結論
ここはチーバノ大学!
チーバノ大学日本語クラスは、最終回の授業を迎えています。
全部で10回の講義ですが、トラブル続出でまともに授業ができていません。
大丈夫なのでしょうか…
ネズミ助手は環境に慣れたのか、普通サイズで教壇に立っています。
ターマ王子も、ネズミ助手を獲物ではなく講師として認識できたので、もう飛びかかりそうになることは無いでしょう。
宇宙人留学生が大半を占めるチーバノ大学の日本語講義は無事に最終講義を
迎えています。
ネズミ助手は感極まって涙ぐんでいました。
その時、学生が手を挙げてネズミ助手に質問をしました。
ネズミ助手は「なんだろう」と思いながらも質問を聞いています。
その学生は「私も将来、チーバノ大学で働きたいのですが、ネズミ先生はどのようにして就職されたのですか?」と率直に質問を投げかけました。
ネズミ助手は最後の最後になって何を聞かれるのか少しだけナーバスになっていましたが、そんなこと?とホッとひと安心…
ちょっとだけナーバスになっても、もう体の大きさは変化しません。
地球にも慣れたみたいですね。良かったです。何か聞かれるたびに体の大きさが見えなくなるほど小さくなって踏み潰されそうになったり、反対に大きくなりすぎて教室を破壊しそうになったりしなくて済みますから。
日本語クラスのみんなが挙手をした学生を注視していました。確かに同じクラスの学生ではありましたが、宇宙人留学生には見えません。しかし、地球人にも見えませんし日本人にも見えません。
日本人学生のシュウくんが「キミはどこの国籍なの?」と尋ねました。シュウくんは「いつも一緒にいるよね、3人で」とも付け加えました。
「私たちの国籍は鬼籍です」
そう、シュウくんの質問にその学生さんは答えました。
シュウくんはびっくりしています。
「鬼籍って!本当なの⁉︎」
シュウくんの驚きに「鬼籍」の意味を知らない宇宙人留学生は不思議そうにしています。
「鬼籍って何?」
誰かが代表してシュウくんに聞いてみました。
「生きていないってことだよ」
「鬼籍に入る前は中国国籍でした」
チーバノ大学で働きたい学生さんはキョンシーだったのです。
再び教室内にどよめきが…
「地球では国籍が変わるのかな?」
そうじゃない
「一度死んで生き返ったゾンビの一種だよね?」
シュウくんがキョンシーの3人組にこう言うと3人で同時にうなずき返してくれました。
おずおずとネズミ助手が口をはさんできました。
「キミたち3人組は地球人だから職員にも教員にもなれます」
「どういうことですか?」
誰ともなく声を発します。
ネズミ助手がそれに答えます。
「宇宙人は講師か助手にしかなれないの。キマリでそうなっているんです」
どよどよとどよめきが教室内を走りました。
「ネズミ先生、もしかして非正規雇用の時間給なんですか⁉︎」
「そうです」
どよどよどよ…
キョンシー3人組は「鬼籍でも地球人枠でいいのでしょうか?」と心配げに尋ねてきます。
「それは人事課に確認したほうがいいですね。そのほうが確実でしょう」
チーバノ大学の採用規則では、ネズミ助手はこれ以上出世できないのでした。
その時です!ちらほらと真夏日になっている近頃ですが、突然、ひとりの生徒が溶けだしてしまいました。
「うわぁっ!」
初夏の日差しに照らされてトロトロと溶けていく同級生を目の当たりにし、教室内に動揺が拡がりはじめました。
あたふたとネズミ講師がスライム状になった宇宙人留学生の対処に追われています。
しかし、気の小さいネズミ講師はあたふたするだけでした。
日本語クラスのみんなでスライムに話しかけてみましたが応答がありません。
咄嗟の事態にキョンシー3人組がお医者さんに見せてはどうかと提案しました。
実は、キョンシー3人組は生前、医療関係者だったのです。
そんなこんなで日本の医療体制に詳しいシュウくんが救急車を呼ぶと言ってスマホを取り出しました。
コール音が幾度か聞こえてきてシュウくんが救急隊員に事情を説明しましたが、搬送者が地球人でないことを正直に伝えると搬送を拒否されました。
