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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル08「お宝を 探し回って 落っこちて」
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(温泉で湯煙)

「ふぅ……生き返るね。眺めも抜群だし、今は霧が晴れて見渡しが良くなったからね」


 湖のよく見える、旅館の露天風呂。その岩場に腰掛けて、ビキニの水着を着るアンナが言った。

 早朝に入ったときには、霧に覆われて真っ白な世界だった。あの時の遺跡内部のように……。

 湖は透明度が高いため、濃い藍色を湛えていた。太陽光を受け、キラキラと水面が光っている。


「湖の形が真円で、深さもあるからな。自然の中に溶け込んだ人工物だから、妙なアンバランスさが――逆に調和が取れているように感じる」

 黒の競泳水着を着るクロエも湯船の端に浸かり、湖に手を浸ける。

 赤い髪の後れ毛が、色っぽいな――カイトは口までお湯に浸かりながら、そんなことを考える。


「ここの温泉の効能は、美肌効果だと聞きましたわ。飲んでも胃腸によいのだそうです」

 お湯を両手ですくい、ゴクゴクと飲み干すマリー。


「カイト君の浸かるお湯は、美味ですわ~」

「!」

 驚いて顔を上げるマリー。

「アンナさん!」

 マリーの口調を真似たアンナはニヒヒと笑って、お湯の中に頭までザボンと沈む。


「なあ、兄ちゃんな。ウチの肌がスベスベなんは、この温泉のお陰なんやで。そもそも、この近くに温泉が湧き出たのも、四千年前の『アナスタシア』女王陛下が、自分のステイタスカードと大陸中から集めたお宝を収めるべく、生前に陵墓を作ったからなんや。女王の強大な魔法力を使って、地面に大きな穴を開けはった。その影響が、地下深くに及んでお湯が吹き上がってきたんや」

 カイトの右真横に陣取る紺スク水のミーシャは、彼の右手を取って自分の左肩を触らせている。

 本当は嫌なのだが、相手に気を使って手を引っ込めないでいるカイト。


「あら、カイト君だってスベスベですわ。それよりも、手に貼り付くような極めの細やかさを感じます。そう――まるで、赤ちゃんのよう」

 カイトの左肩に頭を寄りかかっているのは、ほぼ全裸に近い『過激な水着』を身につけたマリーだった。

 長い銀色の髪の毛を濡らさぬように、頭の上でまとめて白いタオルを巻いている。


 カイトの水着の開いた背中をペタペタと触っている。


「ね! チョッとスキンシップが過ぎるんじゃないの!」

「ベチャ!」

 アンナがそう言って投げた、丸めた手拭いがマリーの顔面の中心に命中する。


「むぅー。何ですのアンナさん! アナタはお姉さんなんでしょ、わたくしとカイト君の親密さが増すように応援するどころか、邪魔ばっかりして!」

 ザバァーと立ち上がるマリー。

 お湯を押しのけた豊かな胸は、タユタユンと揺れていた。

「ほぇー」

 それを下から見上げるカイトは、感心した声を出す。


 カイトの肌を散々褒めていたマリーだったが、彼女の胸の表面やお尻では水を弾いていて、綺麗な水滴となって落ちていく。


「ピピ、ピピピ」

 お湯は苦手だったのか、露天風呂の上を飛び回っていたピーちゃんが、カイトの頭の上に着地する。


「あ、冷たくて何か気持ちイイかも」

 カイトはずっとお湯に浸かり放しだった。他のメンバーの水着姿を見るよりも、他人に自分の水着姿を見られる方が嫌だった。

「ホンマか? ああ、ヒャッコくて気持ちエエなぁ。ほんで、ヤラかくてプニプニしとるの」

 カイトの頭の上から奪い取り、自分の頬に押しつけてスリスリとしている。


「ピピピ! ピー、ピッピ!」

 抗議の声を上げているのか? 嫌そうな表情になる。


「そういえばオマはんも、特殊アイテムを持っておるのかの? ゴールドもタンマリ持っておるんかのぉ? ステイタスカードを、ウチに見せてみ。し、心配センでもエエで、痛くせえヘンから。優しく、ねぶるように、ヌチョヌチョと」

