(そして、冒険へ)
――午後二時四十分。
王立学園女子寮、三○七号室。
四人が集合したのは、アンナの部屋だった。
「これから、教皇庁のアレン宮殿のわたくしの部屋へと転移するのですね」
「まあね、アタシの他に四人までが同時転移が可能だわ。転移するメンバーが行った事のある場所を明確にイメージできれば、その場所に瞬間的に移動できるの」
アンナはそう言った。制服の背中には、学園指定の黄土色のナップサックを背負っている。他の仲間も同様だった。
アンナの成長。
十年前は、他に一人しか同時転移が出来なかった。今はその人数も増えた。
あの時、もう三人救えたのならダレを選ぶのだろうか――アンナは二度と戻らない過去に囚われていた。
眠れない夜に考えてしまう、永遠に答えの出せない問題。
「クロエさん、不安ですか?」
四人は内側を向いて、手を握り合って輪になっている。カイトの左手を握るクロエの右手が小刻みに震えていたのだった。
カイトは大戦士の顔を見て、優しく聞いていた。
「ああ、武者震いだ心配するな。移動魔法は長距離も含めて何度も体験したが、転移魔法は初めてでな。本当に大丈夫なのか? 本当に体に悪影響は出ないのか? 転移した先に物があったり、人がいたりしたら、同化してしまうと聞いたが」
「何、怖がっているんじゃない! 大丈夫よ。転移中に事前に転移先を透視して、微妙にコントロールをしているし、安全な場所を選んでるし。多分……」
「多分、今、多分とおっしゃいましたね、アンナさん!」
マリーも怒り出す。
ま、大賢者の彼女も――不安ちゃ不安なのだ。
「多少、酔うくらいかな。馬車に長時間乗ったときの感覚。それが、一気に襲ってくるのよ。ま、いいジャン! 早くしないと時間だけが過ぎていくよん! ま、初めての時は天井の染みでも数えていればいいよ。直ぐに終わるからさ。」
明るく喋るアンナ。カイトの時も、同様のことを喋っていた。
(何か、変に明るいな)
カイトは、アンナの妙に高いテンションに気が付く。
四人は頭上を見上げる。マリーとクロエには見慣れた、寮部屋の照明魔法を練り込んだ壁紙が貼られている白い味気ない天井。
「で、では皆さん、行きますよ。覚悟はよろしいですか? きょ、教皇庁、アレン宮殿のわたくしの部屋へと、てて、転移!」
マリーが辿々しく言い、瞬時、四人は姿を消した。
やっと冒険へと旅立ちます。
次回からは
レベル05「グダグダの 諸国漫遊 珍道中」
を、お送りします。




