ハルカ2
ハルカは軍に連れて行かれた。
その日ハルカは軍の保護下に置かれた。
ハルカは能力者である。
そのため、月州政府は能力者を保護し、軍に配属する政策を進めていた。
ハルカは正直不安だった。
ハルカは自分が戦うことに疑問を覚えていたわけではなかった。
戦えるというのなら、むしろうれしい。
自分の修業が生きてくるというものだ。
修行の成果を魔獣と戦って試したいという気持ちもあった。
ハルカはまず、サーシャの検査を受けることになった。
「私はサーシャっていうの。これからあなたの同僚になるだろうから、よろしくね。初めてのことで戸惑っていると思うけど、安心してね?」
サーシャはにっこりとほほえんだ。
サーシャは対人関係が円満だ。
サーシャは大抵の人間と人間関係を結べる。
コミュニケーション能力も高いので、友人も多かった。
サーシャにはそれでも特別に親しい友人は数人程度だ。
天馬もその中に入る。
ハルカは人間ドックのような円形の設備に入れられた。
ハルカは医療用のチュニックを身につけていた。
サーシャの隣に天馬が現れる。
「どうだ?」
天馬がサーシャの横に立つ。
「ええ。体調、精神、ともに安定しているわ。数時間前にダエモノイドと戦ったとは思えないほど、ね」
サーシャが機器を動かす。
天馬はモニター画面をじっと眺めていた。
「彼女は武術を身につけているのか?」
「どうして?」
「ああ、能力に目覚めた直後、彼女は一撃でダエモノイドを倒したんだ」
サーシャがふしぎそうな顔をした。
「なるほどね。少しわかったような気がするわ。彼女の筋肉は武術を会得した人間のものよ。つまり、武術を学んでいたために、すぐに能力を操れたのね」
天馬とサーシャはドックの中のハルカを眺めた。
一通り検査が終わった。
その後、ハルカは軍に入らないかと誘われた。
意外なことにハルカはすぐに承諾した。
天馬は逆に不安になった。
そう簡単に答えていいのだろうか?
「いいのか?」
天馬が制服に着替えたハルカに問う。
「何がでしょう?」
天馬はハルカと並んで廊下を歩いていた。
「いや、軍に入るって即決したからさ。大丈夫なのかと思ってね」
「私は能力者になれてよかったと思います。この力のおかげで私は戦えますから。私は戦えない、守られてばかりの女にはなりたくありません」
ハルカの瞳にははっきりと戦う意思があった。
まるで武人だ。
ハルカには明確な戦意というものがあるのだろう。
「ふーん、そういうものかね」
「ところで天馬教官、一つ頼みがあるのですが……」
ハルカが意地の悪そうな顔をした。
何か企んでいる、そんな顔だ。
「何だ?」
「私と手合わせ願えますか?」
「君と?」
天馬は臆病ではない。
戦うというのなら、望むところだ。
ハルカの目には妖しい輝きがあった。
天馬とハルカは道着に着替えた。
基地の中の道場で木刀を持って二人は対面する。
「私に勝ったら、私はあなたを上官と認めましょう」
ハルカの宣告。
天馬はやれやれと思った。
「ふう……俺の部下には好戦的な人間が多いな。これも一種の決闘だろう?」
そういう天馬は落ち着いていた。
しかし、ハルカから伝わってくる無言の圧力が天馬にプレッシャーをかける。
「私に負けるようでは上官とは思えませんから」
そういうハルカの目はまったく笑っていない。
私に勝たねば上官とは認めない、そう目が語っていた。
ハルカがすぐに斬りつけてきた。
それは上段の斬り。
天馬はそれを木刀で受け止める。
(速い!)
