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仮想の水 - Waterland of Inworld  作者: uota
第2章  彷徨
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第2章 第27話 うさぎの庭

「だいじょうぶかい? それがいいから、試してみるといいよ」という声が聞こえた。


 薄目を開くと窓から柔らかな朝日が差し込んでいた。鳥たちの賑やかな声が聞こえてくる。昨夜の雨もすっかりあがったのだろう。枕元を見ると粉薬と食事が用意してあった。コノンさんのお祖母さんが用意してくれたのだろう。


「少しはよくなったかい?」お祖母さんは椅子から立って、カーテンを少し開けてくれた。


「あ、よく寝ました。もう、朝なんですね」


「ははは、もうお昼時だよ。さっき客人が来て、出直すと言って帰ったよ」


「私を訪ねてですか?」


「夫婦連れで、子供もいたようだ」


 たぶん、トラピさんたちだ。心配かけてしまった。ここを探し当てるのも大変だったはずだ。


「公書館に行って、昼過ぎにはまた来るって言ってたようだよ」


 寝ていたから起こさないように気遣ってくれたのだろう。戻って来るまでにはまだ時間がありそうだったので、身体の感覚を取り戻すために家の前の庭を少し歩いて見ることにした。家の入り口にある石の階段に足をかけたときに。階段が大きく欠けていてつまずきそうになった。慌てて壁に手をついて身体を支えた。こんなところでまた怪我をしたのでは笑いものだ。ころびそうになったのを見ていたお祖母さんが「古い建物だからね、そこの階段は気をつけておくれよ」と言った。


 庭と言っても塀で囲われているわけでもなく、広い草原の一部をレンガで仕切ってあるだけの簡単なものだった。お世話になった家は、周りにある家よりも敷地も建物も大きく、昔はなにか別の目的で建てられたもののようだった。家の周囲を見渡してみると、バス停のある眼鏡橋の近くだった。もしかすると、あのときバスに乗っていた老婆たちも見舞いに来てくれていたかもしれない。そう思うと少し恥ずかしくなってしまった。いい年をして、池に落ちたもないだろう。


 庭の半分はウサギの遊び場になっていた。コノンさんはほんとうにうさぎが好きなようだ。ざっと数えただけでも20匹はいそうだ。4、5匹ごとに固まって仲良く草を食べている。なんとも言えず微笑ましい。このかわいいうさぎをウォーターランドに持ち帰れたらきっとみんな喜ぶだろう。助けてもらった上にこんなお願いをするなんて、あまりに身勝手な話だと思いながらも、意外にコノンさんも喜んでくれるかもしれないと思う。


 からだの模様や目の色を見ていると、それぞれ少しずつ個性があって、同じうさぎが一匹もいない。こんなうさぎが島を自由に走り回ってる姿を想像しただけで楽しい気分になる。ノートの主にもこういう友達がいたなら、島の生活もきっと楽しかっただろう。


 ずっと見入っているのを見て、洗い物をしていたお祖母さんが話しかけてきた。


「みんな名前があるらしいよ。どこかで拾ってきちゃそこに入れるからたいへんさ」


「コノンさん、面倒見が良さそうですからね」こういうところにも人柄は出るものだ。


「一番可愛がってるのは、ピールだがね」


「どの子ですか?」たくさんいるうさぎの中からグレーの一匹に目星をつけて聞いて見た。


「いつも背負ってるやつだよ」


「ああ、足のない……」


「そうだね。あの子は子供の頃から、なにか足りないのが好きでね。おもしろい子だよ」


 足りないものがあるのが好き……。コノンさんの人柄がなんとなくわかるような気がする。なんでも足りていればいいわけではないし。なにか足りないものを補い合うときにやさしさや思いやりも生まれる。


「そんなもんだから、お人好しもほどほどにしないと悪い人に騙されるよっていつも言ってるんだがね」


「でも、人を信じられることって大切なことだと思いますが」


「信じれば救われるかね」


「救われた人間としては、そう思いたいところですね」


 うさぎの中の一匹が鼻をヒクヒクさせながら近寄ってきたので、背中をさすってやった。


「この子にまで、心配をかけてしまったようです」


「ははは、あんた、いい人みたいだね。コノンをよろしく頼むよ。あんたの島が気に入ってしまったみたいだから」


「私の命の恩人ですから、それはもちろん」


 ウサギの餌やりを手伝って、部屋で薬膳だという料理をいただいていると、外でトラピさんの声が聞こえた。コノンさんのお婆さんと話をしているようだ。しばらくすると、「じゃあ、失礼して」という声がして、部屋に入ってきた。


「あ、オルターさん生きてた!」冗談だか本気だかわからないトラピさんの大きな声に驚いた。


「あはは、そんなに簡単には……ご心配おかけしました」


「いえいえ、オルターさんさえ元気なら。ほんとによかったです」


「あれ、ナミナさんたちは?」


「以前聞いたマリーさんという方も心配されているだろうということで、そちらの連絡に行ってもらいました」


「あー、それは本当に申し訳ない。それも気になっていたので」


「これで、安心してオールドリアヌ探検を続けられますか?」


「いやあ、一人で歩くのはどうなんでしょうか」


「あはは、もう同じ間違いはないでしょう 。気をつけるのはボートだけですね」


 そう言われても、何を間違ったのかもわからないので、気をつけようもないのだけれど、何につけても用心するにこしたことはない。


「宿ならうちを使うといいよ。ここはもともと共同住宅だったところだから。部屋はいくらでもあるよ」コノンさんのお祖母さんが言った。


「オルター さん、よかったですね。こんなにまで言ってもらって」


 トラピさんも、自分のことのように喜んでいるけど、そんなに人の世話になってばかりもいられないだろう。


「僕らもときどきお世話になるので」そう言うとおばあさんに「よろしくお願いします」と頭を下げている。


「いいともいいとも」お祖母さんもうれしそうに答えている。


 寝ている間にトラピさんとお祖母さんはすっかり仲良しになっているようだ。トラピさんは、だれとでも遠慮なく打ち解けられるからたいしたものだ。手品でも見せたのかなと勘ぐってしまうほどだ。大道芸をやるような人であればこそなせることなのだろう。

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