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最終話 家族が3人になって家が買えるようになった

はい、『この話』は、ここで終わりです。

いやだって、タイトルがこうなんだから

ここで終わるに決まってるやんか…

メイヴィアは

天国にいるような気持ちから

地獄にいるような気持ちに陥った。

いや、地獄ほどではないか…

少なくとも有頂天だった所で

地に引きずり降ろされる感覚に陥る。


まったく幸せであった。


何という充足感であろうか。


絶対的に自分を護ってくれる人を

得るという事は。

その身だけではない、自分の心さえも。


たった3日、

一緒に行動していただけなのに

はっきりと端から見て取れた。


フィアが異常に彼に大事にされて、

フィアも彼に心酔してるのを見て

それほど彼の嫁として扱われるのは

幸福な気持ちに陥るのだろうか?と

羨望の眼差しを送ってしまっていたが、

なるほど…。


これは異世界的な

愛情とでもいうのだろうか?


”死んだことがあるから

 自分が大事に思えることに素直になれる”

という、正気で聞いていると

意味が分からない言葉も

体を張って守られたり、

愛情で包まれたりすると

その思いの濃度が違う事が分かって

痺れてしまう。


今のメイヴィアの印象では、彼は大盾なのだ。


大事なモノを護るために、その前に立って

脅威から守ろうとしてくれる大盾。


彼が大盾を装備しているのも、

それは彼の意思を具現化してるだけの事。


気持ちの大盾を自分たちの前に立てて

護ろうとしてくれるのだ。


その大盾で守られる範囲に、

永遠にフィアはいて

自分は義理の期間限定で、

その中に入れてもらっていた。


それが今は、フィアと同じ様に

永遠にその守備範囲に入れてもらったのだ。


これは何という多幸感であろうか?


心の中でずっと自分が欲しがっていたモノ。


”聖女”という自分を縛っているモノから

ずっと求めていた、助けて守って貰えるモノ。


心の底でずっと欲しかったモノが

手に入ったのだ。


それが幸せと言わずして、

何を幸せと言えばいいのだろう?


だから、天国にいるような気持ちだったのに…


日課の朝の祈りと女神への信託の拝礼。

聖女を失ってしまったのだから、

これからは声を聴くことも

出来なくなるのだろうな

と、少しだけ寂しくなって、

そう思っていたのに…


『汝の愛する伴侶と子を為せ』


聞こえてしまった…

ハッキリ聞こえてしまった…


「はい?」


メイヴィアは祈りを捧げその声を聴いたとき

間抜けな返事をした。


挿絵(By みてみん)


何か間違ったのかと思って

思わずもう一度祈りを捧げ、信託を心で願う。


『汝の愛する伴侶と子を為せ』


今度もハッキリ聞こえた。

むしろ、今までで一番

ハッキリと聞こえたくらいだ。


え?


思わずメイヴィアは、

自分が聖女になってから出来るようになった、

2重詠唱を行ってみる。


聖女として畏れられるようになった

1つの因子がこれであった。


祈祷の同時の2回詠唱。


普通の神官では一度の祈祷に1回というか

それが原理的に普通である。


にもかかわらず、彼女は同時に祈祷を

2度使う事ができるのだ。


聖女の奇跡の能力の1つである。


そしてそれを行ってみれば

2つの祈祷がそこで行使された…。


その光景に愕然とするメイヴィア。


『聖女の能力が失われていない』


まず1つ分かったのはそれであった。


その事実に目を見開く彼女。


昨日、叔父とあれだけの大立ち回りをして

叔父が滅茶苦茶な方法論で

失わせようとした聖女の力。


自分も彼の主張に飲まれて

『自分の処女を奪われたら、

 聖女ではなくなるのだろうな…』

と、そう思い込んでいた。


それは何となく納得性のある話に

思えたからだ。


例えば、

好きな男と散々、

愛欲にふけるような女がいたとして

そんな女が聖女などと言われても、

何か説得力がない。


それは誰だってそう思うだろう。


だから聖女とは清い娘でないと

維持できない存在なのだと、

自分でも思っていた…


それなのに…


別に処女を失っても

聖女の力は失われない?


それは驚愕の事実であった。


いや、なれば”聖女”とはいったい? 


