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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル08「お宝を 探し回って 落っこちて」
56/95

(ティマイオスの謎)

 ――午後一時二十五分。

 「湖畔の宿」マリー、クロエの部屋。


「ふぅー食った、食ったぁー」

 剥き出しのお腹をポコンと膨らませているのは、ミーシャだった。

 旅館の浴衣はすっかりとはだけていて、畳の間に片膝立てて座り、爪楊枝でシーハー歯をすいている。


 この部屋はカイトの地方でお馴染みの、畳敷きの大きな部屋だった。八畳の部屋が二つくっついている。

 パーティーのメンバーが泊まる部屋の中では、一番の広さがあるので全員が集合しているのだ。


「ふあー。さて、昼寝でもするかな。今日は朝早くに目覚めてしまったからな。失敬するよ」

 宿の浴衣は小さいのか、長い手足がのぞいているクロエ。彼女は押し入れから枕を取り出して、部屋の隅に置き、仰向けになって寝そべっていた。


「イビキ、かかないでよ」

「うるさい!」

 アンナが声を掛けると、目をつむったままクロエが叫ぶ。

 窓際の籐椅子に座るアンナの方は、ゼリー・モンスターを胸に抱いて、何やらいじり倒している。

「ピ、ピッ!」

 幼児のようにくすぐがっているピーちゃん。柔らかい体をねじって、アンナの魔手から逃そうとしている。

 アチコチ触られるのは苦手なのだ。


「昨晩のクロエさんは寝相もおとなしくて、静かでしたわよ。それよりも、カイト君は何をしてるんですか?」

 部屋のテーブルの前に正座して、旅館のパンフレットを熟読しているカイトだった。

 お菓子の「ミヨイの月」を食べながら、お茶をすすっている。

 「ミヨイの月」は、温泉の蒸気で吹かしたまんじゅうだ。薄黄色く色づけされて、夜空を照らす満月のようだった。この街の名物になっている。

 そんなカイトの左側に座り、ピッタリと寄り添うマリー。カイトの方は、浴衣の合わせ目からのぞく彼女の胸の谷間をガン見していた。


「うーん、ボクの生まれたガリラヤ村はここですよね。ここが王都、ここが今居るタミアラの街。丸い湖の形が、地図でも分かりますね。そういえば、お風呂場で話に出ていた海洋都市『エナリオス』ってどこにあったんですか?」

 テーブルの上で、四つ折りパンフレットを広げている。大陸「ティマイオス」の全土地図が載っている。

 『エナリオス』は失われた都市の名前。


「凄いですわね。この場所の他にたくさんの旅館がありますのね」

 話題が変わる。

 マリーは、地図のアチコチを指差していた。

 どうやら、この旅館は大陸全土にチェーン展開しており、その各宿の位置を地図に載せていたのであった。赤文字で分かり易く表示がしてある。各旅館の全景図がイラストとして描かれている。


「ウチが以前に全国展開をアドバイスしてから、ここ一年で全土に十軒の宿を、おっ立てておるで。他の街で泊まる際は、おいでませませや。黄色人のきめ細やかな心遣いと、新鮮な山の幸と海の幸。心のこもったおもてなし料理は、絶対に受けると思ったんや。案の定、大繁盛や。やから、ウチのワガママは大抵のことは聞いてくれる。ホンマは、儲けの何パーセントかをアドバイス料として貰いたいくらいやけどな」

 ミーシャの本音のこもっている言葉だった。旅館の最上級に近い部屋に泊めて貰ったり、水着での入浴を許可されたりしている。


「そうなのですか、ミーシャさんは商売の才能がお有りのようですね。そうそうカイト君、『エナリオス』は、この場所。大陸中の運河が海に繋がる場所で、交通の要所でもあったのです」

