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気になる蘭子は止まらない  作者: きら
野球って何だ?

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58/71

遅れてきたヨッパライ

――3回表。


ヒロシの打席から始まった野球部の攻撃は、ノリに乗ってきたヒロシが左中間を割るツーベースヒットを打ったことがきっかけとなり、ウインドーズ9が2点を失う展開になった。

神原部長の技ありヒットで、なおもワンナウト二塁。

ピンチは続いている。


(くっ……、黙らせるつもりだったのにやられてしまった)

さすが強豪野球部だ。

二巡目からしっかりコンタクトしてきたぞ。

一打席目の反省を活かして、すぐに修正してくる技術には脱帽しざるを得ない。

葵は一旦間をとるべく、蘭子の立つマウンドへと向かった。


「すまん蘭子。もう少し慎重にいくべきだった」

決して蘭子は失投などしてはいない。

葵は、『これは野球部の修正能力を甘く見ていた自分のリードミス』だと思っていた。

さすがの蘭子も、ぷくーっとほっぺを膨らませている。

きっと、連打されたのが面白くなかったのだろう。


「あおい。お腹空いた」


違うのかよ。


「お前……こんな時に……」

蘭子の一言で、葵は次にかける言葉を忘れてしまい項垂れている。

「あとでカロリーメイトあげるから頑張れ。あと、あぶさんが来るまでなんとか踏ん張ってくれ」

咄嗟に思いついた言葉は、気の利いた中身でもなかった。

「ぷっ!」

そう真面目に返す葵の様子に、蘭子は思わず吹き出してしまう。

「いいかあおい、お腹が空いたらスニッカーズだ」

そして、蘭子はいつものように笑うのだ。

「お前なぁ……」

だが、なんとなく蘭子の意図は理解できた。

葵は、ついムキになって1人で考え込んでしまうのだ。

蘭子はそれを感じ取っていたのだろう。

「お、やっといつもの顔になったな。あおいは野球のことになるとすーぐ深刻そうな顔になるからな」

なぜか逆に慰められる状況になっていた葵は、蘭子に指摘されてハッとした。

(そうか……、俺は知らず知らずのうちに過去の自分と戦っていたんだな)

「そうだな。どうやら俺は戦う相手を間違っていたようだ」

そして、葵に笑顔が戻った。

「元気でたか?それに、気をつかわなくてもわたしは大丈夫だ。問題ない」

蘭子は、試合が始まってからもずっと蘭子らしさを貫いている。

それはきっと、彼女には揺るぎない絶対的な自信があるからなのだろう。

「よし。それなら、一番いいボールを頼む」

どこかで聞いたことがあるようなやり取りをしながら、2人は再び守備についた。


続く5番バッター。

野球部に試合の流れが傾いているところだが、ここは何とか抑えたいところだ。

しかし、このバッターも蘭子の球にしっかりタイミングを合わせてきた。


真芯で捉えた鋭い打球は、低いライナーで蘭子の横を一瞬で通り抜ける。

誰もがヒットになるかと思った矢先――。


「たあっ!」


ズザザザ――パシン!

 

静香がダイビングキャッチで捕球したのだ。

砂埃を上げ、泥だらけになりながらのスーパープレーだった。

それだけではない。

2塁ランナーの神原部長がサードへ向かって走り出していた。

そして、驚きの表情で一瞬だけ動きを止めたその隙を、タカヤが見逃さなかった。

素早くセカンドベースカバーに入り、静香からボールを受け取る。

これでダブルプレー。

スリーアウトだ。

チームを救った素晴らしいプレーに、ウインドーズ9のチームメイト達は思わず歓喜の声をあげたり拍手で称えている。

「フッ、やるな」

「そっちこそ」

そして、見事な連携を見せた張本人達は、お互いを讃えあってハイタッチを交わす。

そんな2人の様子を見ながら、葵と蘭子も笑顔で顔を見合っていた。


これでスコアは4-2。

しかし、この後も野球部が有利な展開で試合が進んでいく。

流れを変えるかと思えたスーパープレーでも、ウインドーズ9は野球部のペースから抜け出せなかったのだ。

3回裏の攻撃は、タカヤが外野フライに倒れ、蘭子のセーフティーバントは2回連続で通用するわけがなく、静香がラッキーなテキサスヒットで出塁したが、ラミーちゃんは打ち取られる展開となった。

その後もウインドーズ9は追加点を奪うことができず、蘭子は毎回ピンチを重ねながら、追加点を許さずになんとか5回表を投げきった。


「蘭子ちゃん、大丈夫?」

静香がベンチに戻ってきた蘭子を気遣っている。

疲れが顔に出てきたので心配しているのだ。

「アオイ、蘭子に無理はさせないでくれ」

「ソウネ……。ソロソロゲンカイネ」

タカヤとラミーちゃんは、葵にピッチャーの交代を求めている。

「ああ。わかってる。俺も何とかしてあげたいが……」

だが、その交代で投げるはずの人が、まだ来ていないのだ。

(それにしても遅い……。本当に来るのかあの人は?)

葵は最悪の状況を考えざるを得なかった。

(仕方ない、形だけでも投げられる経験者に頼るしかないか……)

重苦しいベンチの空気に、葵が諦めかけたその時――。



「みんなー!ごめーん!」

ガラガラガッシャーン!

「きゃー!いでで!何よこのバケツー!」


ベンチの向こうにある通路から、待ちわびた声が聞こえてきた。

途中に置かれていた掃除用具を吹き飛ばすSE付きで……。


「みんな!待たせたわね!」


やがて、ベンチの入口には、腰に手を当てたドヤ顔のあぶさんが現れた。


「うわぁ……。酒クセェ……」


3メートルぐらい距離があるのに、強烈なあぶさんスメルが漂ってくる。

葵は、喜びよりも困惑の感情に支配され、吸い込んでしまった"それ"を全て吐き出すかのように、深く長いため息で出迎えた。


 

「飲酒検問が必要だな……」


酒は飲んでも飲まれるな

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