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小説 王国一の美女と結婚してみせろと幼馴染に言われたので、 真面目に自分磨きをしていたら女性を沼らせてしまった件  作者: イコ


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逆恨み

 第二騎士団の研修が終わった。


 朝の書類地獄も、昼の食堂も、午後の訓練も、夜の特別訓練も。


 あの理不尽な剣も……全部、日常みたいに馴染んでいたのに、急に途切れる。


 見習いの規定で、次の騎士団が決まるまで数日の休暇が与えられた。


 休暇。


 騎士団の休暇は、俺の人生で初めてだ。ただ、休んでるだけじゃ落ち着かない。


 身体が、剣を求めている。

 頭が、戦場の匂いを求めている。


 だから俺は、冒険者として外に出ることにした。学生時代に登録はしてある。


 あの頃は、リナの研究材料を集めるために必死だった。


 俺の戦闘スタイルが確立できたのは、様々な魔物を倒して、素材を集めるためだったからな。


 そこに団長から叩き込まれた生存戦術を試す場所として、ここほどふさわしい場所はない。


 剣だけじゃない。

 魔法も。


 俺のできる全てを使ってみたい。



 朝の王都は冷たい。


 宿舎を出て、裏路地を抜けて、冒険者ギルドへ向かう。


 いつもより軽い装備。剣。短剣。革鎧。小袋。


 中身は、火種と、布と、縄。それに水筒に軽食。冒険者として必要最低限の俺は知っている。


 生き残るのは、派手な剣じゃない。小さな工夫だ。


 ギルドで依頼を選ぶ。


「ラムネ。ほら、走ると危ないぞ」

「はっ、はい!」


 俺が依頼を選んでいると、獣人の女性が小さな女の子に声をかけていた。

 女の子は、魔法使いに憧れているのか、杖を持ってローブを纏っている。


「二人とも、静かに」


 後からエルフの女性が優しく二人を嗜める。


 女性三人の冒険者パーティーは珍しい。周りの男たちからの視線が集まっていた。


 俺には関係ないと判断して、討伐依頼の中から低危険度を選ぶ。


 森の魔物間引きは単純で、ちょうどいい。


 王都の外へ。


 木々の匂いが濃くなってくる。土が柔らかくなる。鳥の声が遠くなる。


 緊張感のある空気は訓練場の静けさを思い出させてくれる。獣が身を潜め、ピリピリとした肌に俺は足を止めた。


 喉の奥が乾く。視線が、背中に刺さる。


 ……来る。


 次の瞬間、空気が裂けた。


 ヒュン――!


