第34話 炊き出しのお手伝い。スラムの子供たちと、ダメな大人
「はい。並んで並んでー。順番乱すのはだめですよー。横入りした人は、一番後ろに回ってもらいますよー」
異世界の炊き出し。カオスすぎ。
行列を整然と守れる日本人が、世界から賞賛されるとかいう、「日本アゲアゲ話」を聞くことがあるけど。
あれ、95パーセントくらい虚構かと思っていたんだ。
でも日本だったらあり得ないほどのカオスっぷりに、僕は5%ぐらいは信じる気分になっていた。
いい大人が。ちっちゃな子供を押しのけて、突き飛ばし……。
あと並ぶこともサボって、子供がもらったきたお椀を奪い取ったり……。
する? 普通?
ちっちゃいっていうけど、本当に、ちっちゃいんだよ?
五歳くらいの女の子が、二歳か三歳くらいの子の手を引いて、健気におねえさんを頑張っていたりする。保護者ポジをしているんだよ? たった五歳の子が。
それを、蹴飛ばす?
……死ねば?
「あっ……、おーい! イチャモン! フトッチョ! タワマン! オターっ!」
遠くに見知った顔を見つけて、僕は手を振った。
名前を呼ぶと、四人組は嬉しそうな顔で、転がるように駆けてきた。
なんか。イッヌ。
すごく。イッヌ。
はてしなく。イッヌ。
「アニキ! 姐さん! 手伝えなくてすいません! 依頼が終わったんで来ました!」
「いいよいいよ。仕事優先しててよ。――それより頼みがあるんだけど」
「はい! なんでも! 喜んで!」
「こいつらをさ……」
僕は、子供たちを足蹴にしている大人たちを見た。
「殺しちゃって」
「へ?」
僕は言った。
列を守れない。子供から奪おうとしていた連中を、指さすことさえ嫌だったから、顎で示す。
「え? いや? いや? ……あの?」
「だいじょうぶだって。スラム街は治外法権だって聞いたから」
「そうっすけど。いやでも? えええええっ?」
「はやく。駆除して。この害虫ども」
アルカとエリスとアリスちゃんが、青い顔ですっ飛んでいって――。
四人組に、こしょこしょと説明する。
まあ事情を理解するまでは、待った。
彼らだって、理解すれば、僕と同じ考えに至るはず。
でも話を聞いたうえでも、彼らは――。
「ちょ――! ちょっと待ってもらっていいですか! 俺らできちんとヤキを入れておきますんで!」
「ええーっ……?」
なんでやねん?
「そ! それでもダメだったら――ってことで! い、いいっすよね! ね! ね! いよっ! アニキってなんたる大物! 太っ腹! カッコいー!」
「まあ……。甘すぎるけど。……とりあえず任せるよ」
「おい! てめえらこっち来やがれ! いいから来い! 死にてえのか!」
イチャモン君に連行されていった大人たちは、十数分ほどすると、戻ってきた。
列に並ぶ。
こんどはおとなしく並んでいて、子供から奪うようなこともない。顔がボコボコで形が変わっているけど。日本人のように整然と列の最後尾に並んでいる。
まったく……。
できるんだったら、はじめからやろうよ。
炊き出しの食事は、たくさんあって、ちゃんと全員に行き渡るんだし。
おかわりだって、二回、三回なら、目こぼししているし。
動けない友達がいるって聞けば、真偽は確かめずに、テイクアウトを沢山持たせてあげているし。
夕方まで手伝って、炊き出し初日は、つつがなく終了した。
「助かりましたわー」
「ち……、ちょっと怖かったわよ? ちょっとだけだからね!」
「いっぱい、よそって盛り付けるのー、楽しかったー! 食べ物あんなに! すごいすごい! 炊き出しすごい!」
大興奮のアルカとハイタッチを交わす。
アリスちゃんからは、なにかお礼を言われ、エリスちゃんからは苦情をもらった。
僕なにかしたっけ?
「いや。エリスに言われた通り、遊びみたいなものだから。今日だけだしね。このあとは、もう来ないと思って」
「初日だけでも助かりましたの! 仕切ってもらえて。ルールまで作ってもらえて」
アリスちゃんは、僕の手を握って感謝の顔。
女の子の手って、柔らかいなぁ。
あっはっは。好きになっちゃいそう。
「冒険者に依頼出して、警備してもらったほうがいいかな?」
「ではそれも経費に計上しておきますわね」
四人組が、受けてくれそう。
聞けば、あいつらも、スラム出身だったんだってー。
へー。知らなかった。
あの年代の出世頭っぽい。
スラムの外で暮らせるまでに出世した人間は、スラムを出れない人から見れば、いわばヒーローみたいなものらしく……。
ヤキ入れて更生させていたのも、顔なじみの大人だったのだとか。
うん。
話をして、理解して、行動を正せるのは、それは人間だからね。
害虫扱いして駆除しなくてよかったねー。
あと、ちっちゃい子の何人かが、「ねえねのおともだちですか?」って聞いてきたので、肉、多めに入れてあげた。
ねえね、って、たぶん、リタのことなんだろう。
リタも炊き出しを手伝いたがっていたけど、凄く来たがっていたけど……。ギルドの仕事は休日なしのブラック職場だから、来れなかった。
◇
今日は、炊き出し、がんばったー。
あーッ、偽善がッ、きんもちイイーッ!




