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仮想の水 - Waterland of Inworld  作者: uota
第1章 誘い
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第1章 第27話 雨上がり

 大きな虹が島を見下ろしていた。夏の時期には、島をすっぽり囲むような虹が出る。時期によっては、オーロラの帯のような形になることもある。島にいる住人の何人かしか見たことがないほどめずらしい虹ではあるけれど、あんな虹が見えるのもこの島ならではではないかと思う。

 エバンヌでノルシーさんが好んで弾く曲にオーバー・ザ・レインボウがある。この虹の向こうには何かがあるのか。海に出る習慣の少ない島民には周辺の海のこともわからないことだらけだ。でも、みんな知らないことがたくさんあるほうが楽しいと思っている。


 ノーキョさんは、水の本を読み終えられなかったことを残念だと言い残してお店に戻って行った。どうしても雨上がりの今日収穫しないといけない野菜があるのだそうだ。なんでも、朝露をたっぷり含んでいて、とてもおいしいのだとか。


 帰り際に思い出したように村の食堂の案内を置いて帰った。週末に自然食のパーティーをやりますと書いてあった。島向けに新聞を出して欲しいとのことだ。もしかすると、そのための野菜を今日収穫するのかもしれない。


 村の食堂には2年前まで器用になんでもつくれるコックさんがいたのだけれど、持病の過食症がひどくなってメーンランドに戻ってしまった。コックさんの過食症というのも実際困ったもので、料理を作るに作れなくなってしまう。とにかく、作ったそばから自分で食べてしまうのだから。美味しい水がそうさせたのであれば、とても残念なことだ。


 そんなことがあって、食堂の建物だけがそのまま残され、今では村の公民館のようにして使われている。所有者が不在なので自由に使ってよいことになっていて、パーティーをやりたい人が食材を持ち込んで、好きなときに自由に食堂を開く。持ち込みOKではなく、持ち込みしかないのだ。



 ノーキョさんの後を追うように、ネモネさんも温泉探しに出かけていった。ネモネさんといっしょに出て行くカバは足取り軽く楽しそうに見えた。プールの水はあまりいい水ではなかったのだろう。


 二人を見送ったあとにミリルさんが入れ替わるように入ってきた。


「ミリルさん、そろそろメーンランドで新聞配られているころでしょうかね」気になる新聞のことを話してみた。


「あの雨をうまく切り抜けられていれば、そろそろ一週間ですから。楽しみですね」


「来週ぐらいには、新聞を読んだ人から何かしらの連絡が入るといいですね。そうそう、今週末にノーキョさん恒例の自然食の会をやるらしいので、 新聞で告知してほしいそうですよ」


「あら、新聞も期待されちゃって大変」こちらを見る目が笑っている。どうやら、記事を書くことが私の性に合っていて楽しくてしょうがないのを見抜かれているようだ。


「みんなの役に立ってますね」ミリルさんが褒め上手なのはわかっていても、言われるとうれしいものだ。


「次は、美味しい水の話と自然食パーティーの話で書いてみますね」


「私、もう少し水の本を読んでみます。ウォーターランドって呼ばれていた由来が知りたくて。お客さんにもお話ししたいし。この島が人を集める理由がそのあたりにあるのかもしれないですよね。ノートさんも知っていたのかしら? もしかして、不老不死になってしまったなんていう話はないでしょうか。そう思うとなんだか楽しくなります」


 というと読む本を選びはじめた。仮に不老不死でなくても、この島のスピードの遅さ程度に長生きしてゆっくりと生活を楽しめればと思う。 遅ければ遅いほどいい。


 虹はいつのまにか空から消えて、瑞々しい空気が島いっぱいに広がった。おいしい水もたくさんたまっただろうから、あとで、水採り機の具合も見ておこう。


 書き上がった新聞記事の推敲をしているとミリルさんが、「どこかで音楽が聞こえませんか?」と言った。


「ノルシーさんのピアノですか?」


「風の音かな。遠くのほうで太鼓のような音が……。聞こえませんか?」


「うーん、私の耳には何も」


「あれ、空耳かな。聞こえなくなりました」


 自然の奏でる音がメロディーのように聞こえることもある。彼らは、とても上手な演奏家だ。季節や時間によって人の心を読むようにさまざまな演奏を聞かせてくれる。ほかのどこでも聞くことのできない自然の奏でるメロディーに時間が過ぎるのをしばしば忘れる。お気に入りのハンモックに身を委ね、しばしのお昼寝を楽しむことにしよう。

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