大地の王子クォーツ


 確かに、まぁ間違ってはないのかも知れないけど。私が知ってる、この世界に生きる彼等は、マリンちゃんが“欲しい”そのキャラクターとは、別人だ。


「貴女、ライトが実は世話焼きのお兄さん気質で甘党な事や、フライが想定外の出来事には普通に動揺するしオバケが苦手な普通の男の子だってことや、クォーツが控えめだけど誰より芯が強いのに妹には激弱だし、いっつもライトとフライに振り回されてる不憫な立場だってこと、知ってる?」


「はぁぁ?何それ、あんたの妄想の話?この私の為の攻略対象達がそんな残念な男の筈無いじゃない!」


 マリンちゃんが思い切り眉を寄せ口をへの字に曲げる。せっかくの可愛い顔立ちが台無しだ。


「残念かな?彼等も普通に人間だもの。120%プラスの面がある訳ないじゃない?」


「だから、それは普通の男の話でしょ!彼等は攻略キャラなの。この私の、ヒロインの相手になる特別な男なんだから、そんな駄目な一面要らないのよ!」


「……そっか。やっぱり、わかり合えなそうで残念だわ」


「何が!?」


「だって私は、貴女が言うその”残念“な面もある今の皆が大好きだから」



 胸の前で手を組んで、瞳を閉じて思い返す。大切な皆の姿を。


 フローラのお父さんになって振り回されながらもいっつも護ってくれるライトも、ツンツンした態度を取りつつなんだかんだ心配して女装してまでピンチに駆けつけてくれるフライも、不安に潰されそうな私に『離れていても信じてるよ』って笑って背中を押してくれるクォーツも。“今”のこの世界にしか居ない。

 初対面で大喧嘩したりお水ぶっかけちゃったり、一緒の係りになって彼の妹ちゃんと作ったお菓子プレゼントしたり、一方的に嫌われて仲良くなろうと寝室に忍び込んで縛り上げたり。あとは、レインとルビーも一緒に、海に行ったり、花火やったり、焼き芋食べたりもしたっけ。……そんな些細で下らなくて、かけがえのない日常の積み重ねが、今の私達を作っている。


 だから、皆の事を思い浮かべただけで、冷たく重かった心が、じんわりと暖かいもので満たされるんだろう。


『誰かを思って起こした行動は、決して無駄にはならないわ。今は色々迷っていて苦しくても、貴女は貴女の大切な人達の為にどうしたいのか、どうなりたいのか、それさえ見失わなければ大丈夫よ』


 お母様の優しい声が耳に甦る。


 あの時は答えられなかった私の望み、今ならわかるよ。


(私は、大切な人達が生きるこの世界が、幸せで溢れていて欲しい)


 瞼を閉じたまま強く祈ると、辺りが急に明るくなった。


「……っ、な、何よこれ、あんた、なにしたのよ!」


 ふわっと吹いた一陣の風は、神風だったのだろうか。


 私の足元から舞い上がった金色の光の粒子が部屋を包んでいた瘴気をかき消し、魔方陣の色は完全に淡い水色に変化した。


 ふわり、ふわりと、私の周りを不思議な光が舞い踊る。


 一瞬で変化した空気に、マリンちゃんが狼狽えた声を上げた。けれど、もう足元の魔方陣から私を攻撃する魔力は生まれない。

 ギリッと歯を鳴らしたマリンちゃんが、未だ業火の中心に浮かぶ指輪に手を伸ばした。

 あの炎は彼女の魔力が大元だから、触れても平気なのだろう。


「何よ……、ムカつく、ムカつくムカつく!悪役令嬢がヒロイン様に歯向かってんなバーカ!!!」


 叫んだマリンちゃんが指輪を思い切りこちらに投げつけたことで、指輪にまとわりついていた業火が必然的に迫ってくる。それを見ながら、マリンちゃんが醜い笑い声を上げた。


「アハハハハっ、この狭い部屋じゃ避けらんないね!あんたなんか焼け死んじゃえ!!!」


 その叫びにまた勢いを増した炎。あの原因は、指輪に入り込んだ彼女の魔力だ。消したいなら……


(あの指輪に別の魔力を流し込むしかない!)


 この事態は好都合だ。迫り来る業火の中に躊躇うことなく飛び込んで、その中心の指輪に手を伸ばす。


「よし、あと少し……!」


 呪詛の混じった魔力の不快感と炎の熱気で息が苦しい、熱いし、礼服が焼かれた箇所から肌にも直に炎が触れて痛い。けど、それがどうしたと言うのか。



「ヒロインが世界から、人々から愛されるのは、誰よりヒロイン自身がこの世界の人々を愛して大切にしているからでしょう?せっかく与えられた力を私利私欲にしか使わずに、あまつさえ罪の無い人々を平気で傷つけてる貴女に、その立場に立つ資格は無いわ!」


 思い切り伸ばした指先が、ようやく指輪に触れた。掌が焼かれるのも構わずに、そのまま握りしめる。


 流石に想定外だったのか唖然とこちらを見ているマリンちゃんに向き直り、笑ってやった。


「ここは現実で、生きている人々は皆同じ人間よ。それすらわからない貴女に、この指輪も、ライト達も、世界の命運も渡さない!」


 “聖霊の巫女の指輪”を握りしめ、ありったけの魔力を注ぐ。マリンちゃんの魔力で黒く染まり切っていた指輪の宝石が徐々に青く変わり、少しずつ炎の勢いも弱まってきた。

 だけど。


「……っ!」


 半分を少し過ぎた辺りで、指輪の変化が止まってしまった。力を込めてみても、もう魔力が入っていかない。


(魔力切れだ……!どうしてこんな時に……!)


 考えてみれば、今日はほぼ一晩中戦い通しだった。きっとそのせいだ。目眩で一瞬、体勢が崩れる。その隙を突いてマリンちゃんが動いた。


「無様ね、所詮悪役令嬢にはなんにも守れやしないのよ!私がトドメを刺してあげるわ!」


 顔をあげるのと同時に下腹部に感じた熱、数秒遅れて激痛が走った。護身用として隠し持っていたらしい短刀で刺されたのだと気づく。

 身体が痛い、倒れそうだ。指輪を持っていない方の手でお腹に触ると、滴るくらいの血が手のひらについてきた。


 それでも胸を張り、指輪からは手を離さない。


「強情ね……!泣きも叫びもしないなんて、本当つまんない!」


「貴女を、楽しませる為に流す涙なんて、死んでも、ごめん……だわ……」


 私が微笑めば、たじろいたようにマリンちゃんが一歩後ずさった。その身体を押し退け、部屋の……魔方陣の中心に走る。


 指輪を天に掲げ、思い切り叫んだ。

 聖霊の巫女に覚醒する為の誓いの言葉を。



『万物の生命を創造せし聖霊の王よ、我が声に応え怒りを鎮めたまえ。我、この世界を愛せし、聖霊の巫女の力を継ぐ者なり!!』


 手を掲げた衝撃で溢れた血が一滴、指輪に静かに触れて消える。


「貴女が役目を果たさないなら、私がヒロインになるわ」


 その瞬間溢れた魔力が塔ごと私達を包み込み、光の柱となって天を貫いた。



   ~Ep.95 ヒロインの定義~


  『答えはずっと、自分の中に』


 

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