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ティルツァとミルカ

暗い部屋にて。

部屋には明かりが全くついていない。

この部屋はシャンデリアはついているのだが、明かりがともされたことはなかった。

一種不気味な部屋である。

この部屋のあるじはミリアム。

地球攻撃軍総司令官である。

この部屋には大きな長方形の窓から月の明かりが差し込んでいた。

ミリアムの前に二人の女がいた。

二人とも頭から角を生やしていた。

ミリアムがミニスカートからのびる脚を見せる。

その肌はなまめかしかった。

「ティルツァ、ミルカ、忌々しいことに月州軍には我々に対抗する部隊が存在する。『特殊防衛隊』というそうだ。彼らは月州の星見基地に所属している。星見市は我らと地球軍の最前線だ。この目障りな部隊をおまえたち二人で潰せ。おまえたちには魔獣の指揮権を与える」

ミリアムが忌々しそうに吐き捨てた。

それから二人に魔獣の指揮権を与える。

二人の姉妹はコントラストをなしていた。

ティルツァは長い赤い髪にロングドレス。

それに対してミルカはボーイッシュなショートパンツ。

「ミリアム様の目的を我らが姉妹が果たして見せます!」

ティルツァが宣言する。

「ミリアム様に栄光あれ」

ミルカがそれに続く。

「フフフ……頼んだぞ。必ず、特殊防衛隊を殲滅するのだ」

ミリアムは満足そうにうなずいた。

ミリアムの陰謀が天馬たちに降りかかろうとしていた。


夜の月州軍基地にサイレンが響き渡った。

その時、フローネはハルカと料理の後片付けをしていた。

「そうですか……ハルカさんには兄弟がいるんですね。うらやましいです」

それはフローネの本音だ。

フローネには兄弟や姉妹がいない。

そのため、一人で寂しいと思ったこともある。

「いやいや。大変だよ。全員私が世話しないとまともに生活できないんだから」

ハルカがフローネを見おろす。

ハルカは身長百七十八センチと女性にしては身長が高い。

そのため、こうしてフローネを見おろすような向きになる。

ハルカは苦笑した。

ハルカは軍には入ったが実家から基地に通っている。

平日は学校に行き、放課後に基地にやってくる。

ハルカはそこで訓練を受けて、実家に帰る。

ハルカにはまだ未成年の弟の面倒を見なければならなかったからだ。

厳格な兄にそれができるとは思えなかった。

「それにしても、フローネも料理は出来るようだな」

「えへ、わかります?」

フローネが照れながら言った。

フローネも料理は出来る。

「ああ、おまえの洗い方は料理ができる人特有のものだからな」

ハルカは目ざとく指摘する。

「今度、教官に料理を作ってあげるって約束したんです」

フローネがほおを赤らめながら水を切る。

フローネは調理器具を優しく扱っていた。

ハルカはそんなフローネのしぐさにも気づいている。

「ふふっ、そうか」

ハルカもうれしくなる。

ハルカの身近にはこうして料理について話せる人はほとんどいなかった。

そのため、フローネとの会話はハルカにとって楽しいものだった。

いい雰囲気だった。

それをぶち壊す者が現れる。

「フローネ! ハルカ!」

そこのやって来たのは天馬だ。

天馬の顔が非常事態だと告げていた。

天馬はエーテルプロテクターをつけていた。

「教官? どうしましたか?」

フローネが驚きつつ告げる。

「敵襲だ! 何者かが基地を魔獣で襲っている! 俺たちもすぐに出撃だ!」

「「わかりました!」」

フローネとハルカが返事をする。

天馬たちはすみやかに魔獣の迎撃に向かった。


天馬、フローネ、ハルカの三人は軍の基地の中に出た。

基地内ではすでに魔獣たちと兵士が交戦していた。

戦闘はやや押され気味だろうか。

魔獣たちの勢いが止まらない。

月州兵たちはアサルトライフルを持って魔獣に射撃をしていた。

クマ以上の大きさを持つ魔獣には銃弾はあまり有効とはいえなかった。

天馬たちはちょうど魔獣と交戦できる中に入った。

三人とも武器を出す。

「ツェツィーリアとソフィーヤ、それからアンジェリーナはすでに出撃している! 俺たちも迎撃に参加するぞ!」

「「はい!」」

そう言っているそばから魔獣が三体現れた。

天馬はすみやかに刀で一体の魔獣を屠る。

魔獣の命は一瞬にして刈り取られた。

ハルカは自分の刀――『イザヨイ』と名付けた――を持って魔獣を一刀両断にする。

フローネは光の矢を魔獣めがけて撃ち込んだ。