「そうなんですね。こんな場所に」

 カイトは地図に顔を近づける。ひし形の大陸の、西端の場所であった。


「それにしても、わたくしたちは王都からこのミヨイ湖畔の場所まで、瞬時に転移魔法で移動したのですよね――流石、アンナさん――としか言いようがありませんわ」

 地図上の中心部から、南東部のミヨイ湖の隣の「湖畔の宿」のチェーン本部を何度も指で往復させるマリーだった。


「ここが、ボクの生まれたガリラヤ村です」

 ミヨイ湖の場所から、高い山脈を越えた海沿いの平地。カイトの住まう村は近隣の街々からも遠く、へんぴな田舎であった。

「あ、そういえばカイト君の誕生日はいつですの? 都合がつけば、ここの場所にいるメンバーで祝いたいと思いますわ」

 大陸南東部の端を指差すカイトの手。それに優しく手を重ねに行くマリーだった。

 本当は生徒会主催の、全校生徒参加で祝賀パーティーを開きたいのだが、独占したいとも考えている彼女でもあった。


「えーと、まだまだなんですよ。冬の季節です」

 マリーの手を逃れ、ポリポリと頭を掻くカイト。

「そうですのね。随分と先ですのね」

 彼の顔を見て残念がるマリー。


「カイトは、12月の25日生まれなのだよ」

 アンナはニヤニヤと笑いながら、二人の居るテーブルに近寄ってくる。お盆の上に乗った温泉まんじゅうを一つ取って食べ始めた。宿泊客用のお茶請けだ。

「え? そうですの!」

 マリーは驚き、アンナの顔を見てからカイトの顔をマジマジと見る。


「おー、美味いやなー、このまんじゅう。白あんが入っててさ、甘さ控えめで何個でも食べられるわよ」

 ヒョイと、二個目のまんじゅうを摘み上げ、パクと口に送る。


「姉ちゃん、食べ過ぎだよ。お昼には、お蕎麦をたくさん食べたじゃないか」

「わんこ蕎麦だっけか? 喉越しが良くってさ、いくらでもお腹に入っていったのだよ。ムハハ」

 ポンポンとお腹を叩きながら、カイトの忠告を無視してまんじゅうを飲み込むアンナ。自分で湯飲みにお茶を注いでいた。


「それよりも、カイト君が12月25日生まれなのは初耳ですわ。ももも、もしかして、ううう、馬小屋で生まれたりしちゃったりするのですか?」

 顔を赤らめ、興奮しながら語るマリー。荒い鼻息が、カイトの前髪を持ち上げる。


「そうと言えば、そうですね。えーと、今住んでいる家の隣が、父さんと母さんが結婚して直ぐに住んでいた場所なんです。元は馬小屋だったのを、父さんが手を入れて人が住めるように改築しました――もしかしたら、そこでボクと妹のアイは生まれたかも知れません……でも、詳しいことは父から聞かされていませんし、母はボクらを産んで直ぐに亡くなったんです」

 カイトの悲しそうな顔。


 カイトの生まれた場所は、今はアンナとアンドレの住む小さな家。その前は、ロベルタ婆さんが住んでいた。今のカイトが住む場所は、勇者ジョー・ジャック・アーベルが子供たちの生まれた後に、二階建ての家を新築したのであった。


「そうなのですか、つらいことを聞いてしまってすみませんねカイト君。でも、今日は湖の水上を渡るという奇跡を起こしていますし……。ねねね、カイト君が生まれたときに、東方より来た三賢人が、祝福に訪れていませんか?」

 より一層にカイトに密着するマリー。

「ボクの村の東は、海しかありませんよ」

 カイトは生まれたガリラヤ村の周囲を、指で丸く描く。大陸ティマイオスの南東、そこには険しい山脈があり、そこを越えた小さな村がガリラヤである。

 海に面しているので、住民の半数は漁業を営んでいる。残りの半数が酪農と農業で、いたってのどかな村だ。


 確かに、村の東には大洋しかない。


「コラ! 何やってるの!」

 ポコンとマリーの頭を叩くアンナ。

「イタイ! 何するんですの!」

 頭頂部を抑え、涙目で振り返るマリー。アンナは、部屋に備え付けてあった手動の肩叩き器でマリーの頭の天辺を叩いたのであった。

「水上を渡る奇跡を起こしたのは、このアタシだし、カイトに変なことを吹き込んで、誘惑するんじゃないよ、ヘビ!」

 もう一度ポコンと、マリーを叩く。


「わたくしの頭は、ポコポコ叩かれていいものではありません! カイト君の生い立ちが、わたくしたちの元に現れるはずの救世主さまと似ているので、それで尋ねているだけです!」

