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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル06「盗賊の 鼻を明かして 宝取れ」
35/95

(酒場で乱闘)

 ――午後五時十二分。

 ミヨイ湖畔の街タミアラ、ロイドの店。


 今にも発火寸前の酒場。

 暴力の感情に支配されている、この場所。

 少しの理由で火が点けば、あっという間に炎は店全体に広がるのであった。

 客たちも、ヒリヒリと肌を刺すような空気を感じてか、手には酒瓶などを持って備えていた。

 でも、荒事を期待している客たちの、楽しそうな顔、顔、顔。

 喧嘩、乱闘、何でも上等な街の住人なのだ。単なる催し物の一つとしか感じてないのだった。


「あん? そのカードは何だぁ?」

 タミアラの街の顔役・太っちょのブッチが、大賢者のマリー・アレンを見る。彼女は、母親からもらった何でも買える打ち出の小槌の黒いカードを取り出して、皆に見せつけていた。

 ブッチは、カードとマリーの顔とを見比べている。カードには、教皇の紋章がホログラムで浮かび上がっていた。二匹のヘビが剣にまとわりついている。

 カードを持つ手が、緊張でプルプル震えるバニーガール姿のマリー。豊かな胸とお尻がフルフルと振動する。

 腰までの長い銀髪も一緒に揺れる。



「ええい! 控えあろう! この紋章が目に入らぬか! このお方を、どなたと心得る!」

 ドンとステージから降りて、マリーの前に立つのは大戦士のクロエ・マルゴーだった。

 大声で口上を述べる。

 クロエは赤いドレスの長いスカートをたくし上げて、太ももの位置で縛り付けている。そのため、意外な脚線美を披露していた。筋肉ムキムキでもないし、むだ毛もない。

 こちらの方も、色色と戦闘準備は万端だ。


「ハァアー?」

 ブッチは――何いってんだコイツとの顔をしていた。


「この乳牛さんはね、お爺ちゃんは教皇をやってるし、お母さんは宗教界のナンバー2のパトリシア・アレン枢機卿なのさ。さっき映像が出たでしょ。アンタたち、下級層の下っ端には初めて見る顔でしょうけどね。ちなみに、5000ゴールド札を持ってる奇特な人は、お札の肖像画と見比べてご覧なさい。アンタらは、将来の女王さまにケンカを売ってるのよ! 覚悟しときなさい!」

 大魔法使いのアンナ・ニコラは破れかぶれだった。マリーが自身の身分を、簡単に明かすとは思わなかったのだ。ここまで、アンポンタンとは知らなかった。世間ずれし過ぎにも程がある。


(こうなったら、教皇さまのご威光をかざすしかないからね)

 アンナも、権力に頼るのは最終手段だと感じていた。アンナ自身も、そういう権威主義を嫌っていた。それでも、教皇の孫のマリーを担ぎ上げるのは気が引けるが、仕方がないと割り切って考える。

 まあ軽い神輿なので――面倒くさくなったら――そのまま投げ捨てるつもりだ。

 近くのミヨイ湖に、神輿ごとドボンだ。



「そうかい。じゃあ、こちらのお嬢さんを人質にすれば、教皇庁からタンマリと身代金を頂けるというもんだな」

 デブのブッチはゲヘヘと下品な笑い顔で、マリーの全身を見る。

 小柄で細い青色人しか見たことのなかったブッチには、グラマラスな体躯のマリーが珍しいのだ。先の尖った耳が、アンバランスさに拍車を掛ける。


「…………それは」

 マリーには、こういった展開は計算外だったらしい。祖父の、教皇の名前を出せば、この場の全員が平伏すると思っていた。

 ハハー、ヘヘーと全員が揃って並び、土下座をする姿を思い浮かべていたのだ。完全に当てが外れる。

 マリーにとっては、打つべき次の一手を用意していなかったのが痛い。



「おお、このお札に乗ってる美人さんに――この娘っこは、そっくりダベ!」

 ブッチの手下のチビ男は、自分の懐の財布から、この国の最高高額紙幣の5000ゴールド札を取り出す。マリーとお札の顔とを見比べていた。


 ちなみに、ティマイオスの貨幣制度では、1ゴールド、5ゴールド、10ゴールド、50ゴールドは、硬貨として流通している。

 1ゴールド、5ゴールドは銅貨、10ゴールド、50ゴールドは銀貨である。表にはニコラエヴァ王家の紋章が刻印され、裏には額面の数字が彫られている。


 100ゴールド、500ゴールド、1000ゴールドは紙幣として市中に出回っている。5000ゴールド札は、最近になって発行された紙幣だが、まだまだ流通枚数は少ない。たまに見かけても、ニセ札である確率が高いので、敬遠されているのだ。庶民であるカイトなどは、全く見たことは無かった。

