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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル04「狙うのは 女戦士の 爆乳だ!」
21/95

(カイトの晩餐)

   ◆◇◆


 ――午後七時五分。

 ガリラヤ村、カイトの自宅。


「どうでしたかな、お二人とも。今日は、カイト君の入学祝いに、にわとりの丸焼きなんぞ作ってみました。自慢の腕を奮った自信作ですぞ。窯から出しては、ハチミツと鶏の脂を塗って何度も焼きました。そのお陰で、皮がパリパリですぞ。たっぷりと堪能して下され!」

 カイトの父親が手作りした、木製のテーブル。そのためか、微妙に水平が怪しい。その中央に、今日のメイン料理の載った大皿を置くアンドレ。

 自家製石窯で焼いたローストチキンが、ランプの光でオレンジ色にテカテカヌラヌラと光る。

 香ばしく焼かれた肉の匂いが漂い、カイトは改めて空腹を覚える。


「このトリは、今朝まで卵を産んでいた――鶏ですよね」

 カイトは、家の敷地の外れにある鶏小屋を思い出す。隣には牛小屋や豚小屋もあり、三人の重要なタンパク源になっている。

 家畜たちのエサやりの役割はカイトだったから、丸焼けにされた鶏もよく懐いていた。

 他にも馬小屋もあり、飼い葉をやり馬を世話するのはアンドレの役目であった。



「そうよ、この子は『ササミ』かな。人は、他の生き物の命を奪って、自分たちの命を長らえている。だから、しっかり食べて、彼女らの分も生きてあげる。どこかの誰かさんのように菜食主義だなんて、偽善で欺瞞で自己満足なのよ」

 アンナはそう言って、テーブル上の大ぶりなナイフを使い、脚の部分を取り分ける。一つをカイトの皿、もう一つを自分の皿に載せる。


 会話の中の誰かさんとは、生徒会長のマリーを指しているとカイトは理解する。

 彼女のように宗教一家の家庭でも、戒律を守り規則正しい生活をしているのは少ない。

 真面目なマリーの顔と、大きな胸を思い浮かべるカイトだった。


「『ササミ』は最近は卵を産まなくなりましたからな。『かしわ』や『もつ』も老いてきましたので、今度はフライドチキンにでもしましょう。でも『手羽』や『きんかん』と『ぼんじり』は、毎朝たくさん卵を産みますので、しばらくはそのままです。残酷かもしれませんが、これが現実なのです」

 アンドレはそう言って、脂のしたたる胸の部分をナイフで切り分け始める。慣れた手付きであった。動物の解体に長けている。

 ちなみに、登場した部位名は全て鶏の名前なのだ。

 一風変わった名前の命名者は、全てアンナだった。アンナには名前を付けるセンスが無い。

 二頭いる牛は、『牛乳』と『ステーキ』と命名した。六匹の豚は『トンカツ』、『しょうが焼き』、『角煮』、『カツ丼』、『豚足』、『ミミガー』と、アンナがそれぞれの名付け親だ。


「『ササミ』もヒヨコの頃から知っているから、大事に食べてあげるよ」

 カイトは食卓で手を合わせ、命の恵みに感謝する。

 『ササミ』の骨は集めて、庭の隅に埋めてあげようと、カイトは思っていた。

 お墓を作って供養するのだ。


「カイト君、入学式はどうでしたか? 学校の方は慣れそうですかな?」

 アンドレは、焼いたパンに胸肉とキュウリのスライスを挟み、自家製のマヨネーズと、これまた自家製のケチャップを混ぜたオーロラソースを掛けて食べる。

 大変に美味しそうに見えたので、カイトは今度、真似してみようと思った。


「ウン……」

 カイトの脚をテーブルの下で蹴るアンナ。寮で出会った、アンドレの娘のクロエの事は喋るなとの合図だ。

「あ、そうそう。カイトったらね、早速、可愛らしい女の子と仲良くなってるのよ。それに、生徒会長のマリーもカイトにご執心みたい。こんな、蚊も殺せないような弱っちい外見のカイトのクセに、女の子を落とすのは早いのよ!」

 アンナは愉快な出来事であるかのように話す。

「ワッハッハ! そうですか! そりゃあイイ! カイト君の父さんのジョーも、女の子にはモテモテでしたからな、ワハハ!」

 豪快に笑い、アンドレは白い陶器製のジョッキに入った自家製ビールを半分ほど飲み干す。

 ガリラヤの他の村人から、様々な料理や調味料に酒の作り方を習っていた。アンドレは学習能力が高く、独自のアレンジを加えていた。

 カイトは、アンドレが作る味噌や醤油で料理の味の深みを覚えた。

 甘酒を振る舞われて、こんなに美味しい飲み物があるとは知らなかった。



「父さんが、モテモテ?」

「プハァー、そうですな。冒険の旅では、泊まった街の踊り子に惚れられたり、小さな村の有力者が自分の娘を嫁にと薦めて来たり。そんな話には事欠かない男でしたが、当時――同じパーティーにいた、大賢者のパトリシアさまが睨みを利かせていましたな」

