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仮想の水 - Waterland of Inworld  作者: uota
第2章  彷徨
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第47話 黒い六角の紋章

 ウォーターランドにいる人は気心の知れた関係なので、珍しい人の記憶は強く残る。悪く言うと狭い世界に閉じこもっているとも、ただの田舎者とも言えなくはないのだけれど。それが島のいいところなのだ。


「そうだ、火事の後に残っていたバッチ。あれはボルトンのマークだぞ。qなんかじゃなくてボルトンのbだ。六角形にbのマークはボルトンだからな。やつらが置いた何かが失火したんじゃねえか」


「え? 火事のときにボルトンがあそこにいた? 見かけない黒いパーカーの着た人を見たっていう人もいるんだけど」コノンさんのことは言わず船長の考えを聞いてみた。


「そいつは限りなく黒だろうな。とんでもないな」


 やはり船長も黒いパーカーをボルトンだと思ったようだ。


「言われてみれば雲の塔も六角だったし、リアヌシティで見た黒服の持ってるスーツケースも六角だった」


「黒い六角を見たら、まずはボルトンって思っていい。ボルトン以外の人間で好き好んで黒の六角を持つやつもいないだろう」


 船長も言いたいことを言って、やっと苛立ちが納まってきたのかポケットからシガレットケースを出して葉巻をとった。この前の骨董市で買ったケースだろう。


「じゃあ、六角柱はどうなるんだろう。ボルトンにも繋がってるのかな」


「もともと六角はリアヌシティの紋章で、黒は分家したようなものだからな。白と黒は例えで、正確には緑と黒ということだ。もちろんボルトンのやつらは自分たちこそが六角の直系だと勝手に考えている」船長はそんなことは許さないとでも言いたそうだった。


「オールドリアヌ側が緑なわけだね。それで緑の六角柱というわけか。でも同じ六角からの派生だとするとボルトンも悪いやつばかりじゃないって可能性もあるだろうね」


「白も黒に混じれば真っ白なままじゃいられないだろう。せいぜいグレーってとこだな。やつらの性善説を信じるやつがどれほどいるか俺にはわからない」


 葉巻を大きく吸って、少し間をおいてゆっくりと煙を燻らせた。


「それを言ってしまうとリアヌシティの住民はみんな黒になるよね。そんなことはないと思いたいけれど」そう話しながら、家族の家にいた子供たちの顔を思い浮かべた。


「人を信じるのもほどほどにってことだろうな。騙されてる本人は気がついていない。それが幸せと言うやつもいるけど、そんなもんじゃないだろう。ちがうか?」


 船長もコノンさんのお婆さんと同じようなことを言ってる。ひとつだったものが分岐していくには複雑な事情もあったのだろうけど、いつか元の鞘に戻ることもあると思いたい。それはナーシュさんも望んだところだろう。


「汽水の話なんだけど、ウォーターランドの汽水が木々の成長の源だとしたら、スロウさんにノイヤール湖のほうも調べてもらいたいなあ。あそこのお年寄りはみんな驚くほど長生きだし」ネモネさんの気持ちも考えて言ってみた。船長はスロウさんのことを買っているようだからこれはいい提案かもしれない。


「そこだな。まかり間違って水脈が同じということであれば、なにか共通することがあるのかもしれない。じいさん、湖探検で何かわかったことはないのか?」


 思わずマリーさんの顔を見てしまった。マリーさんは聞いてないふりをしている。いや、してくれているのか。


「あそこの光る湖底に緑の岩盤があるらしいね」当たり障りのなさそうな話からしてみた。


「緑?」


「ナーシュさんたちの六角柱がその緑の石なんです」


 話に夢中になっていて、ネモネさんが2階から降りて来ていたことに気づかなかった。思ったよりも元気そうなので安心した。スロウさんの話も聞いていたかもしれない。


「緑……緑か……。やっぱり緑と黒だな」と緑と黒という言葉を船長が繰り返した。


「船長、鮫は緑だったね」


「それ言うと、草木も苔もみんな緑じゃねえか」


「草木はもともと緑じゃない」とマリーさんが笑った。


「船長の見たという鮫は緑だったんだよね」と言いなおすと、あれは確かに緑だったなと記憶を辿るようにして言った。


「船長が見たのは日中だった?」


「いや、月も星も見え ない真っ暗な夜だった。だから鮫が光っているのがわかったってことよ」


 それが、現実か幻想なのかはよくわからない。ただ、自分がオールドリアヌで鮫と出会った時と同じような状況にも思える。問題は、現実の話に神話とか幻想とかが入り混じって、鮫が一体どこにいるのかはよくわからなくなっているところだ。


「そのミドリの鮫って、今でもどこかで見られるものなのかしら。ナーシュも一時期鮫のことばかり話してたわね」マリーさんが思い出したように言った。


「なんだか、男の世界らしいですよ。ロマンなんだそうです」ネモネさんが村でお祖父さんに聞いた話をした。


「鮫はロマンか。そいつはおもしろい。鮫探しに人生を賭けてるって……おい、それは俺のことじゃないか。わははは」


「考えたらダルビーも親の仇だとか言って鮫を追いかけてるものね」とマリーさんが言うと、それのどこが悪いというように顎を突き出して見せた。どうやら船長もロマン男の仲間らしい。


「緑の鮫は、もしかして汽水にいるんじゃないでしょうか」とネモネさんが言った。


「汽水か……ありえなくもない話だな。汽水に住む鮫か」と船長が言うとみんなそれぞれに思い当たることがないか考えているようだった。だれも何も言わなかったけれど、それぞれの目は心当たりのあることを思い浮かべているように見えた。


 やはりミドリ鮫が鍵を握っている気がする。ジノ婆さんがミドリ鮫のことを知っているのかどうかわからないままだ。戻ったら、ジノ婆さんを訪ねよう。


 船長は明日にも出航すると言うから、その便でスロウさんに来てもらえるかもしれない。そうすればこちらで何か手がかりがみつかる可能性も出てくる。


 急いでスロウさんに手紙を出しておこう。待ち合わせ場所はサーカス小屋にしておけば、自分がいなくても、ナミナさんかトラピさんはつかまえられるはずだ。あの二人があと一ヶ月もリアヌシティにいないことを考えると急いだ方がいいだろう。


 ネモネさんに、次の船で帰ることを言ってホテルを出た。


ミテホシイトコロ ガ アリマス リアヌシティノ サーカスゴヤ デ マツテマス


 ハトポステルで手紙を書き終えると、その足でそのままエクスポーラーに飛び乗った。

 エクスポーラーの最終の時間が気になって慌てて書いたら、差出人と宛先を書くのを忘れたことに気づいた。船長が行けばオルターが書いたということはわかるから大丈夫だろう。


 エクスポーラーからの景色は夕闇に染まり、空にはまだどんよりした雲が垂れ込めている。明日はジノ婆さんにノイヤールの鮫と緑石のことを確かめよう。どれも住まいの目の前にあるノイヤール湖の話だから何か知っている気がする。きっと何かが関係しているに違いない。

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