 だから、マリーの母親のパトリシア・アレン枢機卿の顔は、教皇庁で初めて見たのだった。


 1000ゴールド札には、前女王のアレクサンドラ・ニコラエヴァの肖像が描かれている。500ゴールド札には、アレクサンドラの母親、エカテリーナ女王の五十歳の肖像画だ。

 100ゴールド札には四千年前の伝説の女王、アナスタシアが描かれている。100歳のシワの多い老婆の姿だった。王家の遺跡にあった壁画を元にしているので、いささかデフォルメされた絵だ。

 パトリシアをニコラエヴァ王家よりも、更に上に置きたいと考える教皇のチャールズ十三世。そのために、5000ゴールド札を新規に発行したのだ。

 しかし、使い勝手の悪い紙幣だった。資産家や銀行家が使用するに留まっている。ブッチの手下が、それを持っているということを考えてみる。

 彼らの組織の正体とは――。


「オイ! オメエら! この娘さんを――教皇の孫を、ふん縛ったヤツは、金をせしめる権利を与えるぜ! でもな、くれぐれもエッチなバニーちゃんには傷一つ付けるなよ」

 ブッチは後ろを向き、酒場の客たちを煽っていた。彼はグヘヘと舌を出し、口の周りを舐め回していた。興奮し、唇が乾いてきたのだ。



「他の娘はどうする!」

 後ろからの声。

「好きにしていいさ、煮るなり焼くなりご自由に! 金髪と黒髪は、余所でも高く売れそうだ! 赤いのは……まあ、趣味は人それぞれだ」

 ブッチは下品な笑いを顔に貼り付かせる。

「俺が、金髪ねーちゃんを貰う!」

「黒髪のカワイコちゃんは、じっくりと楽しませて貰うぜ!」

「金髪は、闇の奴隷市場では高値が付くぞ!」


 皆が、手前勝手に叫ぶ。


(ヤバイよ姉ちゃん)

 カイトはアンナに向いて、助けてくれ――と目線を送る。彼には本格的に貞操の危機が迫っていた。いやいや、マリーを始めとするパーティー全員のピンチだ。

 本来ならば、仲間の危機を救うのが勇者の努めなのだが、ポンコツ勇者のカイトには何も手出しが出来ないのであった。

 しかしアンナは他人事であるかのように、ニヤニヤと笑っていた。カイトは不思議に思う。



「オレのご指名は無しか……」

 クロエがトボトボと歩き出し、黒バンダナを頭に巻いたブッチの手下の小男へと近づいた。


「俺は、こんな筋肉ねーちゃんを抱く趣味はないぜ!」

 ワハハと後ろを向いて笑い出す。酒場の皆も、同様に笑う。


「ガチャン! パリン!」

 激しい音がした。

 ゴフ――と、一声を発した後に、チビ男が吹き飛んでいた。クロエの正拳突きで、さっきまでチビ男自身が座っていたテーブル席に、ぶち当たったのだ。

 酒瓶やグラスが落ちて割れ、激しい音がしていた。


 その前には、腰を深く落としたクロエの姿がある。

「フ……。軽い軽い、剣さえ必要としないな」

 自分の右拳を確認するクロエ。学園の授業で習った武術の技が役に立った。



「ああ! オメー、よくもやりやがったなぁー。こうなりゃあーステイタスカード、起動!」

 ブッチはノロノロと言って、自分のカードを取り出す。

「おい、オマエ、聞いて驚けぇ! 俺は戦士のレベル26だ。おまえらみたいなひよっ子とは、格が違うんだよ、格が! そんじゃ、『ベアー・アックス』装備!」

 ブッチが左手でカードを自分の顔の前にかざして叫ぶと、彼の右手に片刃の大きな斧が現れた。


「この斧は、どう猛なクマさえも一撃で仕留める業物わざものだぞ。悪いな、赤毛の姉ちゃんよ。オレら黒頭巾団は、逆らうヤツには容赦しねえんだ」

 言ったブッチは、重そうな斧を軽々と振り回していた。ヒュンヒュン、ブンブンと風を切る音が聞こえてくる。

 そして、軽く前後左右にステップを踏む。体型には似合わないほど軽快に動いていた。



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