「ピィー! ピピ!」

 ミーシャの手が、ピーちゃんの顔の部分に伸びる。

「大占い師の特殊技能、『カード摘出』!」

 ムニュと音がして、赤ちゃんのような小さな手がゼリー・モンスターの顔面に埋まっていく。


「ヤメテあげて! ピーちゃんがかわいそうだよ」

 カイトは、手を掴み止めようとするが容赦しない。グロテスクでスプラッタな画面だ。

「ピー、ピー、ピーィイイイ!!! イィ……」

 断末魔のような悲鳴。やがて、消え入るような声。


「おっ、取り出せたで。どれどれ」

「キュー」

 興味はカードの方に移っていた、興味が無くなったゼリー・モンスターの方は、乱暴に投げ捨てるミーシャ。


「ピーちゃんさん。大丈夫ですの?」

 気を失った魔物を胸で受け止めるマリー。人間とは違い、モンスターにとってはステイタスカードの摘出は多大な負担が掛かるようだった。



 名 前:ピーちゃん

 年 齢:17歳

 性 別:女

 職 業:ゼリー・モンスター

 レベル:99


 ミーシャは淡々と読み上げる。


「ピーちゃんが、名前なのかい? ビックラこいた」

 アンナは驚いていた。十年前に名付けたのは、姉のマリヤだった。その名前がそっくり採用されているのだ。

 モンスターのステイタスカードに隠されている謎。じゃあ、『ウロボロ子』や『ヨルムンガン子』のような、センスのない名前の名付け親の正体は?


「これで17歳なのか、オレと同じ年齢だな。しかし、ゼリー・モンスターのレベル99とは強いのか弱いのか、全く判別が出来ないな」

 腕を組むクロエは、唸っていた。ピチピチの競泳水着の生地が、太陽光を浴びて光る。


「ですが、アンナさん。ピーちゃんさんを、今後どうするつもりですの?」

「え、どうするって?」

 マリーの質問の意味を理解していないアンナだった。

「モンスターを一緒に連れて歩くのはどうなのか――と、申し上げているのです。この宿に連れてくるときもピーちゃんさんに隠れて貰って、お部屋の窓から入れたのですわ。このまま、学園の女子寮に連れ帰るつもりですか? それとも、カイト君の実家で飼うつもりなのですか?」

「うーん、そこまでは考えが及んでなかったわ。でも、ピーちゃんは害はないでしょ。弱っちい魔物だし、みんなに説明をすれば分かってくれるでしょ」

 いたって脳天気なアンナだった。


「そんなワケには、いかへんで。モンスターを意味もなく怖がる人間は、現実にはたくさん存在するんや。十三年前に、モンスターに襲われて壊滅した海洋都市『エナリオス』の出身の学生も大勢おる。当時は小さい子供やったんで、優先的に避難させられたけど、家族を失った人間は大勢おる。ウチの両親も、その時に死んだんや」

 ミーシャからの意外な告白。

 曾祖母が大占い師サーシャ・フリードルであるのに、盗賊に身をやつしたミーシャの運命。


「そうだったのですかミーシャさん。でも、ミーシャさんはモンスターを恐れませんね」

「そやな。だって、アイツらを倒すとゴールドを得られるし、アイテムも持っておる。お得やろ。そんで、オマエは何か、持ってヘンのかいな!」

 再びピーちゃんのステイタスカードを見るミーシャだった。


「おお? 名前欄をいじられるヤン。ていうか、いじった跡がある。なんや、マリヤ・ニコ……」

「ザバッ!」

 血相を変えてミーシャに詰め寄るアンナ。お湯をかき分けてやって来る。


「貸しなさい!」

「な、なんや」

 カードを奪い取られまいと抵抗するが、アッサリと手渡していた。アンナの凄い剣幕に圧倒されたのだ。


「名前、年齢、職業、レベルを変更できるわ。職業欄は……」

 そう言って顔色がハッキリと変わるアンナだった。

「どうした?」

「ううん、何でもないわ、何でもないの。それよりも、今後はピーちゃんのステイタスカードを勝手にいじられないようにロックを掛けます」

 クロエに向けて首を振り、アンナはカードに手をかざして、何事かを呟いていた。


「姉ちゃん……」

 アンナは重大な隠し事をしている。カイトはハッキリと確信した。



   ◆◇◆



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