ダン
天馬たちはヨセフ市長の計らいで、部屋を与えられた。
その部屋は銭湯の待場に似ていた。
天馬たちは荷物を置くと、さっそく温泉に入り始めた。
現地で分かったことだが、男女別のようだ。
さすがに天馬は胸をなでおろした。
「ふう……いいお湯ですね」
フローネが温泉で温まる。
アンジェリーナとハルカはまだ体を洗っていた。
ツェツィーリアとソフィーヤも髪が長いので、なかなか洗い終えないようだった。
二人は洗い終わったあと、温泉につかる。
「それにしても、フローネさん。ついに隊長の女になったんですの?」
「え!?」
しれっとツェツィーリアが話す。
フローネはドキッとした。
「そ、それはあ……」
フローネは赤面する。
「きゃっ! ついに天馬隊長と恋人同士になれたのね! おめでとう!」
ソフィーヤがにやける。
「天馬隊長とはどうだったんですの? 何かアプローチはありました?」
ツェツィーリアがフローネに吹き込んでくる。
「そうですね。最後の方は天馬さんからアプローチされました」
「「「「天馬さん!?」」」」
「あ!?」
フローネは自爆ったことに気づいた。
ますます赤面する。
「うきゃー!? フローネさん、いつの間に隊長とそんな関係になったんですかあ?」
アンジェリーナは興味津々だ。
「サン・マリーノでキスしてからですかね……」
フローネがしどろもどろになりながら答える。
「きゃー! あの後キスされたの!? よかったね!」
ソフィーヤがほほえんだ。
ソフィーヤは心からフローネを祝福していた。
「で、初夜はどうだったんだ?」
ハルカがニヤリとしながら聞いてくる。
「ちょっ、そこまでは! 黙秘します!」
「ということはもう隊長とは結ばれたということね?」
ソフィーヤは目ざとい。
フローネは恥ずかしくて死にそうだった。
「きゃああああ!」
アンジェリーナが甲高い声を上げた。
シスターズは温泉で天馬とフローネのことを根掘り葉掘り聞き出そうとした。
フローネは恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
天馬は廊下を歩いていた。
さっそく温泉につかった後だ。
その時、向こうからヨセフ市長がやってくるのが分かった。
「これはこれはヨセフ市長、こんにちは」
天馬があいさつをする。
「これは天馬殿。そうそう、ダンの故郷が分かりましたぞ」
「本当ですか!?」
天馬はその情報に跳びついた。
「ダンの故郷はゲネトレト(Genetreth)です。場所は……」
天馬はシスターズを置いて、ゲネトレトへと向かうつもりだった。
天馬の父の名は御使 空馬。
その本名は『ダン』である。
天馬が岩壁を歩いていると、ふと人影が飛び出てきた。
それはフローネだった。
「!? フローネ……」
「こんなところを通ってどこに行くんですか?」
明らかにフローネは不満があるようだった。
天馬は秘められた事情をフローネに話すことにした。
「これは俺の父にかかわることなんだ」
「お父様に?」
「ああ」
「私たちを置いていくようなことですか?」
「……すまない。俺の父はテラ人なんだ」
「ええ!?」
天馬が視線を下に向ける。
フローネが驚く。
天馬は重い口を開いた。
「テラ人としての名は『ダン』。この先の町ゲネトレトの出身だそうだ。俺は父さんの故郷をこの目で見たくてね。それで抜け出したんだよ」
「天馬さん、私はあなたを愛しています。私はあなたのパートナーになりたいです。ですから、お願いです。私も連れて行ってはくれませんか?」
それはフローネの願い。
フローネは心から天馬に同行したかった。
それ以上に天馬のことなら知りたかった。
ゆえに天馬に頼む。
「君をか?」
「はい、私も天馬さんのことが知りたいです」
「フローネ……」
天馬はフローネを抱きしめた。
フローネの体温が天馬に伝わる。
それ以上にフローネの色香のある匂いが天馬の鼻に入った。
「ありがとう……正直、俺一人では不安だったんだ。いっしょに来てくれるとありがたい」
「はい、私はどこまでも天馬さんについていきますよ」
かくして二人はゲネトレトに向かった。
ゲネトレトはヨルダン川を南に下って東のギレアド地方にある町である。
天馬とフローネはひっそりと川岸にたたずむゲネトレトに到着した。
二人は町に入った。
「静かな町だな。ここが父さんの故郷……」
「あまり人も外出していませんね。小さい町なんでしょうか?」
天馬とフローネはいっしょに並んで歩く。
町の中に入ったはずだが、人はまばらだった。
「あら? あなたたちここでは見ない顔ね? どこから来たの?」
そこに一人の女性が現れた。
この女性はスーツを着ていた。
年齢は40代だろうか?
きれいな金髪をウエーブにして流していた。
「すいません。『ダン』という人の生家を探しているんですが、どこにあるかご存じですか?」
「ダン!? あなたダンの何なの?」
女性は警戒感を持ったようだ。
目が細くなって天馬に刺さる。
天馬は誤解を解こうとした。
まずはなだめることだ。
「俺はその『ダン』の息子なんです」
「そうなの……ダンちゃんに子供がいたのね……私はヘルツィナ。ダンの姉よ。つまりあなたのおばということになるわね」
ヘルツィナは先導するように歩き出した。
「ついてきて。ダンちゃんが住んでいた家に連れてってあげる」
天馬とフローネは互いの顔を見ると、うなずき合い、ヘルツィナについていった。
ヘルツィナは話しながら天馬とフローネを先導していった。
「この町は人口の流出が激しくて、もうあんまり人が残っていないのよ。そうそう、ここ。ここがダンの生家よ」
そこは背後に木々がはえている木造の家屋だった。
天馬は自分の実家を思い出した。
そこにも木がはえていた。
父は木が好きだった。
そこで地球でも木造の家屋を作ったのだろう。
「ここが……父さんが生まれた家……」
「質素な感じがしますね」
「こうここには誰も住んでいないのよ。だから当時のままその様子を残しているのよ」
ヘルツィナは木にかけてあったブランコに目を止めた。
そしてそこに腰かける。
「このブランコ……よくダンちゃんと遊んだわ。私たちの父が作ってくれたのよ。ところで、ダンちゃんは地球でどんな生活をしていたの?」
「そうですね。俺は宗教や歴史を教えられました。父は武術にも秀でていたので私に教えてくれました」
「ダンちゃんはもう生きてはいないのね?」
鋭い質問をヘルツィナが発する。
彼女の目は覚悟していた。
「あるダエモノイドと刺し違えて倒れました……」
天馬が下を向く。
「俺はダエモノイドと戦うために軍に入ったんです」
「そう……大変だったわね」
天馬とフローネはヘルツィナからお茶を出された。
しばらく二人はヘルツィナのもとに滞在した。
その数日後、天馬とフローネはゲネトレトを後にした。
そして急いでヘブラエウムに戻った。
すると、ヘブラエウムでは異変が起こった。
「!? 天馬さん! ヘブラエウムが燃えています!」
「本当だ! いったい何があった!?」
天馬とフローネはヘブラエウムまで駆けた。




