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アンジェリーナについて

「え? ここは?」

アンジェリーナは目を覚ました。

その場所は知らないところだった。

身に覚えがない。

アンジェリーナはベッドから起き上がる。

部屋には無数の医療機器があった。

「あらー、お目覚め?」

そこにダークブラウンの髪をした、白衣を着た女性がいた。

長い髪の先は黒いリボンで結んでいるようだ。

この人は医者なんだろうか? 

白衣の下には軍用スーツを着ている。

「あなたは?」

アンジェリーナが尋ねた。

彼女はまだ混乱していた。

無理もない。

いきなり知らない場所で目覚めたのだ。

それに朝の記憶もあいまいだった。

女性がにこやかにあいさつしてくる。

「私はアレクサンドラ・ヴァシーリエヴナ・プラトーノヴァ。長いからサーシャでいいわ」

「あ、はい、サーシャさん。ここはどこなんですか?」

記憶があいまいなこともあってアンジェリーナは不安だった。

「ここは星見月州軍基地よ。アンジェリーナちゃん?」

「!? どうして私の名前を?」

アンジェリーナは自分がまだ名乗っていないのにサーシャが知っていることに驚いた。

「フフフ……あなたの生徒手帳をのぞかせてもらったわ。まずあなたの現状を報告するわね」

「私の現状?」

サーシャが優しく諭すように話しかける。

「そう。あなたは現在軍に保護されているの」

「軍に!?」

アンジェリーナは意外な答えに驚いた。

自分と軍にいったい何のかかわりがあるのか。

そう言われて、アンジェリーナはある男性に助けられたことを思い出す。

そして自分が殺されかけたことも。

アンジェリーナの顔が蒼白になる。

体が震える。

それを見たサーシャがアンジェリーナを抱きしめる。

「もう、大丈夫だからね」

「う、う、うううう……」

アンジェリーナはしばらく泣いた。

泣き続けた。

「あ、ありがとうございます……」

アンジェリーナは泣き止んだ。

ほおを赤く染める。

「いいのよ、それくらい。それでね、あなたには能力者としての素質があるの」

「能力者?」

アンジェリーナが知らない単語だ。

能力者とはいったい何だろうか。

「そう、エーテルに接触することで異能の、超自然的力に目覚めた者たちのことよ。あなたは検査の結果、能力者としての力が眠っていることが分かったの」

サーシャは話を続ける。

「そう、何ですか……」

アンジェリーナは呆然とする。

無理もない。

こんな話を信じろという方がおかしいのだ。

「つまり、あなたは戦う力をえる可能性があるということよ」

「戦う、力?」

アンジェリーナはのどから声を出す。

「そう、それはあなた次第だけど……」

「お、目が覚めたか」

そこに穏やかな声がかけられた。

「天馬君」

「あ、あなたは……私を助けてくれた人?」

アンジェリーナが天馬を見つめる。

アンジェリーナの記憶は不完全だったが天馬のことは覚えていた。

もっとも今の天馬はラフな服装、白いシャツに黒いズボンをはいていた。

「そうだ。俺は御使 天馬。天馬と呼んでくれてかまわない」

「あの、初めまして。私はアンジェリーナ・デッラ・キエーザです」

アンジェリーナがおどおどとあいさつをした。

どこか男慣れしていない感じだ。

「よろしくな。ところで君は軍に保護された。ということは行動に制約がつくということだ。スマホの使用から外出まで、な。これらを利用するためには、上官であるユーリア大佐の許可がなければならない。これからは俺が護衛として君を守る。理解できたかな?」

「あ、はい、わかりました」

アンジェリーナは素直に従った。

アンジェリーナはあまり自己主張しない、我を通そうとしない女の子だった。

その時、アンジェリーナのおなかが鳴った。

アンジェリーナが赤面していく。

「ははは。おなかもすくだろう。じゃあ、まずは食堂に案内するよ」

「は、はい!」

アンジェリーナは天馬の後について食堂に向かった。


天馬がアンジェリーナを護衛するようになってから数日すぎた。

アンジェリーナは部屋で何かに没頭しているようだった。

天馬はそれが気になってアンジェリーナに話しかける。

「アンジェリーナ」

「ひゃう!?」

アンジェリーナがびくっと驚く。

天馬はそれをわびた。

「すまない。驚かせたか?」

「い、いえ、大丈夫です」

アンジェリーナが胸に手を添える。

「さっきから何をしているのかと思ってね」

「絵を描いていたんです」

「絵?」

「は、はい」

天馬はそれに興味を持った。

「見せてもらってもいいか?」

「どうぞ」

アンジェリーナはもじもじとスケッチブックを出す。

このスケッチブックは彼女のカバンに入っていたものだ。

天馬はそれを見た。

すると、その中の光景に目を見張った。

そこには写実的な風景があった。

アンジェリーナはおもに自然をその対象としているようだった。

これだけのものは天馬には絶対に描けない。

アンジェリーナの画力はすばらしかった。

「へえ、さすがだな。俺は絵が下手だからこんなものが描けるのはすごいと思うよ」

天馬は正直に答えた。

それは天馬の本心だった。

「絵というものはですね、まず人間の目が見えているように描くこと。そしてもう一つはデフォルメです」

アンジェリーナがとくとくと解説する。

どうやらアンジェリーナには絵を描く秘訣があるようだ。

「ふむふむ……」

「例えば、右手を前に突き出したポーズを描きたい場合、顔を基本のサイズとしてその二倍、あるいは三倍で手を描くとインパクトのある絵になります。そして、後ろにある手は小さく描くことで後方にあるよう、目を錯覚させることができます。つまり、うまく描ける人は絵画理論と、テクニックを知っているということです」

