道明寺 晶
車両のシェードは何故かその窓だけ開け放たれていた、そこから射し込む日射しは終業を迎えようとする太陽が働き方改革の悪影響か顔を真っ赤にして私を照らしていた、女性は兎角冷え症で夏でも冷房は辛いと思われがちだが私は違う兎に角暑がりで夏に弱冷房車が必要か?逆に強冷房車を作ってくれと思う程である、しかしこのシェードだけ開いている理由はなんなんだ、入れ替わりで降車した子供が外を眺めようと親に頼んだのか、だったら何故その親は後の配慮を怠ったのだろうか、しかし暑い、既に10月も中旬を迎えると言うのに。
車内は帰宅ラッシュで混雑具合は最悪、エアコンは作動しているが人々の発する熱と湿気で無いも同然、しかも近場にはスパイシーな香りを放つ本格カレーショップが営業し今度カレーを食べる際きっと思い出し食欲が失せるはずだ、そこにこの西陽だ、ジリジリと照り付け額には汗が滲みそれを拭いたいがウォータープルーフファンデーションとは言えこの場でそれは避けたい、それに決して臭うわけではないが脇には発汗の気配が、グレー系の服なら速攻降車してキレ気味に全てを放り出し帰宅の一択であったが幸いそれは避けられた、とりあえずこの西陽だけでも何とか打破しようと首だけを動かし満員の車内を見回したが女子の平均身長を上回る私を持ってしてもそれは見当たらない、ならば単純にシェードを下げれば済む事であるが其れには先ず前に鎮座する推しだか何か知らないがそのロゴがプリントされた首元ヨレヨレのTシャツを着るオタクへ断りを入れシェードを下げなければならないのだ、此処からは私の偏見でしかないのだが伸ばした上半身前面は服が身体に密着しラインが顕になる決して自慢できる程大きくはないが、伸ばした腕の袖口から腋でも覗けばたまったものではない、前屈みになった瞬間首元から下着に収まる貧乳、いや微乳の谷間が見られたら確定でコイツの今晩のオカズになってしまう、もしコイツが上を向こうものなら瞬間揺れに乗じて何処でも構わない肘をいれてやる、出来れば鼻っ面が良い、その推しTシャツとやらを血で染めてやる等と裁判になれば侮辱罪、名誉毀損罪、傷害罪で確実に敗訴しそうだがお前のオカズになるよりマシだと言う気概はあった、しかしだそもそも太陽と同じく終業間際の私がこんな地獄列車に乗せられているのかと言う問題だ、決して周りの人達と同じ理由ではない大半は帰宅であろうが私は違うのだ、込上げる怒りで吊り革を引きちぎり目の前のオタクへ投付けその理由を胸ぐら掴んで教えてやりたい衝動に駆られる。
私は都内の体育大を卒業後、就職浪人を避ける為、先輩の伝手を頼り都内中堅商社へ就職した、正直、畑違いで苦難の日々であったがそこは体育会系スピリットで毎日楽しくやり甲斐に満ちていた、そんなある日その先輩が退社独立すると言うのだ勿論オートマチックで私も呼ばれるつもりであった、先輩の位置には社長の親族がすげ代わり先輩を乗せた船は私を岸壁に残し出航して行ったのだ。
“同族企業は三代で潰れる”とはよく言ったものでその上司は国語辞典の記述通りを体現してくれた、普段はオヤジギャクで言う"︎︎︎︎何にも専務"︎︎であった、しかし組織において何もしないなら端から当てにせず通常通り業務も進むのだがこう言った手合いは概ね変なスイッチを装備している、普段何もしない男が急にやる気を出すのだその結果は明らかだった、そうして私は終業間際から得意先へ赴く羽目になったのだ、しかも私が最も嫌うオクラ納豆並にネチッこい部長のいるあの企業、弱り目に祟り目状態で虎口に入って行くのだ虎児でもいれば癒しにもなるが、と言う事で情状酌量の余地というヤツでオタクのひとりやふたりどうにでも許されるだろう、私の中で既にズダボロと化したオタクはニヤついた表情で携帯を凝視していた。




