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Lost Magic  作者: ライ
9/11

試験終了、そして


火炎が目と鼻の先まで迫っていて、視界いっぱいに広がる。どう考えても避けられないタイミング、死んだと思ってとっさに目を閉じた。


……? いくら待っても火炎に燃やされる感覚がない。それどころかさっきまで感じていた熱気すら……。

恐る恐る目を開くと、周囲を炎に包まれていた。俺達が破ったばかりの氷の障壁を隔てて。まさかと思っていたところで、火炎が消失し始める。広がってきた視界には、俺と同じように氷の障壁に守られた信や暁夜、風見、そして氷銅先輩がいた。


「よしよし、全員無事だな」

「……どうも、助かりました」


一頻り頷きながら呟いた氷銅先輩に信が礼を言ったところで、障壁が溶けて消失していく。やっぱこれ、氷銅先輩が作ったんだよな? あのタイミングで全員分なんて、デタラメ過ぎる。

結局あそこで俺達が障壁を壊したところで、氷銅先輩には届かなかったわけだ。しかもその上、守られてるし。


……なんだかなぁ。


「……くそっ」


短いながらも、幾つもの感情を混ぜ込んだような小さな一声が聞こえて来た。見れば竜一が大剣を地面に突き立てて、その柄に頭を乗せて項垂れていた。

その隣にいた水沢は、竜一を一瞥して一言もかけずに向かって来る。確かに、あまり声かけにくいよな。実際、1番通じなかったのは竜一だ。


「晴輝、お疲れだったな」

「信……俺はほとんど何も出来なかった。信や暁夜のほうが貢献度高いだろ」


ほぼ氷銅先輩に張り付いて戦ってた暁夜と信。信に至っては指示までしてたわけだし……レベルが違う気がする。だからなのか、暁夜も信も悔しそうな様子はない。


「いやいや、あの障壁にヒビ入れるんだもん。凄いよね!」

「その通りだ。晴輝の初撃がなければあの場で破壊は不可能だっただろう。謙遜は構わないが、評価は正しく受け取るべきだ」


風見に続いて語られた言葉は何というか……淡々とし過ぎてお世辞が一切含まれていないのが伝わってくる。だからこそ、評価されているってのが単純に嬉しい。


「全員やる事はやった。これが紛れもなく今の俺達の実力だろう」

「……そうだよな」


どうせ今から巻き返すことなんて出来ない。別に氷銅先輩の反応も悪くなかったんだから、前向きにならないとな!


「信、風見ありがとうな」

「ああ、こちらこそだ」

「ふふん、もっと感謝してくれてもいいよ」

「はいはい、暁夜もお疲れ様!」


胸を張る風見をあしらいつつ、1人黙って立っていた暁夜へと声を掛ける。暁夜は閉じていた目を開けて俺を見やると、無視してまた目を閉じた。あのやろ。


「……しかし風見。俺は隙は作ったつもりだが、あそこまで容易く防がれるとはな」

「ええー! そう指示した信君がそれ言う!? 焔君達に注意向けないように視線誘導の役目は果たしたよ!」

「俺は風見はもっと出来ると思っていた」

「それなら信君の隙の作り方が甘いんだって!」


何か信は風見には辛口だな。そういや昔馴染みなんだっけ、気心知れた相手には雑になるのは分かる……ん?


「……視線誘導って?」

「ほらあの位置取りなら先輩が僕を向いてたら、焔君には背中向けるでしょ? 上手く視線向かせたのに、信君ってばさ!」

「ってことは、全部作戦だったのか?」

「ああ、竜一が強力な技を持つのは見て分かった。1対1で負けるのを見越した時点で、水沢に対して、風見へと指示と同じタイミングで竜一に技を放つように伝えろと頼んだ。

そして、風見に同様の話をしつつ、位置取りを調節したに過ぎない。だが、最終的には防がれたわけだから俺の研鑽不足だろう」


いやなんかさらっと言うけども、試験前にはそんな話してなかったよな!? ってことは試験中にそこまで考えて実行に移したのかよ……。


「そ、そんな事が起きてたんだ。あ、みんなお疲れ様」

「でしょぉ〜。もっともっと褒めて良いんだから!」


飛鳥と歩き寄ってきて早速、如月が驚愕のあまり告げる。すると何故か風見が鼻高々と得意気になり始めた。今の褒められてたの信だと思うぞ。


「如月と飛鳥もお疲れ」

「う、うん……晴輝君もお疲れ様」

「あ、えっと……さっきはありがとね、晴輝君」


控えめ気味に答えた飛鳥に続いて、顔を赤らめて狼狽した様子で言う如月。さっきって、ああ、あの引っ張ったあれか。


「いや、むしろもっと助ける方法はあったと思うんだけど、荒っぽくてごめんな」

「ううん、全然! ほ、本当にありがとうね」


そう言ってくれるのは助かるけど、1人助けるために倒れてたんじゃな。信も言ってた通り、修行不足……なんだけど、何故か風見がこれ以上ないくらいニヤニヤしてる。何故に。


