表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル04「狙うのは 女戦士の 爆乳だ!」
27/95

(学園長からの課題)

   ◆◇◆


 ――午後二時十分。

 王立学園中央校舎一階、学園長室。


「わたしたちを、お呼び出しの理由は何でしょうか?」

 出頭した生徒の代表として、マリー・アレンが切り出す。マリーは緊張をしていた。不正に荷担していることを指摘されると思ったからだ。

 目線の先は中空を彷徨い、珍しく冷や汗を流すマリー。

 学園長を前にして、隠し事は無理だった。生徒会長のマリーも、学園長に色々と弱みを握られている。

 その内容は――後ほど、語ることにしよう。



 さて、学園長室に呼ばれた四人のメンバー。学園長の机の前に、向かって右からマリー、カイト、アンナ、クロエと並んでいる。


「いやね。剣術大会の優勝者特典があったでしょ。それを伝えにね」

(ホッ……)

 学園長の言葉を聞き、大きな胸をなで下ろすマリーだった。祖父や母の耳に入ったら、強烈なお仕置きが待っている。


「そうですか? でも、どうしてこのメンバーなのですか?」

 今度は、アンナが一歩前に出て学園長を睨みつけて聞く。


「アンナ君は毎度毎度、僕には手厳しいね。でも、優勝者がカイト君でもクロエ君でも、選抜されるメンバーに、違いはないかな――と思ってね」

 この部屋の学園長は、いつもの黒マントを羽織った姿だ。


(胡散臭い眼鏡だ)

 カイトは思う。もっと知的に見える眼鏡もあるし、美形の顔が台無しだと感じていた。

 まるで、人相を隠すための変装道具だ――カイトは考える。


「カイト君は、僕に意見がありそうだけど」

 ニヤリと笑って、勇者を見上げる学園長。組んだ手の上に、アゴを乗せる。

 手指に指輪をしていた。男性には珍しく、金・銀・宝石が煌めいている。

「いいいいいえ、とんでもないです。それよりも、ボクたちは何をすれば良いんですか? 魔王退治?」

 顔の前で両手を振りながら、学園長の言葉を否定するカイト。直接話したのは始めてで、超・慌てる。


「プッ!」

 横でアンナが吹き出していた。

「魔王なんて、居るわけが無いじゃない!」

「え? 居ないの?」

「世の中の悪い出来事は、全て魔王の仕業なのかい?」

「そんなことないけど……」

「郵便ポストが赤いのも、みんな魔王のせいなのかい?」

「そんなはずが、無いじゃない!」

 アンナとカイトの掛け合い漫才。弟が姉に突っ込む。


「アンナさん! カイト君は純真にそう思ってますの。わたくしの信じる宗教でも、悪魔や魔王の存在は否定されています。でも、観念としての『魔』の存在は否定しません。先進文明を築いて一万と二千年。そこから、現在までの間に魔法科学の発達で、数々の不幸な問題を解決していきました。先人から伝わる英知によって、伝染病や天変地異、そして戦争までも克服しましたが、人智を超える出来事が存在するのも、また確かです。世界の不幸の原因に超人的な存在をイメージするのは、決して恥ずかしい事ではありません。カイト君、自信を持って下さいね」

 マリーは隣を向いて、カイトを慰める。優しく両手を取る。


「まあ、モンスターなんてヤツが現実に存在するからな。今は、多くが駆逐されたが、それでも純然として居やがって、人間を襲ったり、モンスター同士で争ったりする」

 制服姿のクロエは胸の前で腕を組み、ウンウンとうなずきながら語っていた。

 大昔、大陸を我が物顔で荒らし回ったモンスターは、過去の英雄たちの活躍で、多くが退治された。残るのは人の少ない、山脈の頂上や、大海の底に潜んでいるだけだ。


「じゃあ、モンスター退治ですか?」

「うん、カイト君。結果的にはそうなるかも知れないけどね。ま、僕の依頼内容は、伝説の防具を探してきて欲しいという事。ニコラエヴァ王家に由緒代々伝わる防具『エメレオン』をね」