「え? 会長さんのお母さんと、仲間だったの?」

 カイトが話に食らい付いていた。


「まあ、パトリシアさまは勝手に惚れて押しかけ女房気取りでしたが、ヤツには別に、心に決めた女性がいたようでした」

「それって、母さんの事?」

 カイトが幼少時に死去した母親のことだ。だが、記憶には無い。


「そうです。ワタシも一度しかお会いしたことしかなかったが、極めて普通の娘でしたな。例えると、道ばたに咲くタンポポの花のような」

「へー。父さんと母さんはどこで知り合ったんだろ……」

 カイトは、顔も知らない母親の姿を想像してみる。


(タンポポみたいな、お母さん)

 イメージは湧かない。かわりに、九年前に生き別れになった双子の妹のアイの顔が浮かんだ。アンドレの話だと、カイトは父に似てないと言うから、きっとアイのヤツを大人に成長させた顔なんだろう――と思った。


「じゃあ、じゃあ、アンドレはどうだったのよ? よく見りゃハンサムだし、色色と悪さもしたんでしょ! ねぇ、ねぇ」

 アンドレの左隣の席に座るアンナは、右肘で血の繋がらない父親の脇腹を小突く。

 よく見りゃ――とは、失礼な言い草だった。


「ワタシには、幼なじみの許嫁いいなづけがおりましてな。ワタシ以上に強いおなごでして、他の娘になびくようならば半殺しにされました。今は、どうしておりますことやら……」


(アレ……? アンドレおじさんは、結婚していたんだよね。そういえば、クロエさんが娘さんだった)


 カイトは思う。アンドレは行き掛かり上、アンナと行動を共にする事になった。

 その理由を聞いても、曖昧な答えばかりで、はぐらかされ続けていた。

 やっぱり、二人は何かを隠している。そう感じていた。



 ――午後七時四十八分。


 カイトの家の台所で洗い物をする音。

 食事が終わって、全ての後片付けはアンドレの担当だった。

 エプロン姿の大男が身をかがめ、小さな食器を洗う。



「アンナ姉ちゃん、明日は学校どうするの? 新入生は、授業がないから休みだと聞いたよ」

「ああ、それね。明日は二年・三年で、剣術と格闘術の武闘大会があるのよ。剣術の会場はグラウンド、格闘術の会場は体育館でそれぞれやるの。その間に、教職員が新入生に合わせた教科のプログラムを組むのよね」

 アンドレの入れておいたコーヒーを飲むアンナ。彼の手作りクッキーをポリポリと食べながら、食後のゆったりとした時間を過ごす。

 アンナは白いマグカップの縁を撫で、キューと音を鳴らす。

 クッキーはご丁寧にも、鳥の形をしていた。カイトは頭の方からかじる。鶏たちの卵をタップリ使ったクッキーだ。


「え? 剣術と格闘術の大会? 姉ちゃんは出るの?」

「どうしてアタシが出るの? 大魔法使いは、今日の授業での魔法演技の披露でお終い。あ、そうそう。カイトは剣術大会にエントリーしておいたからさ、心しといてね」

「え? 剣術大会? ボク一年生だよ。それに剣の腕前は、アンナ姉ちゃんにも勝てないほどだよ。良く知ってるでしょ」

 カイトはむくれた顔を向ける。クッキーを二三個、口に放り込む。

「勇者は、勇者であることが肝心なのよ。学園長も特例で出場を認めてくれた。ま、安心して、大船に乗ったつもりでいなさい。アタシがチョチョいと助けてあげるからさ」

 ニヒヒ、と悪い顔で笑うアンナ。自分の胸をポンと叩く。

「全く、他人事だと思ってさ!」

 カイトはプイと横を向く。クッキーを強くかみ砕く。

 チョチョい――なんてアンナは言っているが、悪い予感しかしない。

 決まって、酷い目に合わされていた。



「何を話しておいでですかな。お二人は、本当に仲がよろしくていらっしゃる」

 アンドレが洗い仕事を終えて、エプロンで手を拭きながら戻って来た。

「やっぱり、そう見える?」

 嬉しそうな仕草のアンナは、そう言ってから――。

「明日も、今日と同じ時間に学園に向かうからさ、早く寝ておくんだよ」

 コーヒーをすするカイトの肩を、ポンポンと優しく叩く。


 その後、アンナとアンドレの二人は、隣の家に戻っていく。

 振り返り手を振ってくる二人の背中を見送るカイト。


 カイトは、広い家に一人きりとなる。家の中を見渡した。三人で一緒に暮らすには不自由しない広さの家だ。二階には二部屋あり、カイトの今使っている部屋と、双子の妹のアイが使っていた部屋が、九年前の失踪時そのままに残されている。

「寂しいな……」

 カイトは、食卓に一人座りポツリと呟いた。



   ◆◇◆


10/23誤字を修正しました。

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