(温泉でシッポリ)
――午前十一時二分。
ミヨイ湖畔、タミアラの宿屋。
「こんなに、早く決着を付けられるとは思わなかったわね」
旅館「湖畔の宿」、大浴場の脱衣所。
アンナは高等部の制服を脱ぎながらそう言った。青いネクタイを、竹で編んだカゴに入れる。
「ああ、そうだな。昼飯前に一風呂浴びて、午後からは部屋に帰って静養しよう」
クロエは既に下着姿になっていた。背中を盛り上げている、筋肉が見事であった。その上からスポーツブラが大きな胸を押さえつけている。
「まあ、宿屋さんに戻る前に一波乱ありましたが……」
含みのある表情で、大盗賊に冷たい目を向けるマリーだった。
「イイやんか。ポケットの中に金貨が一枚残っていたのは不可抗力や。出口で電撃に焼かれそうになったのは、ウチの方やで。放り出して何とか逃れたけどな」
全く反省の色のないミーシャ。黒いタンクトップを脱ぎ、カゴに放り込む。
黒いホットパンツと下着も脱いで、あっという間に真っ裸になる。
「チョ、チョッと待って下さいよ! どうしてボクが女風呂に入らないとイケナイのですか? ボクだったら部屋のお風呂に入りますよ!」
カイトは抗議の声を上げる。彼だけが、学園高等部の制服を着たままだった。
「イイジャン! 女の子の体だから、アタシたちは見られても別に困らないし。カイトは男風呂の方には入れないでしょ」
アンナはブラを外そうと前屈みになり、背中に両手を回す。
胸の谷間が強調される姿勢に、カイトは顔を赤くして横を向く。
パン、パン――手を叩くマリー。一同は注目する。
「そうですわ。間を取って、水着で入浴するのはどうでしょうか? この時間は、他の利用者さんも少ないですし、旅館の方に許可を頂ければ可能でしょう――ね、ミーシャさん?」
マリーは長い睫毛を瞬かせて、ウインクする。
「勝手に水着で入っても、ええんやないかな。ウチが、旅館の女将に事後承諾を取り付けるさかい、安心してや。ステイタスカード、起動! 王立学園・スクール水着装備やん!」
ミーシャが叫ぶと、素っ裸の彼女の身体に瞬間的に紺色ワンピース型の女子水着が装着される。
胸には白い布が縫い付けられており「ミーシャ」と名前が入れられている。背中側は、思ったよりも大胆にU字型に切れ込んでいる。
ペッタンコの体型に妙にマッチしていたのだった。
「まあ、イイ。カイト君の目線が気にならないとは、いえんからな。オレも水着になるとしようか。ステイタスカード、起動! 王立学園・競泳水着装備!」
クロエは下着を急いで脱いで叫ぶ。筋肉隆々の鍛えられた体には、黒い色の競泳用の水着が装着される。
股間が際どく切れ上がっており、褐色の肌の彼女には似合っていた。ピチピチの水着に押されて、大きな胸の谷間も強調される。
ヘアバンドを使い、ボサボサに乱れていた赤い髪の毛をポニーテールにしていた。
「アタシの水着は、花柄のビキニタイプよ。学園指定の水着は可愛くないでしょう。夏になっての水泳の授業に向けても、体を鍛えないとね」
アンナは瞬時に水着姿に変わっていた。
本人が言ったとおりに、白のビキニには可愛らしい花の模様が散りばめられている。
「あの、わたくしは去年までの水着が小さくなりまして……」
恥ずかしそうに手を挙げるマリーだった。
「そんなら、その水着をカイトに貸してあげて。今まで学校に通っていないから、指定の水着は持っていないんよ。まあ、女子水着は最初から持っているはずもないし、持っていたら変態だし」
アンナは爽やかなるにこやかな表情で、マリーに言う。
「ええ、そうならばステイタスカード、起動! 王立学園・スクール水着、展開!」
バスタオルを体に巻くマリーの右手には、白い色の水着が現れた。
「ホラ、カイト。受け取りな」
アンナに背中を押されて、マリーの前に出るカイトだった。
「昨年までは、中等部の時のスクール水着を無理して着ていたのですが、育ってしまった今は流石に着られなくて……」
自分の胸元を、左手で恥ずかしげに押さえるマリー。水着を受け取ったカイトも顔を赤くする。
どこが育ったんだ?