 学園長は、アンナに向けてニヤニヤと笑いながら語る。

 当のアンナはプイと横を向く。


「伝説の防具『エメレオン』ですか? 十年前に、アレクサンドラ女王陛下が使用されて、王都の危機を救った防具ですよね。でも、女王陛下が亡くなられて、所在が分からなくなったと聞きます。わたくしの父や母が防具の捜索隊を出しましたが、『エメレオン』はいまだ所在不明です」

 マリーは右手を小さく挙げ、遠慮がちに発言する。


「アレクサンドラ陛下が亡くなられた直後に、長女のオリガ王女殿下が『エメレオン』を使用した形跡があるのです。けれど、その後に散逸してしまった。オリガ殿下も亡くなって、しまったからね」

「散逸ですか? バラバラになって、大陸中に散らばったとでも?」

 アンナが口を挟む。真剣な表情になっていた。

 カイトはそんな姉の顔に見惚れていた。


「国宝級の重要な品は、魔法で追尾できるのですよ。それを調べると、あの朝に王家の人々に何が起こったのかが、良く分かってくる」

 表情を変えず淡々と喋る学園長。


 アンナは睨む、学園長は王宮壊滅の真実を知る数少ない人物だ。

 アンナはあの事件を、王家の直系一族に対する暗殺事件だと考えている。

 アンナは成長後、事件の詳細を調べまくった。アンドレと手分けして、大陸中の文献を集め回った。

 あの時点では、王宮どころか王都全部が壊滅しても不思議ではなかった。魔獣『黒龍』の使う都市破壊兵器。海洋都市『エナリオス』を一晩で滅ぼした壮絶な威力。

 しかし、破壊は王宮のみだった。

 王都の破壊を女王アレクサンドラが、防具『エメレオン』で防いだと、後世の皆は解釈している。

 真実は未だに、闇の中にある。

 その謎の解明も、アンナの盛大なる目的の一つだった。



「じゃあ、その伝説の防具『何とか……メロン』の在処が分かるんですね」

「『エメレオン』!」

 カイトの間違いを、アンナが毅然とした口調で修正する。カイトはビクリとする。この部屋に入ってから姉の様子がおかしいからだ。いつもの、おちゃらけた部分が、成りを潜めている。


「そう、散逸したと言ったけど、その防具は一定期間が経過すると、自動的に集合するんですよ。えっと、その場所とは――」

 学園長は面倒くさそうに椅子から立ち上がり、部屋の壁に掲げてある大陸ティマイオスの大地図の前に立つ。

「――ココですね」

 ひし形の大陸図の右下を指差した。学園長は、男性では珍しく指には全て指輪をはめていた。種類や大きさも様々な10個の指輪だった。


「この場所は……」

 大陸南東部の黄色人の国だが、カイトとアンナの住むガリラヤ村とは、山脈を隔てた遠く離れた場所だった。

 ミヨイ湖の畔の街『タミアラ』だった。大きな湖には、山脈から伸びた大きな河の水が流れ込んでいる。


「そこは、四千年前からのニコラエヴァ王家の墓があった場所。墓守はかもりの街『タミアラ』へ、レッツ・ゴーですよ。そこで『エロメロン』を見つけて下さい」

「『エメレオン』です!」

 アンナの大きな声が、狭い室内で響く。学園長の言い間違いを指摘する。眉間に皺を寄せて、怒りの表情だった。


「何でニコラエヴァ王家の墓が、ボクらの国にあるんですか?」

 カイトは率直な疑問をぶつける。

「四千年前、白色人の国は大陸の全土をほぼ手中に収めていたんだよ。その時の伝説の女王さまの名前が、『アナスタシア』だね。他の民族は大陸の端に追いやられていた。ま、ニコラエヴァ王家は、大陸全土でやりたい放題さ」

 地図の前の学園長は、バン――と大陸中央部を叩いて示す。ずっと、アンナの方を向いたままだった。


「じゃあ、ワタシたちは『エッチな防具』を探し出せばいいんですね。そうしたら、どんな特典があるのですか?」

 アンナが噛みつく。


「王家の墓には、防具を守護するモンスターがいるらしいし、宝物を狙った盗賊たちも跋扈ばっこしている。激しい戦闘が予想されます。そこに、可愛い生徒たちを晒すのは心苦しいが、君らはクリアしてくれるでしょ。期待してますよ。今回の校外特別実習で、レベルも大きく10ポイントは伸長できそうだ。あ、そうそう、期限は月曜日の朝、学園の授業開始の始業ベルが鳴るまでの時間ね。一秒でも遅れたら、遅刻として成績表に付けますよ」