魔獣は一撃で息絶えた。

さすがに対魔獣戦の経験もあるだけあって、天馬とフローネはよく戦った。

フローネもだいぶ実戦慣れしてきた。

魔獣相手に恐怖することはない。

それでもハルカの戦いは二人を驚かせた。

「教官、ハルカさんはすごいですね。まだあまり訓練に参加していないのに……」

フローネはハルカを称賛した。

フローネにはそれがまるで一頭のメスライオンのような感じがした。

天馬も目を見張る。

ハルカは次々と魔獣に斬りこんでいく。

魔獣はあっさりと死を迎える。

ハルカは獅子奮迅の大活躍だ。

ハルカの戦闘力は高い。

「そうだな。さすが武道家なだけあるな」

ハルカは確実に魔獣を討ち取っていった。

魔獣はもはやハルカの的だ。

「俺たちも負けていられないな」

「はい!」

天馬とフローネも魔獣を倒しにかかった。

魔獣は特殊防衛隊の敵ではない。

一般の兵士にとってはてこずる相手でも彼らにはそうではなかった。

魔獣の数が著しく減っていく。

天馬は一体の魔獣を刀で斬り伏せた。

魔獣は倒れ粒子化する。

魔獣は死ぬとダエモノイドと同じように粒子に還る。

死体は残らない。

そのため、月州軍は魔獣の体の構成を調べられなかった。

今のところ捕獲した個体もない。

その時、天馬に投げナイフが投げつけられた。

天馬はとっさに刀で弾く。

「誰だ!?」

天馬はナイフが飛んできた方を見る。

夜影に乗じて隠れていた二人がいた。

二人は隊舎の上に立っていた。

天馬はこの二人が女性だと思った。

体つきやシルエットでわかる。

「フフフ……よくもここまでやるものだな。これほどとは思わなんだぞ、御使

天馬よ」

長い赤い髪をした女が話しかけてきた。

服装はドレス。

どこか煽情的で女性的な感じだった。

「御使 天馬! 我があるじの命により、その命いただく!」

もう片方の、ショートの赤い髪の女が言った。

こちらは活発そうな印象だ。

どちらも頭から角が生えていた。

「おまえたちが敵の指揮官か?」

二人の女は笑った。

二人は答える価値がないとでも思っているかのようだ。

それは天馬たちの力量を過小評価していることの現れ。

二人は時間をかけて自分たちの名を名乗った。

「フフフ……私はティルツァ」

髪の長い女が答える。

「フフッ、私はミルカ」

ショートの女が答えた。

天馬は詰問を続ける。

天馬は相手から情報を引き出したかった。

異世界のことには謎が多すぎる。

天馬たちはいつも守勢に回っている。

天馬は異世界とその勢力に対して、こちらから仕掛けることを考えていた。

そのためには異世界の情報が絶対に必要だ。

「何がおまえたちの狙いだ?」

「フフフ……それはな、おまえたち特殊防衛隊の命だ」

ティルツァが口元を吊り上げる。

それはティルツァたちの目的だった。

ティルツァとミルカはミリアムの命を受けて、天馬たちを殺しに来たのだ。

「ウフフフ……おまえたちは我があるじにとって邪魔な存在なのだ。ゆえにここで死んでもらう!」

ミルカが戦闘のゴングを鳴らす。

「そうはいくか! 倒れるのはおまえたちだけだ! 俺たちは負けない!」

天馬が言葉を叩きつける。

「教官、いいでしょうか?」

「? どうした、ハルカ?」

ハルカが割り込んでくる。

何かあるのだろうか。

「敵の女のうち片方を私に任せていただけませんか?」

ハルカは自ら願い出る。

ハルカは戦いたくて仕方がないのだ。

ハルカは武道家である。

武道は精神を高めるためにもなるが、実戦を経験することこそ本来のあり方だ。

ハルカは自分の実力がどこまであるのか、それを試してみたかった。

「……いいだろう。だが決して無理はするな。どうしようもなかったら、フローネを頼れ」

「わかりました」

天馬は指揮を出す。

「俺はティルツァをやる。おまえはミルカを頼む」

「はい!」

ハルカの顔は笑顔だった。

どこかうれしそうだ。

「フローネは待機していてくれ。君の回復魔法が必要になるかもしれない」

「わかりました」

かくして二手に分かれて戦うことになった。


ハルカ対ミルカ。

「フッ、能力に目覚めたばかりのおまえがダエモノイドと戦えると思っているのか? 身の程を知れ!」

ミルカはハルカを見下し、弾劾した。

ミルカには弱者の傲慢にしか見えない。

「私は能力者としてはまだ未熟だ。だが、私は18年武術に費やして生きてきた。武道家としての自信がある。せいぜい人を見下していろ。それが慢心だと、私がおまえに教えてやる」