アンジェリーナ先生が解説してくれる。

「なるほどな。そういったことは一個人では気づきにくい。ほかの人から教えられないと気づきにくいことだ。アンジェリーナはどうしてそれを知っているんだ?」

「私はパードレから教わりました。絵に理論とテクニックがあることも教えてくれたのは父です」

アンジェリーナは自慢するように話した。

アンジェリーナの目は輝いていた。

「そうか。いい父を持ったな」

天馬が深くつぶやいた。


一人の女性がアンジェリーナと面会を求めてきた。

その女性はアンジェリーナの母ミケーラだった。

「まったく、娘を監禁されているだけでも腹立たしいのに、どうして面会するのにこんなに時間がかかるんですか?」

ミケーラは面会室で不満をぶちまけた。

まったく、軍隊とはどうしてこうも融通が利かないのか!

「申しわけありません。これでも手続きがありまして」

担当係官が告げた。

ちなみに言葉とは裏腹に全く悪びれていなさそうだ。

とそこにアンジェリーナが姿を現した。

「お母さん(マードレ)!」

「ああ、アンジェリーナ!」

ミケーラはアンジェリーナを見るやいなや彼女を抱きしめた。

「軍隊で乱暴に扱われなかったかい?」

「うん、軍人さんたちはみんな優しくしてくれたよ」

ミケーラはアンジェリーナに顔を擦りつける。

「あなたがアンジェリーナのお母さまですか?」

「あなたは?」

「私は彼女の護衛の御使 天馬と申します」

ミケーラはアンジェリーナから離れた。

天馬をきっとにらみつける。

「そうですか。私はあなたに言いたいことがあります」

「何でしょう?」

「娘を返してください!」

悲痛な叫び声がこだました。

ミケーラは真剣な表情をしていた。

「今、娘さんは狙われています。民間に返すには危険すぎます」

天馬は真実を口にした。

アンジェリーナはあのメルキゼデクとかいうダエモノイドに狙われている。

民間に返すのはあまりに自殺行為だった。

しかし、理を解いてもミケーラは納得しないだろう。

「私たちは普通の善良な市民です! その市民がなぜ襲われなくてはならないんですか!」

ミケーラは怒りを吐露した。

天馬も負けてはいない。

「あなたの娘さんは能力者です。能力者は月州に希望を与える存在です。そのため、軍は娘さんを保護する決定を下しました。ご理解ください。あなたの娘さんは狙われているのです」

しかし、ミケーラにとって天馬の言葉は詭弁にすぎない。

「結局は軍による統制ではありませんか! 家族には愛と絆があるんです! それを踏みにじらないでください!」

「それよりも優先されるべきことが……」

「何ですって!?」

ミケーラは烈火のごとく怒った。

その怒りが天馬に叩きつけられる。

「やめて! 二人ともやめて!」

そこのアンジェリーナが割って入った。

物静かな彼女には珍しい。

「お母さん、私は自分の意思で軍に残るよ。私を助けてくれた人たちの思いをむげにしたくない」

「アンジェリーナ……」

娘の毅然んたる態度にミケーラは押された。

この子はいつからこんな子になったのだろうか?

ミケーラはしぶしぶ納得したようだった。

ミケーラはアンジェリーナにキスをして去っていった。

「すいません。私の家族が……」

アンジェリーナが謝罪する。

アンジェリーナは心底悪かったと思っているようだ。

「いいや、それほど君のことを思っているということだろう?」

天馬が優しくほほえんだ。

アンジェリーナが下を向く。

「これでは……今度の歌のコンクールにも出れませんよね?」

「歌のコンクール?」

天馬には初耳だ。

「はい、そうです。私、歌うのが好きで毎年出場しているんですけど……」

「どうしても出たいか?」

「はい、できれば」

アンジェリーナは遠慮がちに言う。

天馬は少し思案して。

「よし、俺が上にかけあってみる。警護は俺たち特殊防衛隊が務めよう」

「え? いいんですか?」

アンジェリーナは断られると思っていたのであろう。

天馬の意外な言葉に驚いていた。

「こんなときだからこそ、大切にしなければならないことがある。俺はそう思うよ」

「あ、ありがとうございます!」

アンジェリーナはかくして、コンクールに出場することになった。

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