サイドストーリー❶ わたし
目が覚めた。
ここは?水の中?黄緑色だ。
次から次へと止めどなく泡が立ち上っていく。
ここは……どこ……?
『造竜、タイプAの覚醒を確認……』
『人工脳の始動を確認……』
『神経電子回路の接続良好……』
『各人工感覚組織の反応良好……』
あちこちから声が聞こえてくる。何かの状態を測定しているようだ。
「アテナ!起きたかアテナ!」
……だれ?
「私は君を造った者だ」
つくった、もの?
「まだ脳の処理が追いついていないか……まぁ、これはまた後々ゆっくり話そう。アテナ」
あてな?
「そう。君の名はアテナだ」
?
わたし、あてな?
…………?
………………?
わたしは、あてな……
ここは?どこ?
「ここは君が生まれ変わった場所だよ」
……うまれかわった?
「いや。君が生まれた場所、というべきか」
よく、分からない。
「そのうち分かるさ。じきに魂が定着する。それで記憶が脳の方に戻ってくれば、その時全て思い出すさ」
たましい?のう?おもいだす?
「おっと、いっぺんに色々言ってすまない。忘れてくれ。今はひとまず器……あ、いやその体に慣れる事だな」
なれる?うつわ?
「今は起きたばかりだし、ゆっくりするといい」
…………
………………
『アテナ睡眠開始!』
モニターに研究員が数人映っている。それぞれ手元のパソコンでアテナの状態を見ているようだ。
状況を説明するような声はこのモニターからの声のようだ。
「いや〜上手くいったようだな、アテナタイプの試験体の完成だ。器の状態もいい……これで魂が上手く定着してくれれば……」
アテナの入っているガラスの筒状の装置を見ながら、『アテナを造った者』はそうつぶやいた。白髪混じりのボサボサの髪をポリポリ掻きながら。
部屋は暗く、天井には長細いライトが何本か埋め込まれているが周りが暗過ぎてあまり意味をなしていない。
壁は真っ黒で青白い光の筋が枝のように這っていて、時折小刻みに点滅している。
天井まであるガラスの柱状のその装置は、部屋中にびっしりと規則正しく並んでいた。まるで神殿や遺跡のようだ。
装置の脇からいくつも黒いケーブルが伸びている。それらは中にいるアテナの体から外に伸びていて一本一本それぞれどこかの機械に繋がっている。
脳波など状態の測定のためのものや酸素供給用など様々だ。
「魂が器に定着すれば君は過去の全てを思い出すだろう。その時君は……」
アテナが僅かに身じろいだのでそちらを見る。
まずい、起こしてしまったか……?
いや、大丈夫か。まだ瞼はしっかり閉じている。眠りは深そうだ。
モニターの向こうは休憩でほとんどが部屋を出て行ったところだった。
なにしろ昨日アテナに始動の予兆があってから目覚めるまでずっと徹夜で様子を見守っていたのだ。研究員達の眠気は限界をとうに超えていた。
『どうした、ケント?何ぶつぶつ言っている?』
モニターの向こうから声がかかった。白衣を着た男女がこちらを覗き込んでいる。
「おお、ジンか。いや……彼女のこれからが楽しみでな」
ジンと呼ばれたその研究員は眉を顰めた。
『楽しみも何も……我々が今後指導するんだろうが』
「ああ、まぁ、その通りなんだがな……」
『彼女なんて呼んでいるのはお前くらいだぞ。あれはただの器だろう。いい歳して人形遊びなんて。恥ずかしくないのか?』
『まぁまぁ、例のあの人だって人として扱っていたようだし……』
女は二人を宥めようとしたようだが、その一言が逆に火に油を注いでしまったようだ。
「リサ?!君までそう言うなんて!私をあの変な男と一緒にしないでくれ!」
『いや同じだ、全く同じ!何も変わらんさ!』
「私もああなるって言うのか?!狂人になるって?!」
『あぁそうさ!いや、もうすでになりかけかもな!』
『ちょっとジン!ケント!喧嘩はやめてってあれほど……』
その時、ガンガン!ガンガン!と遠くの方で何かが壁に何度もぶつかる音がした。
また『あの人』が暴れているらしい。精神に問題ありと判断され檻に入れられているのだが、時々中で暴れるのだ。
最初こそその大きな音にびっくりしたが最近ではもう慣れっこだ。いつもの光景になってしまった。
しかし、私もいずれああなるのだろうか……。
いや、まさか。まさかな。
静かな部屋に機械の唸る音だけが響いていた。




