第十肆話 【開戦の時、放たれる矢】
ということで開戦です。
では、どうぞ
『オオオオオオオオオ!!』
怒号が交じる鬨の声が聞こえる。
イベントが始まると同時に森から姿を現したモンスターの軍勢とプレイヤーが戦闘状態に入ったことを示している。
フレンドリーファイヤのない魔法や矢を大量にばらまきつつ、近接職によって構成した戦線で敵の攻撃を防ぐ。
それに対して物量に勝るモンスターたちは同胞の死体を持って矢と魔法の雨を防ぎ、その膂力によって戦線を破壊せんと迫る。
「ロウ!俺たちは迂回して森に入り、大将首を狙うぞ!」
「ヴォン!」
ヤマトは端から戦線に加わろうとはしていなかった。
この戦線は仮のもの、崩されることが前提なのだ。継続戦闘が可能と思われるヤマトには適切ではない。
なら、戦線が敵を押しとどめている間に敵の本拠地である森を急襲し、特定撃派対象を打ち取ってしまう。これがヤマトの今取れる戦術である。
「やはり押され気味か・・・」
今の状況を正直に語るとすれば、劣勢の一言に尽きる。
それもそうだろう、物量の差が今は大きすぎる。徐々に減らしていくことが、このイベント攻略のための戦略である。
そもそもこんなに前まで出ているのはリスポーンにかかる待機時間による遅れを補うためである。何回か今のような戦闘をすることが前提なのだ。
「そういえば、ロウは俺が雷動で動いたらどうするんだ?」
「グルゥ!」
速力がかなりあるとは言っても、やはりスキルの恩恵をフルに利用する雷動の速度にはもちろん及ばない。
しかしその雷動を使えばロウが付いて来られないのではないか、という考えがヤマトの脳裏をよぎる。
ここで一度引っ込めればいいではないかと思ったヤマトだったが、ロウを早めに召喚した理由を思い出して諦めた。ロウは戦闘状態では召喚できないのだ。戦場に付けば強制的に戦闘状態に移行するし、敵地である森の中でも戦闘状態になる可能性は高い。
そんなヤマトにロウは一つ吠える。すると、ロウの体から小さな電気が発生し始めた。良く良く探ると、その電気はヤマトのスキル【雷電操作】に依るものだという事がわかる。つまり、ロウも雷動で一緒に移動できるのだ。
「結構、結構。じゃあ一気に行きますかね」
「ヴォウ!」
雷動を使うデメリットが完全に無くなったヤマトは、一気に距離を詰めるために雷動を使うつもりの様だ。その証拠に防具の上を電気が走り回っている。
それに呼応するようにロウの体を走っていた電気も少しずつ強くなり、その時の為に体を加速させていく。
そしてヤマトがモンスター軍団の出てきている森の少し奥まで雷電操作によって道を造る。その位置は、ちょうどモンスターたちがワラワラと出てくる場所の左端である。
「雷動!!」
閃光と共に黒の防具を纏った体が消える。
そして数瞬の後にはすでにヤマトの姿は目的地の近くにあった。
「行く!大将首を掻き斬るまで止まらんぞ!!」
「ガアアァ!」
その腰から剣を抜き放ったヤマト。乾坤一擲、近くのゴブリン達に向けて一閃、一気に2体を屠るとそのままの勢いで的確に急所を狙いながらモンスター達をすり抜けていく。
ロウはひと吠えすると同時に身より漏れ出る炎で数体のゴブリンを焼きながら、1体を噛みちぎってさらに爪を振るう。
モンスター達は始まりの街、引いてはそれに至るための道を邪魔するプレイヤーにしか興味はないようで、ヤマトに群がることはない。精々が、ヤマトの周りの4体ほどがヤマトの存在に気が着くと同時に襲いかかって来る程度、対処は容易い。
「まだまだァ!!」
ヤマトは突き出されたゴブリンの槍を抱えるように受け止め、その槍を側面からヤマトを攻撃しようとしていたワイルドウルフに叩き込む。怯んだワイルドウルフの胴体を切り飛ばし、その勢いでゴブリンを両断する。
そしてロウが炎によって焼いたワイルドホースのHPを削りきると同時に、頭上の太い木の枝に向かって飛んだ。
そしてその木の上で一息つくと、木々の切れ間から微かに見えるゴブリンアーチャーやゴブリンメイジや遠距離攻撃手段を持つモンスター達が固まる所に向けて、今度はヤマト一人で雷動を発動させる。
「小賢しい!」
ヤマトによって広がる被害にモンスター側が危機感を抱いたのか、遠距離攻撃による殲滅を図っていたようだ。
しかし直感予知と高速移動手段を持つヤマトにそのことを察知され、逆に無防備な体を晒してしまうことになった。瞬間的に2体のゴブリン種の首を飛ばすと、数歩分を一気に後退する。
