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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル06「盗賊の 鼻を明かして 宝取れ」
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(アンナの思い出)

「ねえ、姉さま。ブルカ・マルカさまの魔法授業を抜け出して、こんな場所に来て良かったの?」

 五歳のアナスタシア・ニコラエヴァは、自分の前をさっそうと歩く姉のマリヤに尋ねる。


「ええ、いいのよアン。私は、アノ先生――何か嫌い!」

 プイと斜め前を向いて、王宮内の中庭を歩いていく少女。

 マリヤは、フリフリの白い飾りの付いたワンピースで、白いエナメルの靴に白いソックスをはいている。

 髪の毛を大きな一本の三つ編みにしていた彼女は、可愛らしい白い帽子を被る純白の妖精であった。

 中庭の緑の中に良く映える美少女だった。


 ティマイオス王立学園の初等部を、一日で辞めてしまったマリヤ。今は王宮内で家庭教師たちに個別指導の授業を受けていたのだった。

 その中で魔法教科を受け持つのは、王宮の魔法護衛部隊の隊長のブルカ・マルカ男爵であった。

 ブルカ・マルカは二十歳の美人であり、五歳のアンに対しても物腰は柔らかく、上品な態度で接するので、優しい女性だと感じていた。

 その彼女を、姉のマリヤが「嫌い」と言うのだから仕方無い――妹のアンはそれで納得をする。


 この春に、アンは初等部に通う年齢になったが、姉のマリヤと一緒に宮殿内で各教科の授業を受けている。

 マリヤが拒絶した学校を、快くは思っていないアンだった。


「ねえ、姉さま。どこいくの? まって~」

 魔法の授業を抜け出し、一歳年上の姉の後ろを必死に追いかけるアナスタシア。

 この年頃では、一つの年齢差で発育の違いが大きいのだった。体力では姉のマリヤに全く敵わないアン。だか、他の授業は一緒に受けて同じ内容を学ぶ。初等部二年生に相当する知識を、姉以上に早く吸収するアンであった。


 アンの方も白い服を着る。白い半袖シャツと、白い半パンの姿は、快活で行動的な彼女に似合っていた。姉とお揃いの靴と帽子も着用するが、背後からのシルエットは男の子に見えていた。


「夜中に大きな音がしたでしょ」

 マリヤは歩みをゆるめ、後ろのアンに首を向け話しかける。タップリの笑顔だった。

「ウン、カミナリみたいなのが、バチバチ、ドカーンって!」

 アンは両手を上げて、昨晩の様子を表現していた。すっかり寝入った幼女が起き出すほどの大音響で、大事件だったのだ。

 この時も、女王アレクサンドラが対応のため指揮を執り、王宮中がてんやわんやの大騒ぎとなっていた。

 昨夜は、雲一つ無い良い天気であった。夜空全体で、星が綺麗に瞬いていた。カミナリ雲など発生していないので、音の正体は不明だった。


 ソフィア大聖堂の鐘が鳴らされて、王宮に居た全員が叩き起こされた。

 王宮の魔法結界を、何者かが破って侵入したのだ――そんな見解が出される。王宮警護隊は、侵入者への徹底した捜索を行った。だが、何モノも発見出来ずにいた。

 その時は、『魔法カラス』が結界に触れてしまったのだと解釈される。確かに、王宮の城壁の外には、通常の鳥にはない大きな黒い羽が落ちていた。

 しかし、小さな姫さまたちは、その詳細までは知らない。



「コッチの方に、何かが落ちるのを見たのよ」

 マリヤは一人でズンズンと進んでいく。王宮の端の、高い城壁まで辿り着く。

 彼女は、ニコラエ宮殿の見晴らしの良い窓際にベッドがあった。マリヤはゆうべ、寝ぼけ眼を擦りながらも、一部始終を目撃していたのだ。

「はぇー」

 アンは、ようやく姉に追いつき、王宮と一般市民の領域とを区分けする高い壁を下から見上げる。

 頑丈なレンガを積み上げて作られた、高い高い赤壁。

 まだ五歳のアンにとっては王宮の塀の内側だけが、彼女の世界の全てだった。いつか、外の世界に旅立って、広い広い大陸を縦横に駆け巡りたいとの欲求を持っていた。

 五歳の少女にとっては広い王宮の庭だが、それで満足する玉ではないのだ。


「ピー、ピー、ピー」

 城壁のそばの緑の植え込み。

 その繁みから、か弱き鳴き声が聞こえてきた。

「姉さま、声が……」

「アン、静かに!」

 小声で言ったマリヤは、耳に手をかざして聞き耳を立てる。


「鳥さんかしら?」

 マリヤはそう言って、声のする方向へと走っていった。普段からは想像も出来ない積極さだった。いつもは引っ込み思案な彼女。でも、一度夢中になってしまうと、妹のアンを中々解放してくれなくなる。

