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気になる蘭子は止まらない  作者: きら
ゴールデンウィークって何だ?

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29/68

それぞれの想い

「ただいま」

「……帰ったぞ」

居間の扉が開き、鍛錬組が戻ってきた。

お留守番組はまだ勉強の真っ最中だったが、蘭子は2人の帰りを合図にするようにノートをパタンと閉じた。

「おっ!おかえりー!どうだ?どっちが勝ったんだ?」

蘭子は興味津々で模擬戦の結果を尋ねる。

「俺の負けだ……。しかし、蘭子。お前が剣を習えと言った理由がわかった。俺は……もっと強くなれる」

答えたのはタカヤだった。

しかし、その表情に悔しさはない。

何か手応えがあった。そんな顔をしている。

「そ……そうだろうそうだろう!わたしを誰だと思っている!」

タカヤは気がついていないようだが、蘭子は目が泳いでいた。

(あんまり深く考えてなかったのね蘭子ちゃん……)

そんな姿を見た静香は、苦笑いしながら2人の会話を聞いていた。

「で、そっちはどう?……って、葵!?どうしたの!?」

静香が視線を向けた先では、干からびた葵がテーブルに突っ伏していた。

「このノートは……俺の知識の限界を超えた……。気になる蘭子は………………止まらない」

葵はそう言って気を失った…………フリをした。

「あおいーーーーーーーー!!」

蘭子は葵の冗談に乗っかって絶望感たっぷりのポーズで叫んでいる。

「…………見事なタイトル回収ね」

静香は呆れながら冷ややかな目で呟く。

時刻は22時を回っていた。

 

冗談みたいな大きな風呂で1日の疲れを癒したあと、4人はそれぞれの部屋に向かった。

湯船には本当にリンゴが浮かんでいたので、ほのかにリンゴの甘い匂いが漂っている。

そして、楽しかった今日が終わりを告げるように、それぞれの部屋の灯りが1つ、また1つと消えていった。

静けさの中で、4人それぞれの思いがゆっくりと夜の闇に溶け合っていく。


葵は、頭に手を組んで天井を見つめたまま小さく笑った。

「……なんか、賑やかな1日だったな」

布団の中には一日の余韻がまだ残っていて、頭の奥がポカポカしている。

リンゴ風呂の効果もあるのかもしれない。

蘭子の無邪気な笑い声、楽しそうな静香、そして、模擬戦から戻ってきたタカヤの晴れやかな顔。

(……あいつら、なんか変わってきたよな)

胸の奥が少しざわついた。

でも嫌な感じじゃなかった。

ただ、何かが変わっていく予感がしていた。


「エルトリアに笑顔を取り戻す……か。」

自分で言った言葉を思い出し、絶対にやってやると少し笑う。

やがてそのまま、穏やかな寝息を立てはじめた。


 

布団の中でゴロゴロ転がり、やがて蘭子は枕に顔を埋めた。

(たのしかったー!)

声には出さず、心の中で叫ぶ。

みんなでゲームして、笑って、美味しいもの食べて、勉強して。

今日という一日があまりにも濃くて、まるで夢みたいだった。

(しずかのおかげでタカヤが成長してる。あおいも、あんなに真剣にわたしに付き合ってくれた……)

ふと、唇を結ぶ。


「……わたしも、負けてられないな」


そう呟くと、目を閉じてニヤリと笑う。

次の瞬間にはもう、子どものように寝息を立てていた。

 


窓を少しだけ開けて、静香は外を見ていた。

空には月が浮かび、遠くには赤く点滅するビル群のランプが見える。

点いては消える光を見ながら、彼女はセリスの事を思い出していた。

(……セリスさん。あなたは何をするつもりなの?)

夜風がカーテンを揺らす。

胸の奥に、得体の知れない気配が残っていた。

(こっちでは、あなたの好き放題やらせないわよ)

遠い自分の知らない世界。

エルトリアという国を、蘭子が守ろうとしているものを、欲望のままに壊そうとしている。

そんなこと、許すわけにはいかない。

(タカヤには、もっと強くなってもらわないと……)

セリスに向けたタカヤの悔しそうな顔を思い出し、彼だけでは彼女に敵わない事も理解した。

(でも、剣筋は変わってた。きっと、隠れて彼なりに努力していたのね)

ふざけていたように見えて、きちんとやるべき事はやっている。

その真面目な騎士道に関心しながら窓を閉めた。

そして、表情を引き締める。

「……あの子が来る前に、私ももう少し備えておかないとね」

そう小さく呟いて、部屋の灯を落とした。



カーテンを少しだけ開けて、タカヤは窓を背に座っていた。

右手には、一本の剣が握られている。

鍛錬用ではない、彼の本物の剣だった。

静香の言葉が、まだ耳に残っている。

「『柔よく剛を制す』って言葉は知ってる?」

その言葉を、何度も心の中で繰り返す。

「柔よく……剛を制す」

小さく口に出してみると、不思議と胸が落ち着いた。

(守るための力……か)

ふと、蘭子の顔が浮かんだ。

その次に、葵、静香。

そして……セリス。

あの不穏な気配が、自分の守りたいものを全て包み込む前に、それを止めなければいけない。

振り返って見た窓の外。

遠くで街灯が一瞬だけ明滅した。

その光に目を細めながら、タカヤは剣をそっと立てる。

「……来るなら来い。俺はもう、逃げない」

低く呟くと、剣を納めて机に向かう。


夜風がカーテンを揺らし、机のランプの光も揺れた。

 

『エルトリア国防省行 緊急通達』


彼は本国に向けて、シェイドリアが動いている事を密書に記した。

(あとは……、本国の判断待ちだな)

今できることはここまでだ。

焦る気持ちを抑えてランプの火を消した。

 


その夜、静かな空気が屋敷を包んだ。

それぞれの胸に宿った思いは、まだ形にならないまま、ゆっくりと夜の底へ沈んでいく。

お風呂編は別の機会に書く予定です。

この章の終わりに番外編でやります。


りんご風呂も気になるけど、女子達のサービ……


あれ?今なんか刀を抜く音が聞こえなかった?

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