メイヴィアはそれを悩んだ。


まぁ、一旦、それは横に置いておこう。


聖女が処女でなければならないなんて

実の所、誰も分からないのだ。


前に聖女が現れたのが200年前。


その時の伝承は、

伝説のお伽話レベルになっている。

詳しい事は誰も分からないのだ。


なので、本当はこれがその当時も

同じだったのかもしれない。


だから、まず、置こう。


問題なのは、信託で声が聞こえ


『指示』


が出た事だ。


提案や導きではない。

これは明らかな『指示』だ。


女神から声がハッキリ聞こえるだけでも

頭がパニックになる事なのに

よりにもよって『指示』が出た。


”唐突に出来た自分の旦那と子供を作れ”


その言葉に目の前が、真っ暗か真っ白になる。


そもそも、前の信託からして


『その出会いを大事にしなさい』


である。


あからさまにおかしな信託であったが

それでもあの時の現状では、そうするしかなく

それが何か自分の展望になるのだろうかと

期待と不安を抱いていたのに…


信託に従って結果がこうなったら

今度は子供を作れと、

自分の聖女に要求してくる女神。


これに『作為』を感じなかったら

流石に人間が馬鹿正直であろう。


”神は私とあの人を結ばせて

 子供を作らせようとしている!?”


その信託をまともに解釈するなら

そう考えるしかなかった。


いや、別に今の現状から、

未来にそうなったとしても

それは嫌ではない。


嫌ではないのだ。


しかし、そんな恣意的な事を

今まで声がかすれて聞き取りにくかった声が、

完全に聞こえるようになって

ハッキリとそう要求してくるとは

どういう事なのか?


という事は、少なくとも水の女神の中では

あの異世界転生してきた青年は

自分の聖女と子供を作らせねばならない程に

重要なキーパーソンという事になる。


それに関して、色々と考えられることはあるが

いくら憶測しても、神の思惑など

人間に推し量れるモノではない。


「か、神よ…

 少しだけ、お待ちください…

 その…、私、女の子になったばっかりだし

 お嫁になったばっかりなので

 こ、心の準備というものが…」


メイヴィアは引きつった笑みで

神にそう口上するしかなかった。


―――――――――――――――――


その二人は、何やら満足気な表情で

酒場のカウンターに座っていた。


その首には黒いベルトに青い宝石。


二人の首には同じように

”忠誠の証”が巻かれている。


本来は自己卑下しなければならないハズの

その印を、むしろ誇らしげに周囲に示して

二人は朝食を取っていた。


挿絵(By みてみん)


そんな二人の、1つ隣で、

冷や汗をかきながら朝食を取っている

青年が一人。


その前にギルドマスターのボブが居た。


「護衛依頼は失敗でいいな?

 返せよ、前金…」


そう言ってボブは青年の前に手を出す。


青年は萎縮して、

おとなしく、前金に貰った宝石を2つ返した。


「どうしてこんな事に…、

 あれから何があったら、こうなるんだ?」


そう言ってボブは呆れるしかなかった。


彼らがここから逃げ出して、

結構な時間、乱闘が続いた後に

仲裁にやってきたのが

まさかの高名なグレゴリアス卿だ。


もう、そこで嫌な予感しか

しなかったのに

卿がそこに居た子爵と話をつけて、

領内での少しの無茶が許可されて

それでリョウがどうなってしまうのかと

ハラハラして、何日も待っていたが…


帰ってきたら『こう』だった。


「あの子、隣の国の聖女の

 メイヴィア様だよな?」


ヒソヒソ話でリョウに声をかけるボブ。


「やっぱり知ってたのか!」


何も聞かず、いきなりそう聞いてきたので

凄い顔で睨んで、そう問い返すリョウ。


「顔を見るのは初めてだったが

 神聖騎士団が”メイヴィア様”って

 追いかけてくりゃ、そりゃあな?」


そう言って肩を上げるボブ。


「とんだ護衛依頼だったぜ…」


その答えにリョウは腐って返した。


「まぁ、詳しいのは後で聞かせて貰うとして…

 追われてたはずの彼女が

 お前の嫁になって帰って来たのを

 簡単に説明できんのか?」


そのカウンターでニコニコしながら

朝食を取っている奴隷嫁2人を

呆れた顔で見ながら、深くため息をつくボブ。


「グレゴリアス卿って頭のおかしいオッサンに

 ボコボコに殴られて、

 『この子を嫁に貰って一生護れ』

 って言われて、こうなった…」


リョウは詳細を省いて、

こうなった経緯を超簡単に説明する。


「あ~~、へ~~~

 そんな感じか…なるほど?