 マリーはムキになり抗議する。


「そやな、その救世主の言い伝えはウチらの部族にもあるで。母親は処女で妊娠し、馬小屋で産む。その時に東の方から三人の王さまが、星に導かれて訪れて祝福をする。救世主はんは十二人の弟子を引き連れて、病気を治したり、水の上を渡ったり、水を葡萄酒に替えたり、数々の奇跡を起こすんや。やけど悪い奴に捕まって、はりつけの刑で殺される。だけど、三日後には生き返るんや。ズズズ」

 ミーシャは、極めて真面目な顔で語り、その後アンナの入れたお茶をすする。


「ねえ、姉ちゃん。処女ってナニ?」

 ミーシャの話を真剣に聞いていた、カイトからの突然の質問。真っ直ぐで、清らかなる純真な目。

「え?」

 アンナはガクリと肩を落とす。浴衣から綺麗な肩の素肌がのぞいている。


「ええ、あの……カイト君。その辺の教育は、アンナさんから受けてませんの?」

 顔を真っ赤にするマリー。困った顔でアンナの方を見る。

「なんでアタシが、年頃の男の子に性教育しなくちゃイケナイのよ。アタシだって思春期の女の子なのよ!」

 アンナも抗議する。こういった役割は同性のアンドレに期待したいけれど、彼は彼で、女の子の気持ちを理解出来ない朴念仁なのであた。

 父親が恋しい年代の、娘のクロエを放っていても平気なのだ。


「ん? 処女とは、ヴァージンって意味やで」

「バージンって何ですか?」

 今度はつぶらな瞳をミーシャに向ける。


「バじゃないで、ヴァや。下唇を上の歯で軽く噛むんや。まあ、未経験者の事や。この場所に居る全員がそうじゃろな」

 自分は性体験が無いと告白したも同然のミーシャ。何食わぬ顔で大きく口を開け、温泉まんじゅうを頬張る。


「か、カイト君。しょ、処女とは、清らかで慎み深い存在なのです。カイト君も女の子の姿をとっているのだから、そうあるべきです」

 浴衣の乱れを正し、畳の上に正座するマリーだった。


「マリーさんは、バージンなんですね」

「バやないで、ヴァ」

「ヴァ、ヴァージンなのですよね?」

 ミーシャからのチャチャが入り、修正するカイト。


「え、ええ、えええ、そそそ、そうですわ。あたり前ですすす、わ」

 目が泳ぐマリー。自分の処女喪失の相手はカイトだと固く決めている。そんな相手からズバリな質問をされて、脳みそが沸騰しそうなほど頭を赤くし取り乱す。


「なにうろたえてるのよ。カイトは子供なんだからさ、適当な事を言って誤魔化してればイイのよ」

 アンナも取り乱しているのか、三個目のまんじゅうに取りかかる。明らかに食べすぎだ。

「それよりも、姉ちゃん! ボクを早く男にしてよ!」


(男にする!?)

 マリーは頬を赤く染めて、カイトとアンナの姉弟を見た。


 カイトの抗議。

 それは女から男へと戻せとの内容だ。

 彼自身でステイタスカードの項目をいじってしまったが、自分では戻せなくなってしまっていたのだ。

 遺跡を出た直後に、アンナに性別欄を操作してもらおうとカードを渡したが、ニヤニヤと笑っているだけで対処してくれなかった。

 もう一度、アンナに向けてステイタスカードを差し出す。


「うーん、時限のロックが掛かっているみたいなんよ。実際に試したワケじゃないから憶測でモノを言うしかないけど、性別や年齢をいじると一定の時間が経過しないと戻せないみたいなのよね。それが一日なのか、一週間なのか、一ヶ月なのかは、全く分かんないのよ。ヘタに何度もいじると、体の負担が大きいのかも知れんね」

