サイドストーリー⑧(前) マシロ 〜つらい日常〜
真代は生まれつきの難病で体がほとんど発育しなかった。
今年で16歳になるがまだ幼い子供のように小さく、入院着は今も子供向けキャラクターがプリントされたものを仕方なく着ている。
手足の筋肉が発達していないのでろくに身動きが取れず、トイレにも行けないので排泄用の管を通している。
肺も小さいままで人工呼吸器無しでは生きられない。
食事しようにも嚥下ができないので、鼻からまた別の管を通して栄養を流し込む。
この他にもさらに全身の痛み止めの薬を数種類点滴で投与され、身体中を無数の管で繋がれながら毎日を過ごしていた。
調子のいい時も無くはないが、基本的にいつもどこかしら具合が悪く手術を繰り返す日々。
それでもなんとか生き延びていた。
彼女の両親は膨大な入院代や手術料の支払いに追われているといって、見舞いには来ない。
本当のところは分からないが。
代わりに祖母がたまに様子を見に来ていたが、数年前に亡くなってしまった。
主治医や看護師達も手がかかりすぐに具合が悪くなる彼女を影で厄介者扱いしているようだ。
この世界で独りぼっち。
話しかける相手も聞いてくれる人もいない。
なぜか脳だけ年相応に成長してしまった自分を呪う。
脳も子供のまま、無知のままだったら……どんなに楽か。
そんな彼女の唯一の娯楽はあるオンラインゲームだった。
中世ヨーロッパ風のRPGで自分のキャラクターを作り、操作する。
その中でならマシロはどこまでも走れるし、空だって飛べる。自由になれるのだ。
それに、そこでの彼女はマシロでは無い。
勇敢な女騎士『アテナ』なのだ。
『アテナ』はマシロがカスタマイズした自分のキャラクターの名前。
真っ白な長髪を靡かせながら颯爽と戦地に現れ、大剣を振り回して敵を蹴散らすのだ。
活発で、強く、美しい……現実のマシロとは正反対で、憧れの姿。
どんなにつらいときも『アテナ』のときはすべてを忘れられた。
今日もいつも通りログインする。
今はまだ午前中なので、所属のクランのメンバーは誰もいない。
だいたい仕事中か授業中だろう。
一人だし、どこへ行こうか。
他のプレイヤーと一致団結して悪の魔王を倒すか……
蛮族に襲われる農民達を助けに行くか……
のんびり自分の家の畑を耕して過ごすか……
制限ばかりの現実と違って、その世界にいる限りはやりたい事なんでもできるのだ。
街に出て新しい服でも買おうかと心を弾ませていると、病室のドアの小窓に人影がチラッと映る。
残念。楽しい時間は中断だ、また今度。
人影がこちらにくる前に素早くログアウトボタンを押す。