 相変わらず、豪胆な事をする方だなぁ…」


そのリョウの言葉に更に呆れて

肩を上げるボブ。


前にフィアという

生き死にの瀬戸際にあった性奴隷を

笑えない金額で買って

連れて来た時も驚いたモノだが

今回のは、それを遥かに越える所業だった。


どんな天運があったら、

そんな事になってしまうのか?


ボブは思わず自分のこめかみの辺りを

手で押さえた。


そこで隣にいた、

ボブの冒険仲間だった爺さん

オッグスという老人が割り込んできた。


「まぁ、それならそれも、結果じゃないか…

 あの子を、国の雑務から遠ざけたいという

 グレゴリアス卿の思惑…

 そういう事なんだろう?

 ただ、君の負担は、これからかなりのモノだろうが…

 それは美人の嫁さんを2人も貰った男の

 果たすべき義務という奴だよ…」


そう言って彼は笑いながら

リョウの背中をバンバンと叩く。


彼はボブとずっと付き合いがあるせいか

ギルドマスター並に事情を知っていたのだった。


リョウはその言葉にただ深くため息をついて

肩を落とすしかなかった。


「はぁ…金の融通もなんかできちゃったし…

 これからは訓練場に通おうかなぁ…」


そう言ってリョウはさめざめと

朝食を食べるしかないのであった。


―――――――――――――――――――


早速、訓練場に通って

グレゴリアス卿が言っていたように

基礎訓練を積み重ねてみるリョウ。


万象強化で力ずくの無理は押し通せるが

指南役に、己の身体力に頼りすぎて

フォームがまるで成っていないと

ダメ出しを食らい

より良くなるフォームを指導される。


リョウはその指導を真剣に聞いていた。


今までは金の余力問題で

満足なほどできなかったが

フィアに練習用の木の矢を買って

射撃訓練もする事になった。


フィアも思うところがあったのか

不平不満を言わず、黙々と訓練を行い

指南役の指導に耳を傾けていた。


メイの方はというと、

今までの修行の積み重ねから

自分のルーチンワークがあるらしく

むしろ、ずっと適用下になった

万象強化の強化支援と

自分の祈祷との相性を調べて

調整をしているようだった。


ともかく3人が3人とも

『手も足も出なかった』

という事実を重く受け止め、

己の鍛錬に真剣に打ち込んでいた。


そんな訓練が夕方まで続き

訓練場の方が閉場になると

リョウは街の通りにあったベンチに座って

呆然と目の前の夕焼けを見つめていた。


まだ記憶に新しい

グレゴリアス卿のあの猛烈な動き。


手も足も出ないとは

まさしくこの事だった。


鍛錬を基礎からやってみようと

訓練をしてみると下積の大事さが

痛い程分かってくる。


万象強化とは個人の能力を強化する異能だ。


という事は、

ゼロを何倍にしてもゼロでしかないのだ。


自分の力の基礎を鍛える。

そして基礎力を高める。


そうやって積み上げたときこそ

この異能の本当の力が発現される。


自分は今まで、我流で

ダンジョンの現地に対応できるだけの

実地訓練しかして来なかった。


それはそれで強くはなれたのだが

今回のようなイレギュラーが起きたときに

その方法では、十分に対応できるような

臨機応変の力がつかない。


つまり、今までの自分のやり方は

『ダンジョン特化』と万象強化の能力任せ

だったのだ…


それが今回の事でハッキリとした。


自分は弱い。


少なくともこんな美人の嫁を2人も貰って

その人生の全てを護ってやれるような

そんな強さには程遠い。


それをグレゴリアス卿に

実戦で突き付けられて思い悩むしかなかった。


強くならないといけない。


少なくとも自分が大事なモノを

大切にしたいと思うなら

それを護りきれるくらいは、強く…。


だからふっと、目頭が熱くなる。


結構、この半年、

自分なりに頑張ってきたと

思ってたのになぁ…


そう思って愕然とする。


結局、万象強化頼みだったのだ。


何もかもが全部。


あの緑髪の邪神にずっと腐りながら

それでもあの邪神が贈ってくれたプレゼントに

依存しまくっていた自分。


あの邪神を許すわけにはいかないが

それでも、現状に腐って

ヤケクソ気味になってたのは否めない。


特に今は、自分だけの体ではない。

大事な家族ができた。


だから、これから先は、ずっと自分の責任だ。


言い訳をしていたら、

今度は嫁の命を失うかもしれない。


今回はあんなヒョウキンなオッサンだったから

こんな敗北感で済んでいるが

もし、やってきた敵が、何もかも殺すような

極悪な強敵で、フィアかメイが殺されていたら?