ハルカの目にあるのは自信。

ハルカはミルカを見て自分より格上だと思った。

だが勝負はただ格だけで決まるものではない。

慢心や驕りがあればそれが命取りになる。

ハルカはミルカが見下すほど勝利の確信を抱くのだ。

「よくほざくものだ。気に入らんな」

ミルカが吐き捨てた。

どうやらこのミルカにはハルカの挑戦的な態度が気に入らないらしい。

ミルカからすれば、恐怖か絶望に染まった顔を見たいのだろう。

だがハルカにはそんな姿を見せるつもりがなかった。

ハルカには誇りがある。

武の道を究める者としての在り方が……。

ハルカは武の道は『忠義』にあると思っている。

忠義の対象のために剣を振るうのだ。

でなければ、剣は人殺しの技以外の何物でもない。

「では、行くぞ!」

ミルカがハルカに斬りかかる。

ミルカの武器は直線的な剣。

まずは互いに様子見だった。

ミルカはハルカと斬り結んでいく。

ハルカも剣を構えてミルカの力量を測ろうとする。

ミルカの剣は確実に優れていた。

確かに単体としては優れている。

しかし、いかに優れていても何かが足りないのだった。

それは神楽坂流のように伝統に支えられたようなものなのだ。

ミルカは確かに強い。

それは軍人としての強さであって、武道家としての強さではない。

ハルカはミルカと武器を交えることでそれを看破した。

ミルカが技を見せた。

「疾風突き!」

ミルカは剣で疾風のごとき突きを繰り出した。

剣が風をまとって突き刺さろうとする。

ハルカはすみやかにイザヨイを構えてガードする。

イザヨイは疾風突きを見事に受け止めた。

実のところ、さきほどの一撃は普通の刀を使ったら、刀が折れただろう。

それほどの威力を疾風突きは秘めていた。

霊刀イザヨイだからこそ受け止められたのだ。

「くっ!? ちいっ!」

ミルカが舌打ちする。

「あまり私をなめないことだな!」

ハルカがミルカに斬りつける。

ミルカの剣がそれを受け止める。

「ならばこれをくらうがいい! はっ!」

ミルカが全身から魔力を放出した。

ミルカの剣に魔力がいきわたり、研ぎ澄まされていく。

それに対してハルカは刀を構えた。

それは抜刀の構え。

ミルカは剣を振るった。

するとミルカの前に回転する風――旋風が現れた。

ミルカの技『旋風斬』である。

旋風はハルカの体をズタズタにすべく進んでいく。

ハルカは冷静だった。

それはこの技に対抗できると考えていたからだ。

ハルカは自分の魔力を霊刀イザヨイに流し込む。

ハルカはやはり普通のままでは、すなわちどんなに武術を磨いてもミルカには勝てなかっただろう。

ハルカは能力に目覚めたがゆえに魔力を用いることができるようになった。

それもハルカは自分の魔力の性質を理解していた。

ハルカの魔力は『月』だ。

夜の中輝く美しい月のような光が、ハルカの魔力だった。

それに対して、天馬の光は『天』だ。

天馬の力の象徴は『天』だった。

ハルカは魔力の斬撃で抜刀して旋風を斬りつけた。

月のような弧が描かれた。

旋風はハルカの居合によって斬り裂かれた。

「ぐう!? バカな!? くそ! なら接近戦で!」

ミルカは冷静さを失っていた。

そして接近戦を仕掛けてこようとする。

これこそ、ハルカが待ち望んだことだった。

ハルカは月光の斬撃を放った。

『月光斬』である。

月の光が彩った。

ハルカとミルカが交差した。

ミルカは……。

「かはっ!? なっ!? この私が……!? そんな……」

ミルカは倒れて緑の粒子と化した。

ハルカは自分の勝利に酔わなかった。

「まさしく自分の心の隙だ。相手を見くびるべきではなかった」

とハルカが勝利宣言をした。


一方、天馬対ティルツァ。

ティルツァは鞭を取り出した。

まるで女王様である。

