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みどりの世界  作者: あさぎ
本当の私 〜ゲームの始まり〜
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始まり(表)



 私は昔から要領が悪く、さらに不器用な性格でみんなから嫌われていた。世渡りがどうしようもなく下手だった。いつも外れクジを引き、濡れ衣着せられる……


 それゆえに学生の頃からいじめられていた。

何もするにも鈍臭くて悪目立ちしがちだった。

社会人になって環境が変わり少しは良くなるかと期待したが、変わらず嫌われむしろ悪化していた。


 ある日過度の残業と人間関係のストレスで倒れてしまい、それがきっかけで仕事を辞め家に引きこもるようになった。

在宅のアルバイトでなんとか毎日食い繋いでいる。

 外出はほとんどしない。近所のスーパーとたまにコンビニ、あとは薬局くらいか。

以前は毎日の出勤で靴底がすり減りよくパンプスを買い替えていたが、今はいつ買ったか忘れたくらいのこの古いスニーカー一足で十分だ。

 さっきコンビニに行ってきたばかりで、今冷蔵庫にプリンが入っている。ATMだけのつもりが新商品の文字につられて買ってしまった。


 家の前には公園があり、子供のはしゃぐ声が響いている。母親らしき女性がそれを嗜める声も飛び交う。彼らはきっと『まとも』な人間なんだろう。順風満帆とはいえないかもしれないが、それでも普通に生活して、普通に結婚して、普通に子供をもうけ……




 それに比べて、私は。何をしているんだろう。完全に腐ってしまった。何の役にも立たない存在。ただただ毎日生きて、ただただ消費しゴミを増やすだけの存在。


 私だってこうなりたくてなった訳じゃない。

頑張ってはいる、頑張ってはいるが……彼らにはそれが見えないし、見てもいない。

 ただの邪魔で迷惑でうざい奴、なんだろう。

 なぜ、世界にこんなにも振り回されなければならないのか。

 なぜ、人間関係にこんなにも悩まねばならないのか。

 人間なんて面倒極まりない生き物がどうしてここにいるのか。


 あ〜あ。こんな世界滅んでしまえばいいのに。人間なんてみんな滅んでしまえばいいのに……




「ほんとにそう思う?」

 声がした。私以外誰もいないはずの部屋に。


「……誰?!」


 目の前に少年が立っていた。

 金髪碧眼でふわふわとした髪、チェックのベストにズボン、シャツの首元には大振りのリボンがついている。まるで古典的な西洋人形のようだ。

 最初は丸く童顔で子供のように見えたが、やけに落ち着いたその雰囲気がなんだか不釣り合いだ。まさかこう見えて大人なのだろうか。


 何なんだこの人、コスプレイヤーか。それも割と本気のやつ。何かのファンタジー系漫画のキャラクターか。

 仮にそうだとしても、玄関には鍵がしてあったはずだし、窓はすぐ横だから気づくはずだ。


 訳が分からず混乱する頭を必死に落ち着かせながら、相手を興奮させないよう極力冷静な声で話しかける。

「あの……どなたですか?」

 いざという時のため、後ろ手でスマホを操作し緊急通報の画面を出しておく。


「いやいや、怪しい者じゃないよ?ただの『夢魔』さ」

「む、ま……?」

「夢に魔法の魔と書いて夢魔。夢とか幻想を操る悪魔さ」

「は……悪魔?」

 話についていけない私そっちのけで彼は話を進める。


「世界を滅ぼしたいんだろう?だからそんな君に提案だ……僕と『ゲーム』をしよう」


 夕日で真っ赤に染まった部屋。

何故だか今日は異空間に取り込まれたような、ここがここでは無いような、不思議な感じがした。

 外ではカラスが喧しく鳴いている。




 彼の言う『ゲーム』とは。

 それは私の創った小説で勝負をしようというもの。世界の終わりを望む私と、このまま維持したい彼の勝負。


 私は物語の大まかな内容や登場人物の設定を決めて小説を創る。悪魔はその登場人物達に魔力を吹き込み、それぞれ自分の意思で行動するようにさせる。

物語は6つ創り、最後の主人公にはそれまでの過程を何らかの形で認識させ、それを踏まえてこの世界の維持か破壊かを決めさせる。

 5つめまでは私も悪魔も自由。好き勝手していい。

私は自由に物語を創り、悪魔もその世界に合わせ姿を変えたりしながら現れて自由に関与する。ただし直接本人を唆したり判断を迫るのは禁止。

 そして、物語で主人公が『世界を維持すべき』と結論を出せばこのまま世界は続く。

もし『世界は滅びるべき』となったら、その悪魔の力でこの世界を破壊してしまおうという事だった。


 世界の破壊。

 それは地球や宇宙の消滅であり、全生物の絶滅……つまり人間全員の死。

もちろん私も人間の一人だ。一緒に死ぬ。


 たしかに話を創って空想するのは好きだ。今も創りかけの話とかたくさんスマホのメモアプリに入っている。

 しかし、この世界をそんな簡単に破壊していいものなのか。確かにこの世界が無くなれば、悩む事はなくなりこの苦しみから解放されるが……


「私……自分でいうのもなんだけど、暗い話創るの得意だから。多分すぐこの世界は無くなると思う」

「そうかなぁ、主人公になった人達がどう考えるかなんて分からないよ?」

「でも多分、いや絶対、私と同じ気持ちになってこの世界を滅ぼすと答えてくれるはず。自信持って言えるわ」

「ふふふ。そうかい、まぁそれでもいいんじゃないかな」


 自信満々に答えつつも内心はひどく動揺していた。

 世界の破壊。そんな一大事が……私の手で。

 緊張と先の見えない恐怖で手汗が吹き出し、足は小刻みに震えていた。

「そんなに気張る事はないさ、だってこれはただのゲーム。もしなんかあったらルール変更しよう」

「…………」




 悪魔の囁き。まさか比喩ではなく本当にあるとは。

でもこれ以上生きてたってどうしようもないし、飛び降りや首吊りを考えてたほどだ……死ぬことに抵抗は無い。

 世界の破壊。そもそもあれほど悲痛で暗い過去を過ごした私が昔から望んでいた話ではないか。




 やってやろうじゃないか。

私が散々苦しんだこの世界を絶望の底に突き落として、壊してやろう。




「……その話、乗った。やってみるわ」


 そう言う私に彼はにっこりと微笑んだ。

悪魔らしからぬ、無邪気でまるで天使のような笑顔だった。


 外は日が完全に落ちて真っ暗になっていた。

 私はいつものマグカップにコーヒーを淹れ、机に向かうと最初の物語を考える事にした。


 さて、どんな闇を描いてやろうか。



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