それを想像して、ゾッとなる。


強さだ…。


護るためには強さが必要だ。


それはただ膂力を上げればいいという

そんな単純なモノではないだろうが

それでも弱い自分を、言い訳にしてはいけない。


結局、積み上げるしかないんだ

いろいろな事を。


それを実感して、夕日が目に染みる。


そんな時、


「こんな所にいたんですか?ご主人様」


「探したんですよ?

 まぁ50mくらい離れると、

 能力の接続が切れるので、

 おおよその位置は分かるんですけど…」


そう言って、フィアとメイがやってきて、

リョウが座っている長椅子のベンチに

彼を真ん中に左右対称に座った。


そして二人で彼の腕に腕を絡ませる。


リョウはそれに特に何も言わず

為されるがままだった。


「何考えて、そんな風に黄昏てたんですか?」


メイが上目遣いに見上げて、尋ねてきた。


「まぁこんな風にボロ負けすると

 思うところしかないからな…」


そう言ってリョウは乾いた笑いを

浮かべるしかなかった。


その一言で、

フィアもメイも沈黙するしかない。


二人もリョウと同じ心配をしているのだ。


今回は運が良かったが

それは運が良かっただけだ、と。


リョウが言い出した、

訓練場での基礎訓練の見直しに

素直に従ったのも、彼と同じ思いだったからだ。


負けるという事は、それだけ意識改革を

必要にされるという事だった。


「しかし、何なんだろうな、この結果…」


リョウはつぶやく。


「何ですか?ご主人様」


今度はフィアが上目づかいに彼を見上げる。


「だって、護衛任務は失敗、

 ボスにはボコボコにされ、護衛対象が嫁になって

 家を買える金が手に入った…

 結果だけを列挙するなら、意味が分からん」


そう口にして、今回のクエストの終わり方を総括する。


「本当ですね…

 結果だけを聞くと、なんだか、意味が分かりません」


メイはじっとそれを考えて

よくよく考えると自分の事なのに

まるで他人事のように、

その結果の意味のわからなさを軽く笑った。


「でもご主人様

 結果的に良かったのなら

 やっぱり、良かったじゃないですか…」


そう言ってフィアは、はにかんで彼の腕を

ギュッと腕と胸で握りしめる。


フィアとしては、ようやく家が買えて

人心地つきそうなのだ。

経緯がどうあれ、結果は大事だった。


「まぁそうなんだけど…

 もっとカッコよくいきてぇよなぁ…

 これが御伽話だったら、カッコ悪くて

 誰にも聞かせれないよ…」


言ってリョウはベンチの後ろに反り返る。


負けて嫁にこんな風に両腕しがみつかれて

微笑まれてるって、どんなお伽話なんだよ?

と、呆れるしかない。


その言い様に二人の目が横棒になる。


「(あんなピンポイントな台詞を言って

  どの口が言うんですかね?)」


フィアの目がメイにそう言葉を投げる。


「(本当にこの人はギルバルト王のお伽話を

  知らないのかしら…彼の名台詞

  『自由だろうが束縛されようが

   幸せになれなきゃ、

   何の意味もねぇだろうが!!』って

  公爵に向かって叫んだ、クライマックスの台詞)」


メイの目もそういってフィアに同意を求めた。


「(知らないって恐ろしい事です)」


フィアは目でそう言って呆れるしかなかった。


そんな女の子の心事情など

全く知らないリョウ。


ただ、敗北感に押しつぶされるだけだった。


――――――――――――――


そんな時だった。


そう、そんな時だった。


ふいに行商のおばちゃんが

3人の前を通りかかった。


「ありゃ?イイ男とすごいべっぴんさんが

 仲良さそうだねぇ…

 旦那、2人も良い子連れて

 豪気な事じゃないか…

 豪気ついでに、珍しいモノを貰ったんで

 買ってかないかい?」


そう語りかけてきては

商品袋をゴソゴソし始めた。


「珍しいモノ?」


俺はおばちゃんの言い様に興味を惹かれ

彼女の出す商品を見ようとする。


「まぁ私も、これはさっき出て行った

 商隊の連中から貰った、又商品なんで

 私の売り物ってわけじゃないけど…

 珍しいモンなんでね…

 ほら、どうかね?」


そう言っておばちゃんは、『それ』を俺の前に出した。

『それ』を見て、俺は一瞬、

自分の心臓が止まりそうになる。


「どうして…そんなモノがある?」


俺は『それ』を見て、ただそう呟いた。


俺の言葉に反応してフィアもメイもそれを見て

そして今度は俺の顔を伺った。


彼女たちには『それ』が何か

全く分からない様だった。


「うーん、珍しいモノでね。

 あいつらがたまに作って

 おすそ分けしてくれるんだよ。

 どうだい? 見た目はこんなんだけど

 おいしいんだ、安くしとくよ?」


言っておばちゃんはニコニコする。


「買えるのか?それを!?