 カイトのカードの上で指を滑らせて、様々な項目をチェックしているアンナ。


「そんな、姉ちゃん……」

 ガックリと肩を落とす。

「そんなこと言わずにカイト君。この姿も、可愛くって好きですよ」

 ガンバ――両手で握り拳を作るマリー。

 耳元で好きだと優しく囁かれ、顔を赤くするカイトだった。


「あああ、そうだった。マリーさんに聞きたかった事が……」

「何ですの、カイト君」

 隣の生徒会長から体を離して、質問をするカイト。


「海洋都市『エナリオス』は大きな街だったんですよね。そんな大都市は、どこと交易をしていたんですか? 大陸の中は、運河を使えば良いだけです。大陸の外には、海しかないとアンドレおじさんに教えられているんです。もしかして、他の大陸とかが隠されているんですか?」

 カイトは旅館のパンフの地図にもう一度注目する。

 『エナリオス』は、ひし形の大陸の西の端に位置している。大陸内部を同心円状に幾重にも走っている運河。それが唯一海洋と繋がる場所に『エナリオス』が存在したのだ。

 十三年前、海中モンスター『黒龍』に滅ぼされた巨大都市。

 しかし、『エナリオス』の発展の理由も、説明がされていない。


「ええ、それが良く分からないんです。『エナリオス』がどこかと貿易をしていたらしい形跡はあるのですが、相手側がハッキリしていないのです。運河で運ばれた物量と、実際の取引された量が合致しないのですよ。それに授業でも、わたくしたちが住む地球と大陸について習いますが、これまた謎が多いのです」

「大陸の謎ですか?」

「ええ。あ、このメモ帳を頂きますね」

 そう言ったマリーは、テーブル上のペンスタンドからメモ用紙を一枚はがし取る。


「えっと、カイト君は長さの単位である『メータル』が、どうして決められたかご存じですか?」

「え? いいえ」

 急に話題が変わった為、戸惑う。背筋をピンとして正座しているカイトは、ブンブンと首を左右に振る。


「メータル法は、四千年前に既に制定されています。地球の北極点から南極点まで伸びる子午線をご存じですよね」

「ええ……」

 カイトの目が泳ぐ。嘘を付いてしまっていた。地球が、文字通り球体であることも、つい最近知ったばかりだ。

「球体の地球の表面をそって伸びる子午線の弧。その北極点から赤道までの長さの1000万分の1を1メータルに制定したのです。北極点から赤道までの距離は1000万メータル、つまり1万キロメータルになるのです。そうやって、地球をグルリと一周させます。そうすると、地球の円周の距離は4万キロメータル――ですよね」

 マリーは、メモ帳の用紙いっぱいに鉛筆で丸を描く。そしてカイトの方を向いた。

「ええ、そうですね」

 今度も曖昧な返事をする。

「つまり、地球の直径は円周の長さをπで割ると出るわけです」

 マリーは描いた円の中心点を通る線を横に一本引く。これは赤道だ。

「パイで、割るんですね」

 隣の教師役マリーのおっぱいを見るカイト。彼女のおっぱいの円周の長さは幾らなのだろうか――両手の指を使って計りたい――と切に願うのだった。

 おっぱいをπで割ると、胸の頂点までの高さが分かるのだ。そんな計算式に興奮する。

「そう。そして4万キロメータル÷3・14は、約1万2734キロメータルですね。これが地球の直径です。これを2で割ると、半径の6374キロメータルの数字が出ます。これが、後で重要になりますから覚えておいてね、カイト君」

「はい」

 もう、数値は忘れてしまっていた。


(綺麗な字だな)

 メモ帳の端に、計算式を記入するマリー。その文字に見とれる。


「で、カイト君はティマイオスの大陸の大きさをご存じですか?」

 顔を上げるマリーは、髪が乱れたので掻き上げていた。その仕草にドキリとなる。


「いいえ。知りません」

 真顔に戻る。

「南北に約4390キロメータル。東西に約3640キロメータル。おおざっぱですが、ひし形の面積は縦の対角線×横の対角線÷2で求められます。計算すると、798万9800平方キロメータルになりますよね」

