16.骨の髄まで
【side:カナ】
今回も修羅場を越えて、無事に入稿を果たした。
いやぁ良かった。間に合わないかと思ったけど、なんとかいけた。それもこれも美味しいご飯とアシをしてくれたマコちゃんのおかげだよ。もぉ、めっちゃ愛してるっ!
感謝の気持ちを伝えるために抱きついたら「暑いから」と引き離された。もぉ、照れ屋なんだから。
タブレットで描くと机が汚れないし作業早いし、メリットが多いのに、どうして修羅場の数は減らないんだろう。不思議だよね。
まぁ、今回はいつもよりも気合が入ったからね。
なんと、リカちゃんと合同誌なのですよ。コラボよ、コラボ。
しかも、しかも、オフセット印刷!値段高いけどめっちゃ綺麗!私の絵が増し増しなんですよ。そりゃテンション上がるわ。
描き込みにも力が入るってもんよ。
だって在庫怖いっ。できる限りイベントで売って、残りはネットかな。目指せ完売!まぁ無理だろうけど。まぁ、気持ち的にはそのぐらいでいかないとね。
「入稿おつかれー!」
「お疲れー!頑張った!」
「お疲れさま」
リカちゃんの乾杯でチューハイをごくりと飲む。ぷはっ!
お疲れ会で焼肉屋に来ております。リカちゃんが優待券もらったからって誘ってくれた。
「九十分食べ放題ね。奢ってあげるから感謝してお食べなさい」
「マジで!?リカちゃんさすが社会人っ」
「おっとなー。ありがとう」
「おほほほほ。給料日の社会人の凄さをじゃんじゃん褒め称えなさいっ」
ふたりで手を合わせてリカ大明神にお祈りをすれば、わははははと高笑いでビールを一気飲みした。リカちゃんが男前すぎる。
「塩タンきたー♡」
「あ、こっちの肉は私のね」
「えー、じゃあ、これ私のね」
「自分の分は自分で焼こうよ」
「「マコ(ちゃん)のほうが上手いもん」」
チベスナ顔だが、いい焼き加減で皿に入れてくれるマコちゃん、好きだー。
「今回も落ちなくて良かったー」
「カナはいっつもギリだよね」
「だって今回オフセットだよ?今まで潰れてた線も綺麗に出るんだよ?しかも表紙が箔押し。そりゃ気合いも魂も注入するでしょ」
「分かるー。私も気合い入ってるから、読んで欲しいよね」
「だよね。イベントってさ、お客さんと触れ合えるから、すごい好き。『新刊待ってました』とか言われると舞い上がるよね」
「SNSの反応も嬉しいけど、やっぱり直接会うのとは違うね。漲るっての?」
イベント久々だからってのもあるけど、作るの楽しかったー。と、余韻に浸ってたら私のお肉が無くなっていた。
横で見覚えのある肉がタレに浸かって、リカちゃんの口の中へ………。あぁ!!