 幾らだ! いや幾らでもいい!

 これだけでどうだ!? 全部売って欲しい!!」


そう言って俺は即座に出せる金貨3枚を

おばちゃんに見せた。


「はぁ!?金貨3枚だってぇ!?

 こいつは珍しいモノだけど、

 そんなお金を貰うモンじゃないよ!!」


おばちゃんは俺が出した金貨3枚に仰天した。


「構わない!!

 俺には金貨3枚以上に価値のあるモノなんだ!

 7個あるか!?

 全部売ってくれ!全部だ!!

 1個1金貨でもいい!!!

 俺の嫁たちにも是非!!」


そう言っては

慌てて俺は財布袋を取り出して

更に金貨を出そうとした。


「えっとご主人様、アレは何なんですか!?

 そんなに取り乱して…」


フィアが俺の剣幕に声をかける。


メイもその茶色くて三角で

下に黒い四角なのがついている不思議な食べ物を、

興味深そうな目で見ていた。


「そんなお金を出してまで

 買いたいようなモノなんです?」


メイがそう尋ねてくる。


「7金貨でも足りないモノだ!!

 どうしてこんなモノが、ここにあるんだ!!

 ばあさん、残りの金貨だ!

 だから全部くれ!!」


そう言って俺は婆さんの手に

残りの金貨を手渡した。


「はぁ凄い勢いだねぇ…

 まぁ、これはおいしいけどねぇ…

 アンタ、これを昔に食べた事があるんかい?

 こんな無茶苦茶な代金出して…」


婆さんは驚きながら俺から金貨を貰い

そして『ソレ』を俺に渡してくれた。

俺はそれを手に取って総毛立った。


間違いない!


これは本物だ!!


俺はその手触りに狂気する。


「あたり前だ!!

 俺は昔いた場所で、毎日これを食っていた!!」


そう叫んで俺はそれにかぶりつく。


嘘だろうっ!?

味まで同じなのかよっつ!?


「へえぇぇ、アンタ、南方の出身なのかい?

 見た目は東方人に見えるがねぇ…」


婆さんはそう言って呆れていた。


だが俺は、そんな台詞を聞くより

ただそれを口の中いっぱいに

広げるしかなかった。


口の中に広がる”その味”に、

思わず涙が滲む。


これだ…

これなんだ…日本人ってやつは…


俺はそれを口の中に入れて、

ただそう思った。


「な、何なんですか?御主人さま、それって?」


「貴方が昔いた所で、毎日食べていたモノ?

 え? ええ??」


二人は、俺が行儀悪く、

それをそこで食べ始めた事に驚き

それをじっと見つめるしかなかったようだ。


「二人も食ってくれ!!

 俺の故郷の料理を!! 食べて欲しい!!

 食べて欲しいんだ!! 

 この【焼きおにぎり】を!」


俺はそう叫んで、二人に

茶色で三角形で挙句に海苔まで付いている

【焼きおにぎり】を差し出した。


「ご主人様の故郷の料理がこれですか!?

 はい、なら喜んで!!」


そう言って手に取るフィア。


「これが、…異世…いえ…貴方の故郷の…

 私にも貰えるでしょうか?」


メイもそう言っておにぎりを受け取った。


そして二人が、恐る恐るそれを口にする。


「わぁ!おいしい!」「んんんっ!!!」


二人がそれを頬張って、

同じように歓声を上げた。


挿絵(By みてみん)


「不思議な食感です!」


「なんというか独特の味だけど

 パンとも違う食感と塩味が…」


二人共が焼きおにぎりを食べて

その食感と味に喜んでいた。


そうだろう!そうだろう!

まだ温かみがある! 

焼きたてなんだ!!


海苔付きで、塩が効いていて

何でこんな再現性なんだ!!


