かたづけ
朝、起き出して書斎に向かうと、机の上に見慣れない缶詰が置かれていた。
彼女が眠りについて、ふたつの夏が過ぎた。
私はこの日を待ち続けていた。
彼女は私にとって「忘れられない」最後の人で、缶詰の連鎖を止めるために「忘れてはならない」人だ。
だが、両側から手を伸ばさない限り、缶詰は開かない。
眠る者が「忘れられない」者に缶詰が降り落ち、その先は拾い受けた者の思いに委ねられる。缶詰は私の元に届くのか。私はこの日を待ちながらも、ひどく怯えていた。
どうやらそれは、杞憂だったようだ。
私が缶詰を開ければ、次の缶詰は息子のもとに降り落ちるだろう。
そして彼は、その存在に気づくことなく眠り続ける。
夢に捉われた者の間で連鎖が完結すれば、缶詰はもう二度と開かない。
私の心は、肉体よりも一足早く永遠の眠りにつく。
その代償に、缶夢の世界を手に入れる。
それぞれの缶夢は独立した、閉じた世界なのだろうか。もしかしたらそれは思いこみで、夢の中で繋がりを築けるのかもしれない。少なくとも、缶夢の世界に落ちることで、私は今よりも少し傍で息子を感じられる。
缶夢は、寂しくて、切なくて、苦しい物語だ。
若い少女にとって、眠り続けた二年間はとてつもなく大きい喪失かもしれない。
しかし、いつ終わるともわからぬ孤独な夢は、何にも代えがたい大切な気付きをもたらしてくれたはずだ。
長い夢から覚めたような気持ちで、私は、もっと長い夢へと向かう。
すべての出会い、別れ、そして再会を、いとおしく思って。
了