 俺は反射で身体を沈めた。


 獣の気配に混じって、矢が俺の肩のすぐ横を抜けていく。どこかの木に刺さった乾いた音。呼吸が、一拍遅れて戻ってくる。


「……っ」


 矢? 魔物じゃない。人間だ。しかも、俺を狙っている。俺はその場で走らない。走れば背中を射られる。


 逆に森の中で襲撃を仕掛けてきたということは、相手も後めたい何かがあるからだ。俺は木陰へ滑り込むように入り、剣を抜いた。


 短剣も、逆手に呼吸を落とす。耳を澄ませる。


 草を踏む音。

 靴底が土をこする音。

 重い呼吸。

 怒りに濁った足音。


 距離は、二十歩ほど。


 俺は木の影から、声だけを投げた。


「誰だ!? 恨まれる覚えは山ほどあるが、いきなり殺されるような恨みはないと思うが?」


 リナの側にいた時も誰かに恨まれることはあったが、殺されるほどじゃなかった。


 返事は、獣みたいだった。


「うるさい! うるさい! うるさい!」


 木々の間から、男が現れる。


 外套に見覚えがある。第三騎士団の色、目が血走っている。


 矢筒。弓。腰には剣……ああ、こいつか。


 第三騎士団で、団長に文句を言いにきた男。訓練場で団長に折られて、逃げていった。あの卑怯な笑いを浮かべていた奴だ。


 今は、笑っていない。顔の筋肉が引き攣って、怒りだけが残って歪んだ顔をしていた。


「貴様のせいで、俺は第三騎士団での地位を失った。貴様だけは許さん!」


 森の空気が、ぴり、と震えた。


 俺は息を吐いた。……逆恨み。わかりやすい。そして面倒だ。


 だがこれも俺が行なった結果の一つなんだろう。


「地位を失ったのは、お前が仕事をしなかったからだろ」

「うるさい! うるさい! うるさい! 黙れえええ!!」


 弓が引かれる。狙いは胴。


 矢が放たれる。俺は木の陰を蹴って横へ跳んだ。


 矢が地面に刺さる。


 すぐに二射目。


 角度を変えてくる。狙いは足。


 俺は短剣で矢を弾いた。


 金属の甲高い音……速い。だが、焦っている。


 矢の軌道が雑だ。


「近づかせねぇ!」


 男は後退しながら矢をつがえる。


 距離を取って射殺するつもりだ。


 なら、距離を狂わせる。俺は掌を地面へ向けた。


「ミスト」


 薄い霧が、森の足元に広がった。視界を奪うほどじゃない。だが、狙いは距離感だ。弓は距離が狂うと外れる。


「小細工を……!」


 男が苛立って踏み込んだ。


 踏み込んだ瞬間、俺は足元へ弱い風を流した。


「ウィンド」


 霧が流れ、葉が揺れ、音が散る。


 男の耳が迷う。どこから来る? どこにいる?


 俺は見える場所にはいない。木の影を使って回り込む。


 団長の剣は真っ直ぐだった。


 だけど、正面からぶつかれば、俺は負ける。

 だから、生き残るために工夫を覚えた。


 俺は走らない。気配を消す。

 歩幅を殺して、音を消す。

 息を吸うのも、浅く。


 男の背後に回り込む。


 そこで止まる……ここで斬れば終わる。だが、終わらせ方を間違えれば、俺が殺しの側に落ちる。


 俺は剣を振らずに声をかけた。


「やめろ」

「……どこだ!? 出てこい!!」


 男が振り向く。その瞬間、俺は距離を詰めた。


 弓を捨てるか、剣を抜くか。


 判断が遅れた。俺は剣で斬らない。短剣の柄で手首を叩いた。


 弓が落ちる。男が剣を抜こうとする。俺はすぐに掌を上げた。


「クリーン」


 男の手袋と柄を、徹底的に綺麗にする。


 油も汗も、摩擦も消してしまう。


 剣が滑って持てない。


「なっ――!?」


 剣が、抜けない。いや、抜けても握れない。


 男の指が泳ぐ。


「ライト!」

「ぐっ、目が……!」


 男の視界を奪う。俺はその瞬間、剣の腹で男の顎を打った。


 骨に響く感触。男が膝を落とす。


 それでも、男は倒れない。


 歯を食いしばって、怒りだけで立っている。


「殺す……!」


 俺は息を吐いた……まだやるか。


 俺は足元へ視線を落とさず、手だけで地面へ魔法を流した。


「クリーン」


 自分の足元。そして男の足元。


 土と葉の表面を一瞬で整える。乾いた地面が、滑りやすくなる。


 男が踏み込んで、足が半拍遅れて滑った。


 体重移動が崩れる。


 剣が振り下ろされるが、軌道が甘い。


 俺は半身で避け、男の懐へ入った。


「騎士であっても訓練を怠る者に、強さは得られない。お前は団長に仕事を押し付けているようで、自分自身の能力も失ったんだ。バースト!」


 殺さない。だが、痛い思いはしてもらう。


 腹で爆発を起こした。


 男は吹き飛んで、それでも顔を上げようとする。


「見習いに負けるような騎士に、資格なんてねぇよ。さっさと騎士を引退して田舎に帰れよ。おっさん」


 俺は男の大事な部分を蹴り上げた。


「グウォっ?!」


 泡を吹いて意識を手放した。



 俺は面倒だが、男を引きずって第二騎士団の訓練所に向かった。


 どうやら団長はいないようで、バインド副団長を頼った。


「なんだそいつは?」

「実は逆恨みで襲われまして」

「……なるほどな。わかった。あとはまかせろ」

「いいんですか?」

「お前は、第二騎士団を変えてくれた功労者だ。これでも俺はお前に感謝しているんだ」

「感謝?」

 

 スキンヘッドに二メートルを超える厳ついおっさんが笑う。


「クソガキだが、お前は見どころがある。研修が終わったら、第二騎士団に所属しろよ。シゴいてやるから待っているぞ」

「それはかなり嫌ですね」


 バインド副団長が、男をどうするのかわからないが、俺を襲った男を預けることはできた。


 これで本当に全て終わったんだと思い直すことができた。


 どうも作者のイコです。


 ここまで一気に書き上げてしまいました。


 第一部 完結です。


 面白いと思っていただければ、ブックマークをお待ちしております。


 どうぞよろしくお願いします。

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