第19話 時間のカタチ
エバンヌを出て東浜のほうに向かっていると、海辺にロスファさんのような人影が見えた。はっきりはしなかったけれど、行方がわからなくなったロスファさんに違いない。
ロスファさんはまだこの島のどこかにいるのかもしれないと思い、急いで家を訪ねてみたものの失踪したときと何も変わった様子がない。
気になって、すぐにリブロールに戻った。
「ミリルさん、突然だけど最近ロスファさんの情報、何か入ってますか?」
「新聞のなくしものコーナーの話ですか?」
「コーナーというか、ロスファさんその人の行方なんですけどね」
「うーん、残念ですけどまだないですね。元気だといいんですけど」
「そうですか……」
「何かありましたか」
「いやその、そろそろ何か情報入ったかなと思っただけです」
自分の見間違いだったかもしれないと思い、そのことを口にするのをとどめた。話しても余計な心配をすることになるだけのなる気がした。
「もう、この島にはいないのかもしれないですね。ものがなくなることに疲れてしまったんでしょうか?」
「そうですね。こんなにも時間に無頓着で、ものに執着しない人ばかりでは、ロスファさんみたいな人にとっては暮らしにくいのかもしれないね」
「慣れるととてもいいところなのに……残念ですね」
忙しくて、すべてが時間通りに進まないといけない町に暮らしていた人にとっては、こういう生活に馴染むのも簡単ではないのかもしれない。
考えてみると、この島にはほとんど時計がない。湿地に誰かが捨てた時計があるけど、それが忙しさの象徴だったかのように、ずっと針が止まったまま放置されている。錆びて朽ちていくのを見ていると湿地が時間を飲み込んでいるようにも思える。あの何もない湿地がこの島の生活をもっとも雄弁に伝えているのかもしれない。
リブロールにも時計はあるものの、それは形だけで、いつでも動いたり止まったりしながら勝手な時間を刻んでいる。だれも時計の時間なんてあてにしていないことを知っているようだ。気まぐれに普通よりもずっとゆっくりとしたコチコチという不規則な刻みが子守唄のように聞こえるぐらいだ。
船長から飾り物としてもらったものだけれど、骨董品でもないのにまちがった時間を刻む時計を持ってくるのが船長らしい。きっと、なにか船長のこだわりがあるのだろう。何も言わないで勝手に置いて行ってしまったから理由は聞いてない。
この島にも時計のある生活があったのだろうか。時間を形にした時計。もしあったのなら、そのころの人たちはメーンランドに戻ってしまったのだろう。そう思うと、時間が形になったときに人の生き方は変わってしまったのかもしれないと思う。今は止まった時計と遅れて時間を刻む時計が島の生活スタイルを確認するように置かれているだけだ。ネジを巻かなくても時間は悠然と流れていくと言われているのかもしれない。
「ロスファさんは、腕時計をしていました?」ちょっと気になってミリルさんに聞いてみる。
「いつでも忙しそうに腕時計を見てましたね。そう言えば、その腕時計もなくなったって言っていたような……」
「そうですか」
「なくても生活に困ることなんてないんですけどね、この島では」
時の流れを手に入れようとしたことにはたして意味があったのかと思いを巡らせていると、掛け時計が6時を告げた。
「そろそろお昼をしにしましょうか。船長の時計はまだ6時ですけどね」ミリルさんが笑いながらお手製の弁当を開いた。