残ったモンスターは8体、しかもそれらを守るように数体のモンスターが集結しつつある。ヤマトからすれば面倒な状況、しかし捨て置けば追いかけてきて邪魔をするだろう。
ならば・・・とヤマトは納刀した後に腕を交差した。
「龍魔法・・・咆哮!!」
ヤマトの選択は奥の手でもある龍魔法の使用である。
交差した腕を前に出した瞬間、額の契約印が光る。するとヤマトの体を半透明の龍の頭が覆った。そして前に出した手に光が集まり始め、数瞬でそれが完了する。
発射準備が完了した瞬間、半透明の龍の頭はその顎を軽く閉じた。最後に額の契約印が一瞬の閃光を放つと同時に龍は顎を開き、その力が解放された。
「おお・・・」
光の奔流が敵を飲み込む。その一直線上に居た全てを道連れにして。
かなりの威力に若干引くヤマトだが、続くインフォメーションに更なる驚きがあった。
[龍魔法:咆哮使用可能まで、残り3日23時間59分49秒]
一回使うごとに4日かよ!と心の中で悲鳴を上げるヤマト。
だがその分の効果はあるようで、森が一直線に消え去っている。もちろんある程度で止まっているようだが、大分先である。
もっと先まで取っておけば良かったと、後悔するヤマトは肩を落とした。
「グルァ・・・」
「悪かったよ、ここまでとは思わなくてさ・・・」
肩を落とすヤマトの横に到着したロウは、危うく掠る所だったとヤマトに鼻先を押し付ける。ヤマトは少し困ったようにしながらも、ロウの頭を撫でて謝罪の気持ちを表す。
それに気をよくしたのかロウは最後に一度強くヤマトを鼻先で押すと、尻尾で一つ撫でるように叩いた。おそらく「許して上げる」というような意味なのだろう。
その様子にヤマトは一つ笑いをこぼすと、すぐに前を向いて目を鋭く光らせていく。
「さて、再開だ!」
「グルァア!」
ヤマトはまた身を加速させる。
最初に接敵したのはワイルドウルフ。すぐさま後ろのゴブリンに向けて蹴り飛ばし、当たる瞬間にアーツ【壱之太刀】で2体共を一刀両断する。
そしてすぐ横を通り過ぎて敵を蹴散らし始めるロウを狙っていたボブゴブリンの首を跳ね飛ばし、ついでというようにワイルドバイソンに数太刀入れて倒してしまう。
ロウをフォローしながらも流れるように敵を倒し、着実に奥に向かっていく。
剣を振るうたびに確かに高揚していく自分の心を、冷静な思考で上手く乗りこなしていく。徐々にエンジンが掛かっていた体が最高点付近まで到達しようとする。
「良いぞ!良いぞ!もっとだ!もっと!」
直感予知の効果により自分に攻撃しようとする後方の敵を、一瞬すら見ることなく切り伏せていく。それと同時に片手で自分の体を回して加速させ、ボブゴブリン数体を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばしてすぐに体制を戻し、飛びかかって切りつけるヤマト。なす術なくボブゴブリンは切り伏せられていく。
体を躍らせながら敵を斬り倒していくヤマト。その表情は笑っていた。それは彼の身に刻み込まれたDNAがそうさせるのか。ともかくとしてヤマトは笑っていた。
「グル!」
「居たか!!」
ロウがヤマトに吠えた。ヤマトはその意味を瞬時に理解する。
『大将首が近くにいる』と。
理解すると同時にヤマトはさらに体を加速させる。一度木の枝の上に乗ると、その敵の姿を補足する。
ゴブリンナイト LV.30 特異個体
モンスター 警戒中 指定討伐対象
「お前が!大将首か!」
「ヴォン!」
加速した力を余すことなく剣に伝えて、斬りつけた。敵は見たこともない種類、恐らくはゴブリンの上位種。どんな攻撃をしてくるのか分かったものではなく、接近戦主体のヤマトには辛い相手と言えるだろう。
しかしヤマトには相手がゴブリンの縁類であるという事さえ分かればそれで十分だった。
ただ、上位種だけあって瞬時に剣を振り抜くことでヤマトの初太刀を受け流す。
「防ぐか・・・ならッ」
初太刀は防がれたものの、ヤマトは斬りつけた勢いそのままにゴブリン上位種の後ろに回り、背後を取る。そして袈裟懸けに斬りつけた。
しかしゴブリンナイトは瞬時に前に向かって飛ぶことでその傷を最低限にまで減らす。さすがに完全に無くすことはできず、ある程度の傷を負う。
「これも避けるか」
ヤマトはゴブリンナイトと対峙する。下手に動けない緊張感が両名の間に走る。
その間ロウは周りのモンスターを牽制するように動いてくれている。その為にヤマトとゴブリンナイトの周りには何者もなく、その様子は一騎打ちと呼ばれるものだった。
そしてゴブリンナイトが動く。
「・・・ッオオ!」