みんなで頭を抱えて困り果ててしまった次第です。
スター・メシヤがこう言いました。
「チーバノ大学には医学部はないのかな?」
「それだ!」
「電車で行ける場所に医学部が設置されているキャンパスがあるよ!」
みんなが歓喜にわいています。
「たしか、名前が変わっていたよね」
「そう!シクラメンキャンパス!」
シクラメンとはフランス語で豚の鼻の意味合いを持ちます。
おそらくチーバノ大学がその昔、医学部設立の際に養豚場の土地を買い上げたのでしょう。
みんなが電車で移動する準備をはじめています。
シュウくんが学示課から発泡スチロールを借りてきました。そのなかにスライムになってしまった宇宙人留学生を保管して運ぼうというのです。
列になり西チーバノキャンパスの校門を出て最寄りの駅に向かいました。スライムになった宇宙人留学生は発泡スチロールの中です。手で引くタイプのカートも学示課から借りてきて発泡スチロールをバンドで固定しました。
チーバノ大学シクラメンキャンパスの最寄駅に降り立ち、細い道を二列で歩いて行きます。結構すぐにキャンパス内に入ることができました。
チーバノ大学医学部の附属病院の前に立ち、運んできた発泡スチロールを確認しました。呼びかけてもやはり応答はありません。
病院の受付の人に事情を話し、同じチーバノ大学の者なので診察してもらえることになりました。診察室の前で待っていると白衣を着たお医者さんが近寄ってきました。
その年配のお医者さんは嬉々としてこう発言されました。
「ぜひ、診察を受けてください!貴重な診察例にになる!」
その時、カートにバンドで固定していた発泡スチロールの中身が動きはじめました。
キョンシー3人組が、急いでカートのバンドを外し発泡スチロールのフタを取りました。3人での見事な連携プレーにみんなが唖然としています。
フタを開けたとたん、スライムだった宇宙人留学生がムクムクと元の姿に戻っていったのでした。
みんなが驚き、お医者さんが歓喜の声を上げました。
「すばらしい!ぜひ、診察を受けて細胞を研究させてください」
後から来た若いお医者さんは「細胞を寄付してください。再生医療の前進にご協力を!」とお願いしています。
元に戻った宇宙人留学生はフゥっ、と1度深呼吸をして自分について説明しだしました。
「私は、ある気温になると溶解しだすんです。すぐに元に戻りますが、この習性を私の惑星では復元と呼んでいます」
キョンシー3人組が「女の子?男の子?洋服もたたんで持ってきましたよ」と聞きました。
「お洋服をありがとうございます。それからご質問にお答えしますが、私たちには性別はありません」
白衣のお医者さんも含めて「へぇ〜」と驚きの声が上がりました。
西チーバノキャンパスの宇宙人留学生からシクラメンキャンパスの方々へお礼を述べて一件落着。
大学附属病院の受付の人は「西チーバノキャンパスと違ってシクラメンキャンパスには日本人しかいませんから。これをキッカケに両キャンパスの間で交流が起こればいいですね」とおっしゃってくれました。
白衣のお医者さんに後日、細胞を提供しにくることを約束してみんなはシクラメンキャンパスを後にしたのです。
西チーバノキャンパスへの帰り道、日本語クラスのみんなは「この仲間で良かった」と感じていました。
助け合いながら問題を解決した今回の一件で仲間意識が芽生えたのでしょう。
ただ、みんなが疑問に感じたことは、なぜシクラメンキャンパスに宇宙人留学生がいなにのかについて。
この疑問にはシュウくんが答えてくれました。
「すべての患者が地球人だからだよ。宇宙人はチーバノ大学附属病院を利用しないんだ、たぶん」
こうも付け加えました。
「患者として宇宙人にこられても原則として何もできないよね?」
みんなが納得した次第です。
西チーバノキャンパスにおいてきたネズミ助手に報告しにみんなで「帰り道」を急いだのでした。
もうすでに日本語クラスのみんなの中では、西チーバノキャンパスがホームになっているようでした。