「な! 昨年の剣術大会の優勝者は、五日間の実習期間が与えられました!」

 クロエが叫ぶ。そうなのだった、昨年の校外特別実習の経験者だから良く知っている。

「ええ、前後の土日を含めて、計九日間の優雅な旅行でしたね。それじゃ、つまんないでしょ。君たちは恐らくは、大陸最強のパーティーだ。今が土曜日の夕方だから、実質的に動けるのは、明日の日曜日一日しかない。大陸最強の大魔法使いのレベル99を擁しているんだからさ、簡単な話だ」

 学園長の眼鏡がキラリと光り、目の奧は皆には見えなかった。

 きっとアンナの顔を見ている――アンナ以外の皆は思う。


「レベル99! もしかして、アンナさんがですか?」

 驚いた表情のマリーは、カイトの肩越しにアンナを見る。

「仲間に隠していても、意味が無いでしょ。ステイタスカードの改竄は重罪だが、この度は見逃しますよ、ええ、見せてあげなさいアンナ君」

「わ、分かりました。ステイタスカード、起動!」

 学園長が言い終わらないうちに、アンナは自分のカードを取り出した。


「現状レベル、表示項目変更!」

 仲間の三人にカードを見せる。青く50と表示された現状レベルの項目が明滅し、数字が次々と変わっていく。そして、

「99! ですわ」

 のぞいていたマリーが言う。99の文字は赤くなって表示される。


「どうですか、アンナ・ニコラ君は、大陸最強の大魔法使い『レベル99』なのです。君の転移魔法を使えば『タミアラ』の街へも、瞬時に移動できる。だから、期限を設けたのですよ。そうでなきゃ、物見遊山の観光旅行になってしまう」

「観光……ですか?」

 マリーが聞く。前回の校外実習授業を全否定された思いだった。バラバラの四人を纏めるだけで苦労した。それでもレベルアップしたのは3ポイントだけだった。



「ええ、あ、そうだった!」

 パンと手を叩く学園長。皆の目線が彼に集中する。

「みなさんが実習に出かける前に、是非とも教皇庁のパトリシア殿下にお目に掛かって下さいな。僕からも殿下に事情は説明しましたから、今から直で向かって下さい」

「母にですか?」

「ええ。今すぐ出発しないと間に合いませんよ。着替えとか、身の回りの品とか、必要な物を取り急いでまとめないとね。さあさあ、ホラホラ」

 カイト以外を、部屋の外に追い出す学園長。アンナ、マリー、クロエの三人は、寮の自分たちの部屋へと、それぞれが走って向かった。


「あ……」

 アンナたちの背中を見送って、カイトは取り残されていた。

「勇者カイト君。君には期待しているよ、是非とも楽しませてくれないかな」

 背後から聞こえる学園長の声。

「え? ボクに期待ですか? それに、楽しませる?」

 振り返ると、学園長がカイトの両肩に手を乗せてきた。


「それに、君はくれぐれもアンナ君から目を離さない事だ」

 学園長は、カイトの耳に優しくささやく。耳に息が掛かり、カイトは身をよじっていた。

「姉ちゃんから?」

「そうだよ。彼女は大陸最強の大魔法使いだ。最強であるからこそ、一番危険なんだ。短気で堪え性がないのは、弟の君が良く知っているだろう。そして、人一倍無茶をする。彼女を守れるのは君だけだ。それに、好きなんだろ、アンナ君の事を。姉――と、してではなく、一人の女性として……」

「…………」

 カイトは絶句する。隠していた本心をズバリ言い当てられていた。

 アンナ本人には、決して知られてはいけない感情。

 子供の時、始めて合ったその日から――好きになった。


「ハハハ、ま、行きたまえ」

 少年勇者の背中を、ポンと叩いて送り出す学園長だった。



   ◆◇◆


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