表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル03「学園の ヒロインさまは 大賢者!?」
15/95

(魔法授業・実習)

 ――午後一時五分。

 王立学園、総合第二グラウンド。



「では、マリー・アレン君。演技見本を披露して下さい」

「ハイ!」

 第二グラウンドの地面に直に体育座りをしていた生徒会長は、教師に呼ばれ手を挙げて立ち上がる。三年生の彼女の白い半袖体操服の袖には、一本線の緑色のラインが入っている。下は緑のブルマだ。

 真面目なマリーは、体操服の裾を全てブルマの中に突っ込んでいる。

 太陽光に弱い青白い皮膚のために、日焼け止めを塗っている。そのためか、陽光にテカテカと光っていた。


 午後からの五時限目は、二・三年の魔法クラスの合同授業。この時間は、高レベルにある者が、下級生や低レベル者の見本となるべく魔法演技を披露するのだ。


「では、これより高レベルの操作系魔法を披露します。立ち上がれ! 千本の矢!」

 右手をサッと挙げマリーが叫ぶと、グラウンドに置いてあった弓矢が空中に持ち上がる。

 百本ずつを束ねた十個の矢の束がほどけ、一本一本が等間隔に並んで空中に登る。

 授業で使うので、危険な矢尻は付いていない。模擬実戦用の赤色天然ゴムが先端に塗られている。


 横に40列、縦に25列の矢が、1メータル間隔で並ぶ。


「おおー」

 空を見上げる生徒たちの感嘆する声。生徒会長のマリーは、少しドヤ顔で号令を掛ける。興奮し、小さな鼻の穴が開いていた。

 挙げた手を左に少し倒す。


「左向け、左!」

 千本の矢は、一斉に左側へ90度方向を変える。

「正面! 右向け右!」

 90センチメータルの長さの矢は、マリーの号令通りに、揃った動きをする。

 頭の上で右手をクルクルと回し、動きを操る。


「へー、凄いジャン」

 二年生のグループの先頭に座るアンナ。空を見上げ、感心した声を出す。

 彼女は赤いラインの入った体操服で赤いブルマをはいている。

 少し着崩したラフなスタイル。長い体操服の裾をお腹の所で縛っていて、おへそがチラリとのぞいていた。サラサラの金髪も頭の天辺で縛って、広いおでこが露わになる。

 白い靴下に白い運動靴の長い脚。この場所にいる男子や女子の多くが、アンナに注目していた。

 口元をぬぐっている男子生徒もいる。アンナは、生徒全体の垂涎の的なのだ。


「集中!」

 マリーは、手を前方に倒す。

 第二グラウンドの、球技用の緑色フェンスに描かれた大きな赤い二重丸。

 円の直径は2メータルほどある。

 そこの中心点に、空中の千本の矢が集まる。先端が密集し、見事な半球状の立体図形を作る。


「以上が、演技見本です」

 マリーは、見学している生徒に向き直りペコリと頭を下げた。

 矢はゆっくりと降りていく。百本ずつに別れ、運動場の上に揃えて並べられる。

 几帳面なマリーの性格がうかがえる。


 ――パチパチパチ。


 皆からの賞賛の拍手。軽く右手を上げて、応えていたマリー。

 ゆっくりと歩いて、アンナの隣にお尻を降ろす。



「マリー君、ご苦労様でした。大変見事な演技でした。次は、アンナ・ニコラ君の演技見本です」

 教師の言葉。

「ハァーイ!」

 元気よくアンナが立ち上がり、隣のマリーを見下ろしてニヨニヨと薄気味悪い笑みを浮かべる。


(何かしら? 何か企んでる? 悪い予感しかしないわ)


 生徒たちの並ぶ列の先頭からグラウンドの端に向けて、ゆっくりと歩くアンナ。マリーは、黙ってその姿を見つめる。

 アンナの口元の緩みは収まっていない。こういうときには、マリーはいつもこっ酷い目に合わされて来た。周囲への警戒を怠らないマリーであった。



「では、千本の矢改め、千本桜!」

 アンナは右手を上げて、宣言をする。彼女は、勝手に演技名を変更していた。


「千本桜?」

 見つめる生徒たちは、アンナの言葉が何を意味するのか考える。


 桜とは、アンナの出身地方である黄色人の国で、自生している樹木の名前のことだ。

 春先に、ピンク色の小さくて可愛らしい花びらを付ける。

 花の咲く期間は短くて、人生の無情を感じさせる植物だ。


 アンナが育ったガリラヤ村の名物。

 村はずれの山の麓に、並んで立つ桜の木々。散りゆく花びらが、まるで吹雪のように激しいのだ。そばを流れる小川に花びらがつもり、ピンク色の美しい帯を作るという。

「一度、見せたいね」

 マリーは、アンナが語っていた姿を思い出す。ああ、行ってみたい――カイトの生まれ育った村。



「おお!」

 感嘆の声があがって、マリーは空に向けて顔を向ける。

「へぇー、こう来ましたかアンナさん」

 生徒会長は、感心した声を漏らしていた。


 千本の矢は、整列したまま天に向けて垂直に立つ。マリーが縦長の平面状に整列させたのに反し、横長に間延びしているが高さもある。アンナの空間認識能力の高さに、舌を巻くマリー。