(この水着、生徒会長さんが着ていたんだ)
女子のお古を着させられているのには慣れているカイト。故郷のガリラヤ村では、豊富な衣服とは無縁の生活だった。下着でさえ継ぎを当てている。
一歳年上のアンナが、近郊の街で購入した女物のシャツやズボンを着させられていた。
同年代の男の子にしては、体の小さいカイトには、アンナのお下がりを着ることは苦にはならなかった。
でも。
(誰かが着た水着を、身につけるなんて……)
流石のカイトも、アンナの下着は身につける勇気はなかった。
「チャッチャと着ちゃいなさい! アタシは先にお風呂に入るから」
アンナは旅館の銘が入った紺色の手拭いを肩に担いで、浴場のドアを開ける。
「着ちゃいなさいと言われても……」
カイトも困惑する。渡されても、どっちが前なのかも分からない。
「さ、オレたちも入ろう。戦闘で疲れた体を癒すんだ」
「そやな。兄ちゃんも早よし」
クロエとミーシャの凸凹コンビも浴場へと入っていく。軽く50センチメータルはある身長差だった。
「あの、会長さんは水着に着替えないんですか?」
「ええ、新しい水着は、あるにはあるんですが。その……母親から受け継いだ、アレン家に代々伝わる防具の一種なのですけど……。その、色々と過激でして」
顔をうつむけて恥ずかしがるマリーが、可愛らしいと感じるカイトだった。
「ボクは大丈夫ですよ。会長さんの事を笑ったり軽蔑したり、しませんよ」
「カイト君は優しいのですね……」
(ますます、好きになってしまいますわ)
マリーは腹を括る。
「アレン家の家宝『過激な水着』装備!」
カイトに背中を向けたマリーから、バスタオルがハラリと落ちる。
(あ、綺麗なお尻……)
ガン見するつもりは無かったが、目線はどうしてもそこに向かってしまう。
青白く染み一つもない、透き通るような肌。薄い肌なので、皮下の静脈が透けて見えている。
そして、大きくて洋梨型のヒップの肉感的な魅力に魅了される。
「ああ、恥ずかしいですわ」
身をよじり、しゃがみ込んだマリーには、水着を着ているような雰囲気はなかった。
「え?」
思わず声を出すカイト。マリーのお尻をよく見ると、青い紐のようなものが、お尻の割れ目にまとわりついている。
「カイト君は、軽蔑しませんわよね」
決心し、立ち上がるマリー。クルリと向き直った姿を見て、カイトは鼻血が出そうになった。
「ええ、ええ、えええ」
カイトは言いながら、マリーにすり寄っていく。
マリーの見事なボディーに巻き付いている青い紐。股間と乳首を隠すだけの僅かばかりの青い布の存在。
ほぼ全裸に近い姿を見られて喜んでいた。まるで、変質者である。
「こ、これが、我がアレン家に伝わる『過激な水着』です。『大賢者』の高レベル者しか装備出来ないレア防具なのですが、この冒険でレベルアップして、ようやく装備出来るようになりました。今回入手した『エメレオン』と同じく、女性の羞恥心を魔力へと変換して、強大な防御能力にするのです。わたくしの母も装備して、冒険の旅に出たのです。カイト君のお父さまにも迫ったそうですが、振られてしまいましたのね」
マリーがしゃべる度に、たおやかな大きなお胸が揺れていた。
カイトはその揺れに会わせるように、首を振っていた。そして、あの若々しいマリーの母親、パトリシア・アレン枢機卿の姿を思い浮かべる。
「はあ、その水着は、そんなに凄い水着だったのですね」
「ええ、そうですわ。カイト君も水着の着方が分かりませんのね。では、わたくしが着させてあげますわ。まず、服を脱ぎます……」
カイトの顔の前にマリーの胸が迫っていた。
そしてシャツのボタンにかけられる、白くて細いマリーの指。
「ボ、ボク、裸になるんですか!」
素っ頓狂な声を出す。
「そうしないと、水着を着られませんわよね。服を着たまま、温泉に入るわけにはいかないでしょう」
マリーの白魚のような指の繊細なる運び。あっという間に白シャツを脱がされ、奪われる。上半身はTシャツだけの無防備な姿にされる。
「あ、あの」
「カイト君は今は、女の子なのですから、こういった姿になるときにはチャンとブラジャーもしないといけませんよ。ホラ、胸もあるのですから」
「キャッ!」
Tシャツを脱がされて声を出す。
「あの……」
カイトの剥き出しの背中に押しつけられる胸。カイトの僅かな胸の膨らみに伸びてくる、マリーの指。頂点部分を探し当てるかのように、うごめいている。
ガラッ!
浴場への扉が、勢いよく開く。
「何やってんのよ、二人共! 早く湯船に入りなさい! それに、アンタは早くこっちに来なさい。カイトが水着を着られないでしょ!」
「アレー。カイト君……」
アンナはマリーの手を引っ張って連れて行ってしまう。
ピシャッ!
勢いよく閉じられる扉。
「あ……」
カイトの手に残される白い水着。
(会長さんの胸、柔らかかったな)
そんなことを思いながら、スカートとトランクスを脱ぐ。
「ピピピ?」
カイトの背後にいたのは、ゼリー・モンスターのピーちゃんだった。
パタパタと飛びながらカイトの裸を凝視していた。
「み、見ないで」
慌てて水着に足を突っ込むカイトだった。
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