「姉さまぁー」

 呆れたアンは、その場の芝生の上に膝を突き、ペタンとお尻を落としてへたり込む。疲れてしまったのもあった。


「マリヤ、アン。二人とも良く聞きなさい。王宮を囲う壁に、無闇に近づいてはいけませんよ。外から侵入を企てる、賊やモンスターに対しての魔法結界が張ってあります。万が一でも、人が触ったら大怪我をしてしまいます。いいですか、決して近づかないように、約束ですよ」

 母のアレクサンドラ女王の、大切な言葉を思い出すアン。


(マリヤ姉さまが、怪我をしてしまうわ)

 心配になり、立ち上がり駆け寄って行く。



「ねぇ、アン。見て、みて!」

 目を輝かして妹を見つめるマリヤ。そう言って植え込みの影を指差した。

「なになに?」

 アンは身を屈め、切りそろえられた植木の枝をかき分ける。


「ピィー!」

「うわ!」

 枝木の影でなりを潜めていた存在は、アンを威嚇する。驚いて芝生にお尻をつくアナスタシアだった。


「あはは、あはは。アン、慌てることはないわ。おーヨチヨチ」

 マリヤは物怖じすることなく、アンを驚かした生物を植え込みの中から取り出す。そして愛おしそうに胸に抱く。


「ね、姉さま大丈夫?」

 アンはマリヤの持つ、不思議な生き物に注目する。今まで見たことの無い生物だった。いや、そもそも生き物なのか――アンは思う。動物好きのマリヤが見せてくれた動物図鑑にも載っていない謎の物体。