天馬は今の一撃、木刀による打撃を見て見事と思った。
それにもっと見事だったのは、打ち込み前の足さばきだ。
武術で足さばきがものをいう。
足の巧みな動かし方が、勝敗を決めると言っていい。
優れた武術家は優れた足さばきを持っている。
天馬は今の一撃でハルカの強さを理解した。
ハルカはさらに打ちこんでくる。
ハルカは猛獣のような顔をしていた。
しかし、天馬はハルカの連撃を受けながら、反撃を考えていた。
ハルカも武道家だ。
反撃できないよう木刀を振るってくる。
再びハルカが上段に打ち込んできた、その時。
ハルカの木刀が宙を舞った。
「なっ!?」
ハルカは信じがたい一閃を受けた。
ハルカは天馬が刀を持っていたことから、自分に近い能力を持っていると思っていた。
それが天馬と手合わせをしたかった本当の理由である。
ハルカにとって血が騒ぐのだ。
武道家としての血が。
天馬の一閃はハルカの木刀を吹き飛ばした。
その技は極限の絶技。
ハルカは感服した。
せざるをえなかった。
天馬は木刀をハルカに向けた。
「どうだ? これで満足か?」
天馬がニコリとほほえみかける。
天馬はハルカより自分の方が強いと実践してみせた。
「……はい、お見事です。『教官』」
ハルカは天馬を教官と認めた。
「神楽坂 ハルカと申します。よろしくお願いします」
ハルカはフローネたち隊員たちに紹介された。
ここはユーリアの司令室である。
ハルカがぺこりとおじぎする。
「このハルカが俺たちの新しいメンバーだ。みんなもよろしく頼む」
天馬がハルカを紹介する。
それにみんなが答えてくれる。
「私は星名 フローネです。初めまして」
「わたくしツェツィーリアと言いますの」
「私はソフィーヤです。よろしく」
「私はアンジェリーナと言います。よろしくです」
みんなが快くハルカを迎え入れてくれる。
それを見て天馬は安心した。
一応、天馬はメンバーの人間関係に関心を持っている。
最近はアンジェリーナが腕を上げてきている。
弓の狙いが必中なのだ。
アンジェリーナはあまり戦いに向いたメンタリティーをしているわけではなかったが、能力そのものは戦闘向きだ。
「一つ、うかがいたいことがあるのですが?」
ハルカが控えめに尋ねてくる。
「何だ?」
「ここに厨房はありますか?」
「厨房? あるにはあるが、何をする気だ?」
「私の顔合わせに私の料理を食べてもらいたくて……」
もじもじとハルカが言った。
少し恥ずかしいらしい。
「ふうん、そうなの……ハルカさん、こっちよ」
「ユーリア大佐?」
ハルカが首をかしげる。
どうやらユーリアは自ら案内する気のようだ。
「私が案内してあげるわ。ハルカさんの料理、楽しみだわ」
そうして、ハルカはユーリア大佐の後を追って行った。
ハルカはエプロンをつけると、さっそく料理を作り始めた。
ハルカはまず、具材を切っていく。
包丁とまな板が音を立てる。
ハルカの包丁さばきはプロの料理人に匹敵するだろう。
ユーリアが感心したように見入っていた。
「ハルカさん、すごいのね。家でもよく料理を作っているの?」
「はい、料理を作るのは私の仕事のようなものでしたから」
ハルカが包丁を動かしながら答える。
ハルカが里いもを切っていく。
その動きは速く、神技のレベルだった。
「ふうん、そう……ハルカさんは女子力が高いのね。私は料理は駄目ね。食事は食堂で食べるか、買って食べるかだから」
ユーリアがあきらめのような調子で言った。
どこか自虐的だ。
「こんなものは慣れですよ。ふふふ……」
そう語るハルカはうれしそうだ。
それを天馬とフローネが見ていた。
「ふむ。ハルカは料理ができるんだな」
「教官は料理ができる女性が好きですか?」
フローネが赤くなりながら質問する。
天馬がどぎまぎして慌てふためく。
「ええ!? ま、まあ、そうだな。できればできてくれるとありがたいな」
天馬は後頭部をかいた。
これは天馬が照れているときのしぐさだということをフローネは知っていた。
「それじゃあ、教官には私が料理をふるまってみせます!」
フローネが自分にまかせて、と言った調子で応える。
天馬は少し不安感を覚えて尋ねた。
「フローネは料理ができるのか?」
「はい! 実家にいるときは料理は私の仕事でした!」
フローネが自信を見せる。
フローネはよほど強く訴えたいのか、張り切っていた。
「そうか。それじゃあ、その時はフローネの料理を楽しみにしてる」
「はい!」
満面の笑顔をフローネが浮かべた。
そんなことを天馬とフローネがやっている間に、サトイモ、ジャガイモ、ナス、ピーマンを揚げ始めた。
どうやらハルカは天ぷらを作っているらしい。
無事に、とはいえ当然だが、天ぷらは揚げ終わり、ある一室でみんなで食べることにした。
みんなは天ぷらの匂いに目を輝かせた。
ハルカの料理がメンバーにふるまわれた。
「これも女子力……」
ツェツィーリアが漏らす。
ちなみにツェツィーリアは料理など『したことがない』。
サーシャの料理は壊滅的なのを天馬は知っている。
防衛隊で料理ができるのはフローネ、ソフィーヤ、アンジェリーナくらいだ。
天馬は料理は出来るがサバイバルな方向に行っている。
「さあ、どうぞ。みんなで召し上がってくれ!」
ハルカがみんなに食事を促す。
「いっただっきまーす! 」
アンジェリーナが一番に天ぷらに口をつけた。
「もぐもぐ……うん! おいしい!」
アンジェリーナは目を見開いた。
お世辞ではなくこれは本物の称賛だった。
それを聞いてハルカはうれしくなる。
作ったかいがあるというものだ。
ハルカは天ぷらにご飯とみそ汁という、月州の伝統的なものも忘れない。
その夕、特殊防衛隊のメンバーはハルカの料理でおなかを満たした。