ゴブリンナイトは自身の脚力によって前に倒れこむように加速して、剣を前方に掲げて突撃する。その威力は目の前で見れば肌で感じることができるほどに高い。
しかし相対しているのはヤマトである。己の剣を使ってゴブリンナイトの突撃を逸らす。
ただしその突撃の威力が高かったこともあり、完全には逸らしきれずにヤマトの体制も崩れてしまい、いかにヤマトといえども追撃の剣を振るうことはできなかった。
「しっかし、強い!」
今まで温めてきたエンジンをフル始動し始めたヤマトの剣速が徐々に上がり始める。
口に張り付いた笑みは鳴りを潜めることなく、未だにヤマトの心中をこれでもかと表し続けている。
いくらステータスが高いと言っても、モンスターとの戦いでタガが外れ始めてきているヤマトの剣をまだ受け止めていられるゴブリンナイトは十分にプレイヤーの驚異となり得たのだろう。
「甘い!」
しかしヤマトがゴブリンナイトの目の前に現れた時点で、彼の運命は既に決まったようなものである。
ある程度の被害を覚悟で大きな攻撃を放ったゴブリンナイトだったが、ヤマトは瞬時に後ろに飛ぶことでそれを躱す。しかもそれだけではなく、剣を鞘に戻して抜刀術を発動させるための準備を行う。
「・・・シッ!」
瞬間的に加速してまず切り上げの一太刀、そのまま押し込んで切り下ろしの二太刀、最後にアーツ【壱之太刀】で回転しながらの横薙ぎの三太刀。数瞬の間に三回の斬撃を行った彼は、また離れて剣を収める。
しかしゴブリンナイトも意地に近い何かで攻撃を受けた体を無理やり進める。そしてその手に持った太刀でヤマトに攻撃を放つ。
納刀をしてしまったヤマトは仕方がないと剣を抜くのを諦め、腕に装着されている手甲でその剣を受け流す。
「やるな!だが足りんぞ!」
ヤマトは無意識にゴブリンナイトに挑発を仕掛けた。ゴブリンナイトはそれに乗る。
周囲でロウが倒したゴブリンの剣を手に取ると、二刀流での攻撃を始めたのだ。
抜刀術をする隙はなかったものの、瞬時に剣を抜きはなったヤマトはゴブリンナイトの攻撃を受けていく。単純に剣の本数が増えたことで敵の攻撃が激しくなり、ヤマトは少しずつ引きながら受けなくてはならなかった。
「良いぞ・・・良いぞ!」
しかし防戦一方であるはずのヤマトの顔には、未だ笑みが消えてはいない。戦闘に高揚する心が、この状況に至っても彼を笑わせているのだ。
その笑みが虚勢でないことは、徐々に後退を止めて前進し始めるヤマト自身がまるで見せつけるように示していた。
その様子に言い知れぬ恐怖を感じてしまったゴブリンナイト。
そして恐怖がゴブリンナイトの剣を僅かに鈍らせた。
「ッ!!好機ッ!!」
恐怖によって剣を鈍らせてしまったゴブリンナイト。もちろんそのことを見抜けないヤマトではない。
絶好機だと本能的に悟ると、一気に攻勢を強めた。
その手から放たれる剣閃がゴブリンナイトの剣を1つ・・・2つと跳ね飛ばす。
ゴブリンナイトは跳ね飛ばされた剣を拾わなければならない、否、例え危険だろうと拾いに行かなければ話にならないと悟る。そして剣が跳ね飛ばされた後方に向かって飛ぶ。
無事に剣までたどり着いたゴブリンナイトは剣を握り直しつつ、自らの敵を視界に捉えようと振り返る。
振り返ったその時見えたモノはゴブリンナイトにしか見えない為に想像でしか語ることはできないが、ヤマトが全力の殺気と闘気を放った姿を見た彼の目を覗き込んでソレを見れば、ゴブリンナイトの心を一瞬で染め上げた恐怖をおそらく理解できるだろう。
量子コンピューターの演算結果の集合体によって生み出された魂が、己に与えられた野生の勘で全てを悟ったのだ。
勝てない、死ぬしかない、食われるしかない、抵抗は死を早めるだけ、逃亡すれば背後から襲われる、動いたら死ぬ、避けても死ぬ、何をしても死ぬ、何もなすことを許されずに死ぬ、何が起こっても死ぬ、生き残ることはできない。
そう、なぜなら目の前にいるのは―――――
「ギェィアアアアアアアアア!!!」
さて、いかがでしたでしょうか?
イベントは書いてて楽しいです。
しかしーあれですな。私的に盛り上がり時のイベントなのですが、さっさと終わっちゃいそうで怖い・・・長引かせたい・・・
ヤマト君がバトルジャンキーみたいになってるのは、私のせいじゃないはず。
今回の裏話
実は今回ボスとして登場したゴブリンナイト(特異変種)ですが、実はヤマト君がさっぱり『一発で』真っ二つにする予定でした。
しかしさすがにイベントのボスの一体を、一撃で真っ二つというのは無理があるかと思い直しました。危なかったです。