「大丈夫よ。この子は、ゼリー・モンスターの一種ね。害はないわ」

 あっけらかんと言う姉に、愕然とするアン。

 不用心にペチペチと、謎の存在の物体を叩いていた。

「姉さま! ソイツを早く捨てて! アタシが火炎魔法で焼き払う!」

 アンは、右足を後ろに引いて構える。右手の人差し指の先から、小さな炎がボゥと噴き出していた。

「アン、やめなさい! この子は怪我をしているのよ」

 水滴型の青色の半透明の体。体を透かしてアンの警戒する顔が歪んで見えていた。

 ソイツの体の中心にある大きなつぶらな二つの目で、マリヤの顔を見ていた。

 額――と呼ぶべきだろうか。人間に例えると、目の上のおでこの部分に大きなバツ印の傷が有った。


「姉さま気を付けて」

 アンはハラハラと落ち着き無く、姉の行動を見守る。マリヤが胸に抱くモンスターが、チョッとでも危害を加えるようだったら、直ちに消し炭に変える用意は出来ていた。


「治癒魔法を使ってみるわ。人間や動物には使えたけど、モンスターには通用するのかしら?」

「姉さま……」

 動物に対しては、好奇心旺盛なマリヤ。反面、やや人間嫌いの性質があるのだった。その事実を妹のアンは良く知っている。

 だから姉のマリヤは、学園を一日で辞めてしまったのだろう――アンなりに考えている。

 我慢強い姉。その彼女が投げ出してしまったのだから、学校とはよっぽど酷い場所なのだ。そう考えて、アナスタシアは王立学園初等部への入学を断固として拒んでいた。



「治癒魔法! 早く元気になってね」

 マリヤはゼリー・モンスターの額の傷に右手をかざす。温かげなオレンジ色の光が、モンスターの患部を照らしていた。

「ピー、ピピピ、ピー♪」

 モンスターは歓喜の声を漏らす。


「姉さま。この子、喜んでる見たい」

 アンは正直な感想を漏らす。魔法授業で習った治癒魔法の効力が、魔物に通用するとは思ってもいなかった。

「傷口はふさがったみたいだけど、傷あとが残ってしまうわ。ゴメンなさいね、ピーちゃん」

 モンスターの傷口から染み出ていた体液の流出は止まった。しかし、表面にはうっすらとバッテン形の傷あとが残っていた。

 だがそれよりも、アンには引っ掛かる事がある。


「ピーちゃん? 何それ?」

 アンは真顔で姉の方に向く。


「この子の名前よ。今付けたの、可愛いでしょ」

「プッ!」

 マリヤの言葉を聞き、アンは吹き出していた。


「な、何が可笑しいの? アン」

「ピーちゃん……って、インコの名前じゃないんだから」

 呆れた顔を姉に向けるアン。


「え? じゃ、じゃあ、どんな名前がいいっていうの?」

 反対に、妹に尋ねるマリヤだった。

「うーん。う………ん――」

 真剣に悩むアン。

「――モンスターの名前だからさ、『暗黒大魔王』とか、『地獄の番犬』とか……」

 独特のネーミングセンスのアンだった。


「プッ――」

 今度はマリヤが吹き出す番である。

「――『魔王』なんて、いるわけがないじゃない! 『地獄』なんて、あるわけがないじゃない!」

「え? いないの、ないの?」

「いないわよ、あるわけないよ。お母さまが言ってた」

「そうなんだ」

 納得するアナスタシア。


 『魔王』なんていない、『地獄』なんてない――この世界の真実。



「ピーちゃんは、ピーちゃんだよね」

 自分に言い聞かせる様な、マリヤの言葉。

「ピー、ピー」

 その「ピーちゃん」と呼ばれたゼリー・モンスターは喜び、頭の両横から小さな羽を出して、パタパタと羽ばたいた。


「わ、飛んでる」

 アンは驚いて目を丸くする。

「凄い、凄い! 羽のある子は、初めて見たわ。魔物図鑑にも載ってない! 新種よ、これは! 大発見!」

 喜んで両手を広げ、芝生の上でクルクルと回り出すマリヤだった。

 その度に白いスカートがフワリフワリと持ち上がる。


 マリヤが魔物図鑑を持っているとは、アンには初耳であった。もっとも、モンスターに興味があると母に語ったら、きっと取り上げられてしまう品だ――アンは、家族に隠し事をしているマリヤの事を、改めて見直すのだった。

 素直で人の話を良く聞くマリヤ。反面、納得出来ないことには、少しも妥協はしないのであった。


「この子を、ピーちゃんを私たちで飼いましょう!」

「え!?」

 突然に何を言い出すのだ? そんな顔をして姉を見るアンだった。


「ねねね、ゼリー・モンスターは何を食べているのかしらね。魔物たちの生態は謎に包まれているの。草とかを食べるのかな? 虫とかを食べるのかな?」

 新たなる発見の連続に、興味津々のマリヤだった。


「人間とか……」

 アンなりの冗談だった。

「ピー、ピー」

 アンの元に羽ばたいてくるピーちゃん。アナスタシアは、思わず受け止めてしまった。

「こここ、怖くないよね」

 アンは左手で抱き、右手の人差し指を近づける。パックリと開くピーちゃんの頭部下部。


「く、口があった!」

 驚いて手を離すアン。思ったよりも大きな口に、本当に食べられるのかと思ってしまった。丸呑みにされると思った。

 パタパタ、小さな羽で一生懸命に羽ばたき、マリヤの元に行く。


「口はあるでしょ。そうしないと鳴けないわよね、ピーちゃん」

「ピー」

 彼? 彼女? 性別も不明な魔物が肯定の意味なのか、マリヤの胸で鳴いていた。


「姉さま、モンスターを飼うのはどうかと……。お母さまに相談してみたら」

 アンは恐る恐る提案する。

「ダメよ! お母さまなら直ぐに殺してしまえと命令するわ。それに、ピーちゃんの怪我も完璧に治ってないみたい。私はね、本当はモンスターのお医者さまになりたいと考えているの」

「え? モンスターの? 動物のお医者さまじゃなくて?」

 アンは真剣な眼差しのマリヤを見る。


「アン、これもお母さまには内緒の話よ。動物のお医者さまにももちろんなりたいけど、モンスターは不思議が多い生き物なのよ。その研究をしながら、モンスターとお友達になりたいのよ。えへへ」

 はにかみながら笑う姉。それを見つめるアン。マリヤが、こんな風に自分の将来を語るのを聞いたのは始めてだった。

 だけど、二人だけの間だけの告白を聞いてアンは嬉しくなっていた。

 笑顔で、姉の手を優しく握る。



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