「私のお肉ぅぅ!!」
「焼死する前に回収しまた」
「え?どこ?どこに!?」
「私の腹の中」
「うわーん。やっぱりさっきの私のお肉じゃん。返せぇ。焼け、今すぐ焼け」
肉泥棒のリカちゃんではなくて、マコちゃんがせっせっと焼いてくれる。さすが、鍋奉行で焼肉奉行。
注文分は焼き終わったのでタブレットで新しい肉を注文する。熟成シリーズ美味しそう。ミニビビンバにも惹かれる。あー、迷う。とりあえず熟成カルビと上カルビの食べ比べ。
「そんなに頼んで大丈夫?」
「大丈夫。食べれる量しか頼まないから。食べ放題なんだもん、色々な部位を堪能しないとね」
ハラミ、上カルビ、ロースにピートロ。選べるタレに香草野菜。
どれも美味しそうでお腹が鳴りそう。あ、箸休めのシャーベットも欲しい。
「肉もいいけど、牛は臓腑まで慈しんでから余さず食らうべきよ。と、いうわけで、ホルモン追加で」
言うだけ言って、通りがかった店員さんにビールのお代わりを頼むリカちゃん。何気に三杯目だよ。
「臓腑言うな。あ、骨つきカルビも追加で。こう見ると、牛って食べれるとこ多いよね。骨髄で出汁も取れるし。手間暇かかるのが面倒だけど」
マコちゃんの言葉にピコンとネタ探しのアンテナが動いた。
横を見るとリカちゃんもにんまりと笑っている。同志だね。
「ガッツリ食べられちゃう牛ってマッチョ受?『骨の髄まで』ってサイコ攻っぽくない?」
「人類の祖先はスカベンジャーとして骨髄も食べていたという説もあるらしいよ。『骨の髄まで』って言葉は人類の業の深さをもっとも端的に表した言葉かもね」
「あはっ。リカちゃん博識。業は深い自信があるなぁ」
「この熱量が業だというなら甘んじて受けよう。殉教する覚悟はできている」
キリスト教でもないのに十字を切ったリカちゃんと「私たちの業に」と乾杯をする。
マコちゃんは我関せずと肉を焼いて食べていた。んもぉ、クールさんめ。
「カニバリズムって、視覚的には萌えないけど、精神的には萌えるよね。骨の髄まで愛してって、所有権を委ねてる感じ?水柱に叱られる。むしろ叱られたい」
「あの一喝は心に響くよね。水は総受以外認めぬ」
「お館様は総攻めで。あ、骨きた。マコちゃんサイコ焼く?」
「サイコは焼かない。肉を焼かせて」
その時、騒がしい笑い声が聞こえた。
視線を向けると、斜め向かいに二十歳前後の男の五人グループが盛り上がっている。
その様子をジッと見ていたら、隣に座っていたリカちゃんが肘でちょんと突っついてきた。
「ねぇ、あの中の誰と誰がデキてると思う?」
「うーん、肩をくっつけてる黒髪と天パの二人は確定だね」
「分かる。私も一票」
「ホルモン焼けたよ」
マコちゃんが焼けたホルモンをリカちゃんの皿に乗せ、新しくミノを網に乗せる。
「はふっ、あつっ。茶髪とビール飲んでるメッシュがあやしいとみた」
「カレーとサラダ取りに行った眼鏡は当て馬っぽくない?」
「いやいや、当て馬はカレー食べないっしょ」
「暴論。カレーぐらい食べさせてあげて。人参たっぷりのやつ」
「いや、逆に嫌がらせ」
程よいアルコールが気分を上げていくせいか、妄想が止まらない。ああ、楽しい。
「肉を食べてお酒飲んでほろ酔いで酩酊した茶髪をメッシュがお持ち帰りして、ガッツリ食べ尽くして欲しい。翌朝、酔って記憶がない茶髪に再現プレイの第二ラウンドが開始されたりして。んふふふ」
「家に帰るまでに持たないから、どこかのラブホかも。夜の公園も滾りますな。ふっふっふ」
「この時期の公園って蚊に刺されるんじゃない?」
「もぉ、マコちゃんはロマンがない。いいの。BLはファンタジー。細かいことは気にしちゃダメなの」
「夜の公園なら別の虫がわいて出そう」
「モブ?モブおじさん来ちゃう?」
「はいはい。落ち着いて。ここは焼肉屋。それ以上は帰ってやろうね」
ケラケラ笑う私たちの前に冷水が入ったグラスがドンと置かれた。
あいやー、気分が盛り上がっちゃった。
お店だったわ。失敗、失敗。
「では、続きは二次会で」
「カナんちで」
「やった。マコちゃんとリカちゃんをお持ち帰りー」
「ほら、肉頼むよー」
「熟成ホルモンで」
「厚切りカルビで」
とりあえずは残り三十分で肉を食べようということになり、せっせっと焼いてもらった肉を食べた。
茶髪「あそこの席の子たち可愛くない?」
黒髪「さっき、こっち見てたよな。誘ったらイケんじゃね?」
メッシュ「オレはパス。なんか嫌な予感がする」
眼鏡「なんだよ、もしかしてヤバい子?」
天パ「俺も反対。雰囲気がうちの姉にそっくりだ」
一同「「「「あ〜……(察し)」」」」




