(異世界からの使者)
バタバタバタ。
鳥が羽ばたくような音。
旅館の宿泊部屋の広いバルコニーに立つマリーは、音のした方向に体を向ける。
湖から見て東。
そちら側には山もなく、なだらかな丘だけがあった。
目をこらすが、当然の如く何も見えない。
タミアラの西方にある大きな砂漠からの砂が、風に乗ってこの街まで届いているのだ。少し黄色がかった東の空の霞を見つめる。
「どうした? 異常事態なのか?」
さっきまで昼寝をしていたクロエは、ボリボリと頭を掻きながらバルコニーに出る。
サンダルを引きずるように歩くので、大きな音がし、マリーは顔をしかめる。
(アンドレおじさんみたいだ)
クロエに続いて外に出るカイト。寝起きで、のっそりと動く様は、父娘がそっくりであった。
「一筋縄ではいかない学園長が、この任務を指定して来たのだから、楽には終わらせてくれないわね」
アンナは着ていた浴衣の帯を緩める。
「ね……」
カイトは姉ちゃんと叫ぼうとした。だが、場に感じる緊迫さを読み取り黙っていた。
「ステイタスカード、起動! 防具『エメレオン』装備!」
アンナが言い終わると、浴衣がバルコニーの上に落ちる。
「ステイタスカード、起動! 武器『ミョルニル・ハンマー』装備! 防具『炎の鎧』装備!」
クロエも同じく叫ぶ。彼女も宿の浴衣を脱いでいた。白いTシャツの上からも
筋肉の盛り上がりが確認出来た。褐色の背中は、カイトには眩しすぎる。
「うん自分ら、持っている武器・防具・アイテムの最強のヤツを装備した方がええかもな。ステイタスカード、起動!」
ミーシャも自分のカードを呼び出す。
「え、あ、ス、ステイタスカード、起動! 武器『ブロークン・アロー』装備! 防具『過激な水着』装備! 特殊アイテム『幻影の霧』の首飾り、『転生の腕輪』装備! 『賢者の法衣』出現!」
マリーはつらつらと叫ぶと同時に、再びあの超過激な水着を着ていた。
「なはは……」
カイトは鼻の下をダランと伸ばす。
「カイト君にはこれを」
後ろを向いたマリーの胸の上では、首飾りの青い大きな宝石が光っていた。そして、胸の上でコロコロとあっちに行ったりこっちに行ったり。
「これは?」
カイトは、彼女から青い布のマントを受け取る。
「それは『賢者の法衣』です。レベルの低い職業の人間でも装備出来ます。炎に氷、空力に電撃などの魔法攻撃を跳ね返します。多少の物理攻撃も防ぎますので、カイト君はこれを着ていて下さい」
マリーから渡された防具を広げ、浴衣を脱いでから羽織る。カイトは浴衣の下に白のTシャツを着ていた。もちろん水色のトランクスもキッチリと装着している。
「別に浴衣を脱ぐ必要は、なかったのに」
エッチな防具を装着しているアンナがカイトの方を向いた。
「ね、姉ちゃん。羞恥心は無いのかよ!」
抗議するが聞いてはない。
「『炎の剣』出現! カイト君には、これを渡そう。コイツは、敵の攻撃を受け流す効果がある。パーティーの最後尾で、これを構えて立っていろ。オレたちが守ってやるからな」
大きな鋼鉄製の『ミョルニル・ハンマー』を左肩に担ぐクロエ。彼女が差し出す剣の柄を握る。
「ど、どう使うんですか?」
今は炎も発していないタダの銀色の剣だ。
「ま、ピンチになれば、剣の方が反応する。賢いヤツだ」
そう言ったクロエは口の端を上げて、ニヤリと笑った。
カンコン、カン!
バルコニーの外側から聞こえてくる音。
「お、お頭!」
旅館のバルコニーまで息せき切って駆けつけて来た存在。旅館の外側から部屋の窓から直結する広場に上れる階段。そこを上ってきたのだ。
「ブッチやないか! 何があった?」
真剣な表情でミーシャが聞く。ステイタスカードを握りしめたままの彼女は、旅館の浴衣から、いつもの盗賊のスタイルに戻っていた。
「ま、街の入口に変なヤツが……」
タミアラの街のゲートの方向を指差す、盗賊の顔役。太っちょの彼は、階段上昇の運動をしたためか、黒のバンダナの下から汗をタラタラと流していた。
「変なヤツ? ソイツは人間か? モンスターか?」
「いいえ、見たことも無いヤツです」
ミーシャに聞かれ、右手に嵌めた黒のリストバンドで大汗を拭きながら返答するブッチ。
「そうね。街の入口で、アタシたちが迎撃をしましょう。ギタンギタンにしてやるわ」
おっぱいを露わにしたアンナがそう言って、笑う。
(姉ちゃん。胸、隠そうよ)
カイトはアンナの正面に立つ盗賊の顔役を見る。
ブッチの方は、慌てて自分の目を覆っていた。
次回からは、レベル09「戦慄の エッチな防具 大激闘」をお送りしますが……。
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