第十話 「そこじゃありません。頭の上です」
私がかいた漫画は元々孤独を減らすためだった。友達がいない私にとってあれは普通のノートに見えるけどいっぱいの夢が詰まった私だけの宝物だ。私にしかわからない。
私が漫画をかいてたときは中学生、くらい。「勉強しなさい!」てお母さんに言われても「私は転生するからそれについて勉強しなきゃいけないの!」とかよく言ってた。自分のことを愛してくれる、そんな婚約者を思い浮かべて頑張ってきた。何度も頭の中で『あっちで待ってる』『大丈夫だ、俺がついてるから』とか妄想してニヤニヤしてた。
だけど、実際は悪役令嬢だ。レッテルがもう貼られて決めつけられてる。私がかいたのが、いけなかっただけなのに。
「…さま……リさま……アリサ様…」
肩を揺さぶられ朦朧とする意識の中、目を開けるとスイの顔がうつる。その表情は私に向けるいつも通りの顔だ。私はズキズキ痛む頭をおさえつつ、体を起こす。
意識が飛んだと思ったが景色は全く同じで、変化は特にはない。ただ少し陽がかげっただけ。私はきょろきょろと周りを見渡し、1人いないことに気づく。
「ガイオネル様…は…?」
ドラグニールのだと教えてくれた張本人がいない。どうしてわかったのか聞きたかったんだけど…。
ここをつくったのは私だが、さすがに全ての知識は持ち合わせてない。そういうのは補わなきゃいけないと思いつつスイに目を向ける。
「ガイオネル様は私が寝室の方へお運びしました」
ここの主人でもある彼を床に寝かしつけるのはよくないと思ったらしい。
ただ、困ったな…。コレについて聞きたかったのにまだ目は覚ましてないなんて…。だが、私には優秀な執事がいるんだから、こういう時は聞こう。また睨まれそうなんだけどね……。
「ねえ、スイ。……コレってなんでガイオネル様はドラグニールのだってわかったのかな」
言い終えてすぐに反応のないスイを恐る恐る見上げるとザ・無の顔が。
これ、アレかな。『なんでそんなこともわからないんですか…』て呆れるパターンだ。それか教えられてたら怒られるパターンだ…。
「……アリサ様」
スイが私の名前を呼び思わず肩が跳ね上がる。ど、どっちだろ。できれば怒られませんように…!
ナムナムとちょっと違ったお祈りをしつつスイの次の言葉をこないで欲しいのか来て欲しいのかわからないままとにかく待つ。
「……耳が増えて…います」
「………へ?」
あまりにもの予想外に目を瞬く。私の執事も遂に壊れたのだろうか。
「す、スイ?大丈夫?耳は2個だよ」
「いえ、4個です」
「いやいや顔の横に耳があるでしょ」
「いえ、頭の上ですよ」
「ん、ん?私って人間だよね?」
「…常々悩むところですね」
結果からわかったこと。スイは壊れた。表情が無だからわかりにくいけど頭おかしくなってしまった。
「……アリサ様のお考えが今だけわかります」
どこかムッとしたようにほんの少しだけ口を尖らせる。私が何かいう前に立ち上がったかと思うと、奥にあるユリハの鏡を持ってくる。鏡といっても全身鏡のようなもので、周りの縁は他の家具と同じ。1番上と下に1個のピンクバラがついている。
音も立てず置き、自分を見てくださいかのようにトントン鏡を叩く。鏡は叩いていいのかと苦笑しつつ大人しく自分の姿を見る。ユリハとは違いどこまでも澄んでる黒髪。瞳も怖いくらい赤い。ただ前世よりも顔がすごく可愛い。自惚れかもしれないけど。
「そこじゃありません。頭の上です」
スイの声に反応し自分の頭を見ると三角のものが2個生えてる。黒髪と同じ色だけど髪とは違うもふもふ感でぴくぴく動く。こ、これっていわゆる…。
「ケモ、耳…」
あわわわっと歓喜に浸り手で実際に触ったがすごくもふもふしてる。尻尾は生えてないから耳だけだろう。スイが「けも…みみ…?」と意味深そうにしてるが今の私はめちゃ浮かれてる。ケモ耳かわいい〜!
「ねねね!この耳って犬かな?猫かな?狼かな?どれだと思う?」
「あ、アリサ…様」
グイグイ近づいて自分を殺す死神だということを忘れスイに聞く。スイはいきなり近づく私から距離をとり、コホンッと咳払いをつく。
「…ネコです、かね。気ままで自由であり、よくわからず。アリサ様はもうネコなんだと思いますよ」
猫なのは嬉しいけど私はもう猫っていうのはよくわからない。私って猫に転生したのだろうか。
「でもなんで急に耳生えたんだろ。そもそも生えること自体おかしいけど」
理由はなんとなくわかる。多分…、いや絶対このペンダントのせいだ。それ以外思いつかない。確かに昨日思い出した内容だとドラグニールはケモ耳状態になる。だけどコレに関係してただろうか。そもそもどう解決したんだっけ。
肝心なところだけ覚えてない。これじゃあどう助けにいったら…。
「あっれ〜同志まだいんじゃ〜ん」
ばぁ!というように鏡にうつってる私の後ろにひょっこり顔を覗かせケラケラ笑ってる少年が。私は慌てて離れる。少年は黒に近い紫の髪で、長いのか縛ってある。目は閉じてるふうに見える。背も150cm以内くらいだ。ただ一緒なのが耳が生えてる、こと。
少年はまた楽しそうに笑いながら「ど〜ったの」と言う。
「ボクたちお仲間じゃ〜ん。帰り方わかんなくなっちゃうやつ多いんだよね〜。キミたちもそ〜でしょ」
くるくる指を回しながら首を傾げる。何言ってるのかよくわからないけど、ケモ耳が同じく生えてるのは無関係とは言いずらい。
ユリハにも、もしかしたら繋がり、あるかも。
「そ、そうなんです。帰り方わかんなくて…」
「やっぱり〜!ここに来るまで他もそうだったからさ〜。じゃあ帰ろっか〜。ボクの手握ってね〜」
と手を差し出され握る。手は思ったより小さくなく、ただ成人男性よりも小さい。そしてすごく冷たい。
少年は前を向いて何か作業をしてたかと思って急に後ろを振り返り、私とパチリと目があう。ただ、そう思ったのは気のせいで…。
「後ろのキミも帰るんでしょ〜?手、繋がないと〜」
少年の声に後ろ…?と振り向く。同じ部屋なのにスイの声がさっきから聞こえないのはおかしいことに気づくべきだった。スイは自分の手を頭に被せ、わかりやすくて震えてる。隠れていないところからケモ耳が覗く。
す、スイも私と同じようになってる…。




