(激闘の結果)
「キャーア!!」
絹を裂くような、女性の悲鳴。意外と可愛らしい声だった。
その声の正体とは?
「ククク、クロエさん!?」
審判員のマリーが叫び、女戦士を指差した。先ほどまで、ずっとカイトを目で追っていたので気が付かなかったのだ。
その声で、この場所に居た全員が、試合場中央に立つクロエを見つめる。
銀色に光る鎧が、装着前の各部品の状態でグラウンドの上に散らばっていた。
そして、クロエの格好。体操服とブルマと、そして下着の上下が各部位に分解されて宙を舞っていた。
(スッポンポンじゃん!)
目撃した皆は思う。
大きな胸を右手で隠し、左手で下半身を覆う。しかし、視線を感じてか、しゃがみ込んでいた。
腰に差していた剣も、地面に転がっている。
「し、試合終了! クロエ・ブルゴーは試合続行不可とみなします。よって、カイト・アーベルを、今回の剣術大会の優勝者とします!」
審判長のマリー・アレンが右手を挙げて、勝者を発表した。
「おおー」
会場全体からどよめきが起こる。
ひん曲がった剣ではあるが、カイトはそれを持ち両足でしっかりと立っていた。少年の目は、全裸のクロエに釘付けだ。
「クロエさまー!」
彼女の親衛隊員が大勢寄ってきて、自分たちの着る制服のブレザーを、大柄な少女の背中に掛けてやる。
クロエ本人は気が付いていないが、彼女のファンもアンナに劣らずに一杯いる。アンナと違うところは男子が一人も居ない。クロエは、彼女たちの白馬の王子様なのだ。
その王子さまが辱めを受け、一同はいきり立っている。
クロエ親衛隊は、学園の正式なクラブ。部員たちはカイトを見る。
何とも悪い空気だった。
「キッ!」
その中の一人に睨まれて、カイトは体を引いた。
「勇者さまのクセに、相手をそこまで辱めるんですか!」
クロエの背中に優しく手を乗せるのは、ファンクラブの部長だった。二年生の女子生徒は一緒に試合場から退場する。
「カイト君、おめでとう! 凄い凄い! あの大戦士クロエ・ブルゴーさまに勝つなんて!」
マーガレット・ミッチャーが駆け寄って、彼に飛びつき抱きしめる。
(こ、こんのー、泥棒猫!)
真っ先に抱きしめたいマリーであったが、審判の立場上、自重する。ギギギと歯ぎしりをしていた。
「では、これにて大会の終了宣言を……」
気を取り直したマリーが、締めの挨拶を語り始めた時だった。
「異議あり!」
観客席から聞こえる男の声。
「学園長!?」
マリーは声の方を見て驚く。
手を挙げて立ち上がっていたのは、ティマイオス王立学園の学園長ブルカ・マルカであった。
今日は白いマントを羽織っている。屋外ではこの姿なのだ。
「この剣術大会で不正が行われました。そのことは、そこに立つ勇者君が一番良く知っています。そうですよね? カイト・アーベル君」
「は、はい……」
顔をうつむけるカイトは、頭から大量に汗を流す。ポタポタと落ちて地面を濡らす。
(たたた、退学だ)
学園内で不正行為を行った者は、即刻退学だ。学業でもカンニングを行えば退学だし、許可されない魔法や特殊能力を授業で使えば同様だ。
「ワタシの……いや、オレの負けです、学園長」
がっくりと肩を落としたクロエ・ブルゴーは、観客席前にペタンと地面に座ったまま、弱く言った。
「どうしてですか? 理由を聞かせて欲しい」
クロエの斜め後ろに立つ学園長は、優しく問う。
「『炎の鎧』には、魔法を打ち消す効果があります。特殊なアイテムに対しても対抗するシステムがあります。だが、その効果を乗り越えて鎧をバラバラにされました。オレ……ワタシの完敗だ」
地面を右手で殴る。
下級生が着ていたパツンパツンの制服から、のぞく胸の谷間がプルンプルンと揺れていた。留めるボタンが千切れそうだった。
(これこそが、おっぱい山脈だ!)
カイトは、場違いにもそんな印象を持つ。糾弾されている当事者側なのだが、不謹慎な自分の事には気が付いていない。
「彼は、彼らは、一回戦から不正を行ってますよ」
学園長は、カイトとアンナの姉弟を見ながら指摘をする。
「いいえ、負けは負けです。不正の申告は、対戦相手からしか出来ません。たとえ、審判が把握していても、被害者側の申し出がなければ、勝敗は動かない。それに、申告が出来るのは試合会場内に留まっている間だけだ。確か、そんなルールですよね」
クロエはマリーに向いて、厳密なルールの適用をお願いした。
「ええ、知っていましたが、巧妙すぎて証拠が押さえられていないのです。ですから、審判の権限ではどうにもなりませんでした。試合も止められないのです」
マリーも少し後ろめたくなっていた。全試合が、完全にカイト贔屓の判定なのだから。
「ま、いいでしょう。本人たちが、それで不満が無ければね。では、大会の終了宣言をお願いしますよ、生徒会長のマリー君」
「分かりました。では、これにて大会の終了を宣言します! 大会に参加した皆様の健闘を称えます! では、解散!」
「おおー!!」
会場全体からのどよめく声。
本年度の剣術大会は、魔法Aクラスの一年生、勇者カイト・アーベルの優勝で終了した。