俺はしゃにむにおにぎりを頬張って

あの世界のあの時代の、

それでも変わらないあの味を

深く味わった。


そしてその時、何故か、

これがここにある

理由が分かった気がした。


何故か、この焼きおにぎりを食って、

『アイツ』の顔が過ぎったのだ。


俺をこの世界に送り込んだ、

緑髪の邪神の顔を。


そいつは、俺の心の中で

【お疲れ様、差し入れだよ】

とか言ってるかのように、笑っていた。


ちきしょう!! てめぇぇぇ!!!


俺は怒り心頭したのに、

2つ目の焼きおにぎりに手を付けた。


なんて事をしやがるんだ!!


もう忘れてしまいそうだったのに!


米なんて、俺の魂を!!


なのに!!


ポロポロと涙を浮かべながら、

俺はそれを食べる。


「ありゃりゃ、泣くほどうれしいのかい…

 まぁ故郷の食べ物ってのは、

 そういうモンだよねぇ…」


俺の様に、婆さんは苦笑して、

肩を上下させていた。


「婆さん! この【米】は、

 この世界に売ってるのか!?」


俺は凄い形相で、婆さんにそれを尋ねた。


「米? なんだいそりゃ?

 いや、それはモカの実を

 特殊な方法で調理したモンらしいよ?

 南方の特殊な料理なんだってさ…」


言って婆さんは俺の質問に答える。


なるほど、米では通じないか。

きっと『モカの実』がこの世界の米の名前だ!

よし学習したぞ!


「うん、そのモカの実とやらは

 南方に行かないと買えないのか!?」


俺はとても大事な事をそこで聞く。


「んにゃ? 南方の国の商品も流れてくるから…

 こんな地方ではモカの実を売ってるのは珍しいが

 王都にいけば、珍しい食材として

 売ってるハズさね」


そう言って婆さんはケタケタと笑った。


「王都!! 

 王都に行けば米が買えるだって!?」


俺は、思ったよりも近場に

それがあると分かって狂喜した。

いや、ここから王都まで、

どれだけ遠いのか知らないんだが。


それでも、

メイと一緒に目指していた場所だ。


そこに行こうとしていたんだから

あんな状態でも、

行けなくはない距離なんだろう。


だから、俺の瞳に希望の光が灯った。


「ご主人様…

 これを買いに、今度は王都に?」


フィアが今の会話の流れで

それを尋ねてくる。


メイも焼きおにぎりを食べながら、

俺を見つめていた。


「今すぐには行けないさ…

 俺たちは、家を買うか、作らないといけない。

 帰れる所を作らないと

 旅なんて出来たもんじゃない」


そう強く口にして

俺は焼きおにぎりを食べ続ける。


ああ、うめぇ…旨すぎる…。


なんだよこれ…


こんなにうまかったのかよ。


俺の心が震え、涙腺がどんどん緩くなる。


「でもなぁ、決めた!

 米がこの世界にあって、

 そこに売ってるんなら!

 迷う理由が無いだろう!?」


俺は泣きながら焼きおにぎりを食べて

ただそれを口にする。


「俺さ、家を買ったら…

 米を捜しに行くんだ…」


ただ、そう呟いて、

俺は焼きおにぎりを食べながら

ほろほろと泣いて、

もう帰れない故郷を思うのだった。


挿絵(By みてみん)



(終)


続編がこっちになります

https://www.pixiv.net/artworks/148765292


いやー、まさかカクヨムで適当に作った

キャッチコピーがラストの決め台詞になるとは…


ラストのこのシーンを思い付いたときは

流石に、ちょっと、「あ、そこ書いてみたいw」って思ったね


第1話で

「米食いてぇ!」

って書いた後に、カクヨムでそのキャッチコピー作って

「こんな台詞で、ラストシーンの台詞が作れたら

 頭オカシイ人じゃねぇか?」

ってずっと考えて、こういうの思い付いて

「うわw 流石にそれは書いてみてーw」って

書いたんですけど…


はい、この話は終わりです。


だって、タイトルで最終目的書いてて

その目的を遂行できるだけのお金貯まったんだもん

だから、この「タイトルのお話」は、ここで終わりです


このキャンペーンは終了で

キャラクターシートとパーティーの引き継ぎで

次のキャンペーンが始まるよって話


ようやく中核メンバーも揃ったし


まぁ、フロムゲーで言う所の

負けイベ&チュートリアル終了って所ですかね


実質的にはプロローグの終わりだけど

でも、どう続けるかは、まだ考えてないんで

ひとまず、プロローグエンドで、一区切りと。


やーー、終わったー \(^o^)/

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