10.異世界転生
【side:マコ】
「異世界に行きたい」
そうカナが呟いたのは、挿絵の仕事を終えて一週間経った頃だった。
なぜに異世界。
恐らく、挿絵の為に読んだ異世界物のせいだと思われる。
私は異世界より北海道に行きたい。魅惑の乳製品、蠱惑の羊肉、誘惑のラーメン。マジで行きたい。
「もちろん、同性婚が可能な世界で、出来るなら男性妊娠可能。男女比率は8:2がベスト。もしくは10:0でも全然問題無い。むしろカモン。美少年や美青年、美中年更に美老人が恋するのも同性のみ。ヤバイ、鼻血出る。なに、その理想郷。
時代は中世でも近世でも現代でも未来でもいいけど、性病は怖いから魔法か医学が発達してるといいよね。あ〜、濡らしたり拡張したりするなら魔法の方がいいかな。魔法万能。淫紋とか美味しい。呪術万歳。一夜明けたら処女に戻る呪いも良きかな。呪い?いや祝福だろ。
ああ、でも、オメガバースも、dom/subも美味しすぎて捨てがたい…」
カナは、ぶつぶつと呟きながら自分の思考に沈み込む。
めんどくさいから放っておこうかな。でも、ちょうどアプリゲームが一区切りついちゃったんだよね。
「その異世界で、カナはどんな立ち位置になるつもりなの?」
「っ!そうね!それ大事だわ。んー………、一番は空気かな。風とか。自由に異世界を満喫するのに適してると思わない?ファンタジーっぽく言うなら風の精霊?どこまでも自由で気ままな可愛いフェアリー。そして彼らのイチャイチャを陰ながら応援するの」
なんだか乙女的なイタイ発言をしているが、やりたい事はただの覗きだ。見えない存在で密閉空間以外は出入り自由。覗き魔に必要スキルしかない。
覗き見し放題な存在なら例え妖怪でも躊躇いなくなりそうな気がする。
「でもさー、転生だと大抵こっちで死んでからじゃない?寿命ならいいけど事故とか痛いのは嫌だなぁ」
カナさん。なんだか異世界転生するのが決定みたいになってない?
「でも、異世界イチャラブを見るためには一瞬かもしれない痛みなんて瑣末な事じゃないだろか。上手くいけば痛みを感じる前に死ねるはず。ならば、イケる気がする。否、イカねば女が廃るっ!」
実際に跳ねられたら痛いどころじゃ済まないと思うんだけどなぁ。
てか、ありもしない異世界BLの為に命を張ろうとするカナの本気度が怖い。いや、本気じゃないんだろうけど、カナだからなぁ。………カナ、だからなぁ。
「でもさ、異世界には『プロプリ』も無ければテレビも無いのよ?あったとしてもカナの好きな『えびま』や『男バス』が放送されているとは限らないのよ?それに、商業BL本や薄い本は確実に無いよ?」
私の発言がよほど驚愕だったのか、カナの顔がとても面白い事になっていた。撮影しておけば良かった。
両手を床について項垂れる姿だけでも撮っておこうと、スマホを取り出してピロリンと撮影しておく。
後でリカちゃんに送ってあげよう。
「ついでに言えば、今トラック転生しちゃうと、せっかく予約した『プロプリ』のコラボカフェに行けないよ?」
くどいほどに一緒に行こうと熱烈なお誘いをしたのを忘れたとは言わせない。
公開されたカフェメニューでどれを食べるか、どのグッズを買うか、推しへの愛をあれだけ吐いておいて、忘れたなんて言わせない。
さっきよりも、一段と奇妙や顔になったカナを撮影する事に成功。ムンクの『叫び』と並べてみたい。
「女神様。ごめんなさい、私はまだそちらに行けそうにないわ。寿命を全うしたら呼んでください。それまで全力でこっちの世界を堪能しますから」
私は来世もこの世界を堪能したいので、申し訳ないがカナにお付き合いは出来ない。女神様がいるらしいから、頑張れ。
私は、とりあえず北海道に行きたい。費用とスケジュールを組んでみようかと、未だに立ち上がれないカナの横で考えた。
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『プロプリ』…アプリゲームアイドル育成ゲーム『プロジェクト・プリンス』。
『えびま』…アニメ『海老原宗助の魔法修行』
『男バス』…アニメ『南原高男子バスケ部発足』
*どれも架空の創作物となっております。
マコ「神様じゃなくて女神様なの?」
カナ「女神様は同志な気がするから!」