 しかし、アンナ本人にとって今のところは、至ってまともな面の能力披露だった。


「アレ! 見て!」

 女子生徒の一人が天を指差す。


 マリーは、目が疲れたのかと思い、何度かパチパチと瞬きをする。

 白銀色の長い睫毛が、瞬く。

 上空では、千本の矢が一つの大集団となり、細かく左右に並行移動をしているのだ。


(ここから、どうやって皆を驚かせるのでしょうかね。アンナさん)

 マリーは思う。アンナは腰に手を当てて、いささか面倒くさそうにしていたからだ。



「舞え、千本桜!」

 キラリと千本の矢が太陽光線に光る。そうすると、一本一本の矢数が増す。見る見ると上空が矢で埋め尽くされる。


「な、何? 分身の術?」

 生徒の一人が呟いていたが、幻術魔法で幻影を見せているのではないと、マリーは分析する。

 何よりも、グラウンドの上を渡る風により、ゆらゆらと揺らめいているのだ。それが、桜の花びらの様にも思える。


「何かやらかしましたわね! アンナさん!」

 マリーはアンナを指差して声を張る。


「てへへ、生徒会長さまにはバレちゃったか」

 バツが悪そうに、舌を出すアンナ。

「一本の矢を、薄く切り刻んで百個の存在に変えましたね。千本×百枚……十万個の薄い物体が天空をうごめいています!」

 マリーが立ち上がり、実態を指摘する。


「そうよ、凄いでしょ」

 得意気なアンナの声。

「矢の直径は1センチメータル。それを100枚に切り刻んで、一枚の厚さは0・1ミリメータル。これが、どんな攻撃手段になるというのですか! それに、学校の備品を無残に切り刻みましたね。アンナさん、弁償必須ですわよ!」

「やべ……」

 舌を引っ込めて、真顔に戻る。


「火炎魔法による証拠隠滅も、認めませんよ。アナタは都合が悪くなると、全てを灰に変えようとします」

「チッ」

 やろうとしたことをマリーに先回りで止められて、舌打ちするアンナ。


「しゃーない。凍結魔法!」

「……って、アンナさん何をするんですか! 仕方ありません、防護結界最大!」

 大賢者のマリーは、物理結界を生徒たちの頭上に張る。防御魔法は賢者の駆使する特殊技能の一つだ。賢者は、冒険パーティーの守備のかなめなのだ。

 凍った十万本の氷の矢が、八十人ほどの生徒の体に降り注がれようとしている。


「大丈夫よ、こんぐらい! 千本桜、霧氷の舞!」

 アンナは落下する氷の矢を、物体移動魔法で持ちこたえる。そうして十万本の氷の矢を、粉々に粉砕する。


「綺麗……」

 アンナの信奉者である女生徒たちは、ウットリとした目で赤いブルマの教祖様を見る。

 実は人気者のアンナには、学園内でファンクラブが出来ている。事もあろうか正式な部活として認められているのだった。

 そんなことは、露知らずのアンナ。


 キラキラと光る、無数の微細な六角形の氷の結晶。

「空力魔法!」

 アンナの声で一陣の風が吹き、全ての霧氷は遠くの空に消え去った。


「凄い!」

 一人の生徒が叫び、歓声と共に盛大な拍手が起こる。


 無言のまま、アンナの元に歩いて行くマリー。

「凍らせて証拠隠滅ですか、アンナさん。どちらにせよ、弁償は弁償ですよ」

「いいジャン! みんな喜んでいるんだしぃ~」

「矢が一本10ゴールド。全部で1万ゴールドになりますが、一括払いでお願いしますね」

「そんなぁ~ウチは貧乏なのよ、そんなお金は無いわ。大飯食らいの父と弟が居るの、勘弁してぇ~」

 顔の前で手を合わし、懇願するアンナ。

「卒業時に清算ですね。今まで壊した、寮や学園の建物や備品と共に請求します」

 腕組みをして胸を抱えたマリーは、冷たく言い放った。

「出世払いで、どう?」

「学園卒業後に、まともな職業に就けたらばの話です」

「そんな、殺生なぁー」

 グラウンドに倒れ込んで、両手を突くアンナ。


 ――その時だった。


 ドーン!!


 音のした方向を向く、アンナとマリー。

 その二人の所属する魔法Aクラスの二・三年生の生徒たちがいるのは、王立学園第二グラウンド。

 小さな森を挟んだ先には、この場所よりも一回り大きい第一グラウンドがある。こちらで、王立学園の体育祭などが行われるのだ。

 その第一グラウンドで、大音響と共に炎が天空に向けて立ち上る。


 ドーン!! ドーン!!


 続いて、二本の火柱が立て続けに上がる。


「クロエさんですね。『炎の鎧』による火柱飽和攻撃ですわ」

「ああ、そうね。毎度の事だけど、スゴイやね」

 マリーの言葉に、地面で打ちひしがれていたアンナは同意する。

 第一グラウンドでは、格闘Aクラスの二・三年生の授業中だった。


 アンナは膝に付いた砂粒をはらい、ヤレヤレといった表情で立ち上がる。



   ◆◇◆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