名残
宮神楽墓園。
ユウが私の墓前で手を合わせてくれている。
葬式の後、雨が降ろうが風が強かろうが毎日のように足を運んでくれていたのに突然ぷつりと来なくなったので私の事はもうふっきれたのかなと覗きに行ってみればヨシノと同窓会の件で忙しかっただなんて夢にも思わなかった。
よく考えなくても発端は私の迂闊で軽率な発言だったように思う。
ヨシノと話す時は言葉を選ばなくちゃいけない事は知っていた筈なのに。いつも何を言ってもにこにこして聞いているからつい油断してしまった。
いくら病床で参っていたとはいえ可能ならあんな現実逃避以外のなにものでもない妄想は忘れてほしい。私も高校生だったのだ。若かったのだ。夢見るお年頃だったのだ。
今日も蝉の声がやかましい。
ユウは何をするでもなくぼんやり私の墓前にしゃがみこみ続けている。暑いんだから帰っていいのに。
「ユーウ、やっぱりここにいた」
「ヨシノ、もう出歩いて大丈夫なの?」
「だいじょばないけど、寝てばっかりは暇じゃん?」
「完治が遅くなるよ」
「いいのいいの、折角の夏休みなんだから一日たりとも無駄に出来ないよ」
ヨシノが私のお墓に視線を向ける。
「綾ごめんねー約束ちゃんと守れなくって」
別に謝罪なんてほしくない。お前は本当に謝るべき人達が大勢いるのだからそっちに行けよ。どれだけの人数に迷惑かけてしまったと思ってるんだ。
「何一つうまくいかなかったね。綾がおれ達を止めてくれたのかな」
「ユウはロマンチストだね」
「殴るよ」
「にゃはは」
楽しそうな笑い声が墓園に響いた。
私は別に何もしていないけれど、私のためにそんな事しないでほしいとは思うよ。いや、してはいけないと思うよ。
天国云々だってヨシノの言う通り、本当は信じてない妄想を信じたかっただけなんだから。
もうその輪に加われない事は寂しいけれど、私は二人が楽しく過ごしてくれている方がずっとずっと嬉しいんだから。
「俺の無茶に付き合せちゃってごめんね」
ヨシノが昔から変わらない笑顔をユウに向ける。
「ユウはずっと綾に会いたいって言ってたのに。ごめんね」
カラン、と石畳を金属が擦る音が聞こえた。
「いいよ、別に」
ヨシノは裏表がないように見えて結局のところいつも何を考えているから分からないから、虫取り網を携えて街中を駆けまわる子供のように、自然に、この場に平然と斧を持って現れた事を気にも留めていなかったのだけど。
「ユウはさ、天国って本当に信じてる?」
あ。
ああ。
私にとっては現実逃避だと自覚していた妄想であっても。
私が信じようとした妄想を、私が信じて死んだのだとユウは信じて。
だから本気で信じて。本当に信じて。
信じて、縋ったというの。
「あるといいよね」
ユウがくしゃりと笑う。
私には彼が泣いているように見えた。
「そうだね。会えるといいね。ねえ、会えたら綾に伝えて」
待って。私、
「なに?」
そんな事望んでないよ。
「約束はちゃんと守るよ。って」
そんな私の言葉など聞こえる訳もなく、ヨシノは柔和な笑顔を貼り付けたまま躊躇なく斧をふりあげた。
「ばいばい」
◇
XXX
8月16日に起きた宮神楽小学校ガス爆発事故から卒業生の不審死が続いている。
事故との関係性は不明。
天倉裕一(15) 他殺
宇佐美薫(15) 事故死
久米亨(15) 事故死
佐倉茜(15) 事故死
立花さつき (15) 事故死
室賀いづみ(15) 自殺
野々垣和幸(15) 自殺
山崎正一郎(15) 事故死
月見里佳代(15) 自殺
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八千代紫乃(15) 行方不明