「ほら、竜一も集まれって!」


そんなところで1人集まってなかった竜一に氷銅先輩が呼び掛けた。おもむろに大剣を送還して、竜一は歩き始める。


「空斗、いいよな?」

「ええ、彼らに関しては異論はありません」


同じタイミングで歩み寄ってきた生徒会長の東雲先輩が、淡々とした様子で頷いた。氷銅先輩の言わんとしてることが理解してるらしい……けど、どことなく苛立ちを感じるのは気のせいか?


「よっしゃよっしゃ……彼らに関して?」

「えぇ」


さらに頷きつつ進み出た東雲先輩は、おもむろに氷銅先輩の首根っこを掴んで引き寄せた。ぐえ、と鈍い声が漏れ出る。


「手加減しろと私は言いましたよね。それなのに氷障陣まで使うなんて頭が空なんですか? 受験生の実力を測る目的なのに、これなら凍牙に任せるべきではなかった」

「わ、悪かったって。つい盛り上がってさ」


すげぇ冷静そうな人なのに、矢継ぎ早に貶してるんだけど。最後に盛大なため息を付け足したところで、謝っていた氷銅先輩が続ける。


「けど、全員で力を合わせて破ったんだ。凄くね?」

「見てましたよ。ですから異論はありません」


何故か自分のことのように得意気に語る氷銅先輩に、東雲先輩がまたも嘆息を漏らす。そうして、東雲先輩は視線を走らせて、木の幹に背中を預けて気怠そうに煙草を吹かす和樹さんへ。

どことなく、イラッとしてそうなのは気のせいじゃないと思う。


「雨宮先生。私達は次の 準備 があるので彼らのことをよろしくお願いします」

「あぁ〜? んなもん適当で良いだろ」

「お ね が い し ま す」


氷銅先輩と和樹さんを思いっきり威圧しながら告げる東雲先輩。底無しの苦労が窺えるよな、適当で良いとか教師の発言とは思えない。


「ったく、しょうがねぇなぁ」


そうして東雲先輩が有無を言わさず氷銅先輩を引きずって行ったところで、和樹さんが重い腰を上げた。ふらふらと力の抜けた足取りで俺達に向かって来る。


「はい、テメェら合格。後で東雲が案内するから資料とか貰って帰れよ」

「……い、いやそんなさらっと言われても!」


もっとこう大々的に発表させるもんじゃないのか。


「やったねぇ! 舞花、飛鳥!」

「う、うん……」

「えっと……喜んでいいのかな?」


風見ははしゃいでるけど、飛鳥も如月も複雑そうな表情だし、やっぱこう、喜ぶに喜べない。


「まあ、気持ちは分からなくも……いや分かんねぇな、俺は最強格だから」


なんか一切フォローする気のない言葉をかけられたんだけど! しかも最強ってどんだけ自信過剰なんだ。


「ほほー、ってことはさっきの先輩達が組んでも勝てるって事?」

「めんどくせぇからやったことねぇし、試す気もねぇ」


妙に楽しげな様子の風見の問いをばっさり斬り捨てる和樹さん。これ以上ないくらい疑わしく感じるんだけど。


「ま、要はテメェらがこれから足を踏み入れんのは、テメェらをボコボコに出来る連中のいる環境だ。打てば響くなんて思うなよ」


と、今度はどことなく真面目な声音で言ってきた。思わず、唾を呑み込む。


「これは単なるスタートラインに立ったに過ぎねぇ。ここが始まりなんだ、テメェの気持ちは知らんがそんな辛気臭ぇ顔してんじゃねぇぞ。煙草が不味くなるだろ」


理由はあれだけど! 確かにそうだよな。この試験で負けたって、この先幾らでもリベンジの機会はあるはずだ。

その時のために努力する。その思いを込めて竜一の背中をぶっ叩く。


「いっ!」

「あ、悪い」


ちょっと加減を間違えたようで非難の目を送られたけど、竜一はその後深呼吸を一度。両手を強く握り締めて前へ向く。

それを見ていた和樹さんは口元を僅かに綻ばせて、すぐにだるそうに頭を掻いた。


「はぁ、折角だし言っておくか」


何をと尋ねる間もなく、和樹さんは俺達を端から流し見て煙草を手に持った。微妙に言葉に迷ったように視線を泳がせた後、口を開く。


「ようこそ、オグルワート学園へ。入学式はまだだが歓迎するぜ、ガキども」

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