表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮想の水 - Waterland of Inworld  作者: uota
第2章  彷徨
PR
82/679

第2章 第34話 骨董の日

 ネモネさんは、トラピさんと会えただろうか。出かけてから2日が過ぎた。


 コノンさんのお祖母さんのところにお世話になっているのだろう。もともと野宿も平気な人だから、自分で宿を探したかもしれない。


 それにしても、自分自身の体調が回復してくると、迷惑をかけたことも忘れてまた出かけたくなる。コノンさんたちが向こうにいるうちにオールドリアヌを訪ねられないかと思い始めるのだから我ながら困った性分だと思う。


「知らせのないのは良い知らせと言うから」と、マリーさんはさほど心配もしていないようだ。人によっても心配する度合いも違うということだろう。わかってはいるもののちょっと情けない気持ちになる。


「そう言えば、今日は骨董市の日でしたね」気晴らしもいいかもしれないと思って言ってみた。


「一ヶ月が経つのはほんとうに早いわね。早いのはいいことなのかしら」マリーさんはお客さん用に置いてある卓上のカレンダーをめくって来月の予定を確認している。


 歳とともに早く感じるようになるのは、惰性で毎日を過ごすようになるからだと思ったけれど、それを言うのはやめにした。


「マリーさんもいっしょにどうですか? 船長も朝一番から掘り出し物探しをしているようだし」


「ごめんなさい。私は古いものにはあまり興味がないの。男の人ってどうして古いものばかりにこだわるのかしら」


 言われてみると古いものが好きな女性にあまり出会ったことがないしれない。男の方が物へのこだわりが強いのだろうか。古ければ古いほど味が出ると思っているところはある。女性は、もの自体よりも使っていた人のほうに意識がいってしまうのかもしれない。


「ナーシュも好きだったけど、彼の場合はオールドリアヌそのもが骨董だったわね」


「なるほど、そう考えると骨董って郷愁のようなものなのかもしれないですね」


「男は移動し続ける生き物みたいだから、自分の心の置き場がどこかに必要なのかもしれないわね。それがモノであったとしても。女は今がすべてなの……」


 言われてみるとそんな気もする。自分自身もそうだし、船長もナーシュさんもハロウさんもみんな当てはまる。そしてみんななぜかオールドリアヌに吸い寄せられて行く。猟をして移動する男の本能に関わることなのかもしれない。ネモネさんは女性だけど、彼女の場合は土地ではなくて水へのこだわりだから、他の男たちとはちょっと違うのだろう。


「マリーさんにとってのオールドリアヌはどういうところですか?」


「そうね、ナーシュの故郷でとても水のきれいなところかしら。でもそれ以上のものではないわね」


「ウォーターランドは?」


「あそこは私にとっての自由とこれからにあたるところ」


「これから?」


「おそらく……」


 ちょっと真意をつかみかねる言い方だったけど、すくなくとも郷愁ではない。


 一人で出かけることを決めて部屋の窓から窓港のほうを見ると、レンガ通りが小さなテントの露店でいっぱいになっていた。ヨットハーバーにもたくさんの船が入っているところからすると、骨董市はかなり広く知れ渡った催しなのだろう。赤や黄色の縞模様のテントが楽しそうな雰囲気を伝えてくる。想像する骨董市よりも明るい雰囲気のように思えた。


 ノートを作った店をみつけたことをわすれないうちにと思ってレターロールに書いた。


 準備を終わって一階に降りると、マリーさんが「オルターさん、これ」と言って紙封筒を手渡された。


「これは?」


「ホテルのお手伝いをしてもらってるから」と言うと、お礼はいらないとでもいうように庭の隅にある納屋の方に行ってしまった。


 なんだか、マリーさんや船長の気持ちをあらためて感じた。お金を持たない生活をしながらお返しする方法なんてあるのだろうかと考えてしまう。でも、それをみつけることがあの二人へのお返しになるような気もする。


 ホステルを出ると同じように港に向かう人たちが前を歩いていた。いっしょに歩いているうちに、何か楽しいものが待っているかもしれないという期待が膨らんでくる。


 レンガ通りは思った以上にたくさんの人で溢れていた。こんなに人がいる港を見たことがない。家族連れも多く、骨董市というよりも朝市と言った方が正しいかもしれない。いつものむさ苦しい男たちの働く港とは趣を異にした、陽気な笑い声でいっぱいのお祭り会場になっていた。マリーさんはこの雑踏があまり好きではないのかもしれない。実際、マリーさんがたくさんの人が往来する雑踏の中で買い物をする姿は想像しにくい。


 駅に近い港の中心部から露天や出し物を見ながらハロウさんの店のほうに向かうと、本来の骨董市にふさわしいお店が増えてきた。その中に六角柱だけを扱う店もあった。骨董と言われるだけあって、金細工の高級なものから、陶磁器でできたものなど様々だった。用途もペンダントから、宝石箱、置物まで様々なものがあった。これを見るだけで生活の一部になっているのがよくわかる。お土産にと思っていくつか手にとって見たものの、いただいたお金を使うとなるとなかなか心が決まらないものだ。無意識のうちに、お金とモノの生活に囚われてしまっていると思うと余計に躊躇してしまう。


 しばらく歩いていると船長の姿をみつけた。店の主人らしき人と話し込んでいる。お店にはどう見ても船長の嗜好に合いそうにない古い陶器の花瓶が並んでいた。ここで仕入れて他のところに転売するのだろうか。もしかすると骨董を買うのが目的ではなくいろいろな人と話すのが楽しくてここに来ているのかもしれない。そういう風にも見えた。


「船長、いいものあった」と聞くと、「ここが目利きの腕の見せどころよ」と言って片目をつぶってみせた。


「ダルビーの旦那にかかっちゃ、全部言い値になっちまうよ」店主らしき人があきらめたような顔をして笑っている。


「よし、こいつに決めた」と船長が言うと「はいはい」と観念したように返事をしているのがおかしかった。


 ハロウさんの店までたどり着いてみると、どうやらここが骨董市の最後の場所になっているようだった。お店の横の空き地が運営する側の休憩所になっているようだ。よく見るとそこにはハロウさんも姿があった。


「オルターさん、先日はどうも」こちらが見ていることに気づいたようだ。


「主催側は大変ですね」


「いやいや、そんな大そうな話ではないですよ。道楽者のお祭りですから」と照れ臭そうに言った。となりにいた女性が、「この人、骨董市がないと生きちゃいけないですよ」と笑っている。おそらくご婦人なのだろう。なんとも微笑ましい光景だ。


「なにかいいものみつかりましたか」と聞かれたので、六角柱の話をするとそのお店を出している人を紹介すると言って、さっき見ていたお店のところまで案内してくれた。その上、ハロウさんの友達価格ということで、思わぬ値引きまでしてもらった。六角柱がたくさんあるだけで幸せな気持ちを感じるようになるとオールドリアヌの仲間としての資格を得られたようでなんだかうれしくなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