ティルツァは妖し気な笑みを浮かべた。

「フフフ……この鞭の前に、おまえは手も足も出ない。御使 天馬よ」

天馬はそれを笑い飛ばす。

「フッ、それはどうかな。ただリーチが長いだけでは接近されたらおしまいだぞ?」

天馬も余裕を見せる。

それはティルツァの勘に触った。

「フン、気に入らんな。もっとあがけ! もっと無様にのたうち回れ! そうしないのは我らの対する侮辱だ!」

ティルツァが怒りの顔を見せる。

「俺たちにも誇りがある。そんなみじめな態度をとると思うなよ?」

天馬はクールに流した。

「フン! ますます気にくわんな! ええい、我が鞭をくらえ!」

ティルツァは鞭で天馬を打撃してきた。

天馬は刀でガードする。

「くっ!?」

天馬は鞭の打撃で思わぬ衝撃を浴びせられた。

まさかこれほど威力があるとは。

素肌で受けたら、ますあざができるだろう。

天馬の武器は刀。

それに対して、ティルツァの武器は鞭。

中距離で動きを封じられたら天馬に勝ち目はない。

しかし、逆のことを言えば……。

つまり、間合いを近距離にすることができれば、天馬が有利でティルツァが不利になる。

それが分かっているのか、ティルツァの鞭は隙が無かった。

天馬は接近を試みた。

「無駄だ!」

ティルツァが鞭を振るって天馬の足を止める。

天馬は後退せざるをえなかった。

続けて、ティルツァの鞭が振るわれる。

ティルツァの鞭はまるで蛇だ。

まるで生きている蛇のようにしなやかで、滑らかだった。

それは執拗に天馬を打撃してくる。

天馬はガードするか、よけるかに追い込まれた。

天馬は刀に光をまとった。

それからその光を刃に変えてティルツァに繰り出す。

「そんなもの!」

ティルツァもバカではない。

鞭で防ぎきれないと思ったのか、ティルツァは天光刃をかわすことを選択したようだ。

その瞬間天馬は接近した。

天馬はティルツァに刀による斬撃で斬り伏せる。

ティルツァは鞭をガードに使った。

「くうっ!? おのれ!?」

ティルツァが怒りと共ににらみつけてくる。

女王陛下の憤怒だ。

天馬はこのままティルツァを斬り捨てようと考えた。

だが、燃える鞭がそれを許さなかった。

ティルツァの鞭が炎をまといドッキングしたのだ。

天馬は不利と思い、後退する。

「フフフフフフ! よくもやってくれたものだな! この炎の鞭を前にしてのたうち回れ!」

ティルツァの舌が回る。

ティルツァは女王然と鞭をしならせてくる。

「前にも言ったろ。そんなことをするつもりはない!」

ティルツァが炎の鞭を叩きつけてくる。

ティルツァの打撃力がさらに増した。

炎の熱量が天馬を苦しめる。

天馬は『天光剣』を出した。

天の光が天馬の刀を覆っていく。

天馬の能力は『天』だ。

天馬は前進しようと試みた。

その瞬間、炎の鞭が上から襲ってきた。

炎が赤々と燃え盛る。

天馬はガードに追い込まれた。

「フッフフフフ! 我が鞭の前に手も足も出ないようだな、御使 天馬!」

ティルツァの炎の鞭はすさまじい火力で天馬の接近を許さない。

ティルツァはさらに鞭をとぐろ状にした。

すると鞭の先端に竜のアギトが現れた。

「これで死ね! 火竜鞭かりゅうべん!」

炎のアギトが天馬に向かってかみつこうとする。

天馬はそれを正面からの斬撃で対抗した。

天馬の斬撃と火竜鞭がぶつかり合い、爆発を引き起こす。

爆風の中から現れたのは天馬だった。

天馬は隙だらけのティルツァに斬りつけた。

「があっ!?」

天馬の一撃が決まった。

ティルツァは苦しそうにあえぐ。

「ぐっ……ミリアム様……」

ティルツァは倒れた。

そして魔獣たちは基地から一掃された。

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