 メモ帳の円の上方に、縦・横の十字の線を引くマリー。それを対角線としてひし形を形作る。円の横には、再び数式が書き込まれていた。


「それが、どうかしましたか?」

 マリーの話の先が見えなくて、首を傾けるカイト。数字ばかりが並んで、混乱する。


「球の表面積は、4×π×rの二乗で求められます。これは高等部の一年で習いますので、カイト君は知りませんよね」

「ええ」

 彼女は数式をメモ帳に書いて、丸で囲う。

 カイトには、マリーの言うことはさっぱりピーマンであった。


「地球の表面積を求めるには、rの部分は半径の長さですので、先ほど出した地球の半径の6374キロメータルを、数式に当てはめるのです」

「ほう、なるほど」

 ポンと手を打つカイトだったが、全く理解していない。

「つまり、4×3・14×6374キロメータルの二乗は、5億1028万6123平方キロメータルと、こんな計算結果が出ます」


「結局、何が言いたいの?」

 今までのマリーとカイトのやり取りを、黙って聞いていたアンナが口を挟む。

 アンナとミーシャの二人で、お盆の上のまんじゅう「ミヨイの月」を食べ尽くしてしまっていた。


「まだ、ありますの! 最後まで大人しく聞いていて下さい、アンナさん。カイト君も邪魔が入って、嫌ですよね」

「え、あ、ハイ」

 マリーに強く同意を求められて、返事する。


「マリーはんは、いい先生になれるで、ニハハ」

 座椅子に体重を預け、足を投げ出しているミーシャが言った。

「そうですか? カイト君の家庭教師も、致しましょうか?」

「いえ、あの……。さっきの続きを」

「ゴメンなさい、話が脱線しましたわね。大陸の面積を地球の表面積で割って100を掛けると、面積の割合が出ます。798万9800平方キロメータル÷5億1028万6123平方キロメータル×100は、約1・57パーセントです」

 マリーは計算式から導き出された数値の下に二本線を引いて強調する。


「はあ……」

「いいですか、カイト君。この地球全体の表面積に対して、大陸ティマイオスの面積はわずか1・57パーセントに過ぎないんですよ! これは、おかしいと思いませんか? 残りの98・43パーセントは、全て海だとでもいうのですか! 変ですよ変! これは、間違っていますわ! これらの数値は全て教科書に載っているモノばかりです。そうなると何が間違っているのでしょうか? わたしたちが教えられたのは、大陸の外には海しかないということ。果たしてそれが正しいのでしょうか? わたくしたちの宗教の保守派は、大地は球形ではなく平面だと主張しています。大陸の外に海があり、その更に外側は断崖絶壁があって、何も無くなっていると!」

 興奮するマリーは、カイトに向けて熱く語る。


「これは、地動説と天動説ですね」

 カイトも知っている知識のみで、マリーの話についていく。

「そうです! 教皇庁の長老たちは、そろって天動説の見解なのですが……わたくしには教科書よりも、そちらの意見の方が正しくさえ思えてくるのです。一部の若手急進派たちは、海を隔てた遥か遠くに、未知の巨大な大陸があるとまで言い切っています。わたくしには、もう何が正しくて、何が間違っているのかさえ、分からないのですよ。わたくしたちに、誰かが嘘を吹き込んでいるのでしょうか?」

 ここまで来て、結論を投げ出すマリー。六角形の鉛筆がテーブルの上をコロコロと転がり、畳の上に落ちる。


「そうね、それは感じるわ。何かしらの大きな陰謀が隠されているかもしれないわね。四千年前に絶大な魔法科学力を誇ってはいたけど、その後には目覚ましい進歩は無いと言っても過言でないわね。空を上に上に向けて飛んで、この大陸を――いいえ、この地球全体を――眺めたら、真実が見えるかも知れないわ」

 アンナは真剣な顔をして、開いた窓からのぞく空を見上げる。


「ん? 何か聞こえヘンか?」

 唐突にミーシャが語る。耳をヒクヒクと動かして聴覚を集中していた。


「クカー、クカー」

 皆が静かにしたので、畳の上に大の字に寝転んでいるクロエの寝息が聞こえている。


「何も聞こえないわ? その能力は、大盗賊の地獄耳? それならば『大神官』のマリーさまに頼ってはどうかしら」

 窓からバルコニーに出たアンナがマリーに向く。


「そうですわね。聴力強化! 『地獄耳』」

 マリーも外に出て湖の方向に耳をそばだてる。



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