アンジェリーナ
アンジェリーナ・デッラ・キエーザ(Angelina della Chiesa)。
彼女はイタリア系移民である。
彼女はイタリア系月州人であった。
アンジェリーナは朝、高校に登校していた。
その日からアンジェリーナの日常は変わった。
その日とは大統領から月州は異世界から侵略をされていると聞いた日だ。
アンジェリーナは茶色い長い髪に上は白いブラウス、下は青いスカートをはいていた。
瞳の色は緑だった。
アンジェリーナは登校中考えていた。
大統領は大丈夫だと言ったが本当に大丈夫なのか?
今は軍と魔獣が戦っているという。
自分はあくまで一般人だ。
このできごとに主体的にかかわっているわけではない。
ただ、自部は巻き込まれないだろうか?
「娘よ」
「?」
アンジェリーナは声がした方を見た。
そこには白いひげを生やした祭服を着た男がいた。
年齢は老人だろうか。
だが、この男からは何ともいえないプレッシャーを感じた。
本能的にアンジェリーナは恐怖した。
「わしはダエモノイドのメルキゼデク。娘よ、お主の命をこのわしがいただく!」
メルキゼデクは茶色いエネルギーを手に収束させた。
この男は自分を殺す気だ。
アンジェリーナは直感的にそれを悟った。
アンジェリーナの顔が引きつる。
メルキゼデクの魔力がアンジェリーナに向けて放たれる。
「ククク、死んだか」
メルキゼデクはアンジェリーナの死を確認しようとした。
とそこに光の斬撃が飛ばされた。
メルキゼデクはとっさに障壁を張る。
しかし、完全に防ぐことはできなかった。
メルキゼデクの左肩が裂けて、血が流れる。
「くっ!? 何者だ!?」
煙の中から青いプロテクターを装着した天馬がアンジェリーナの前に立っていた。
「この子を殺させはしない」
それは天馬からの宣告。
天馬はメルキゼデクの魔の手からアンジェリーナを守った。
それは彼女が能力者予備群だったからだ。
このようなダエモノイドとの邂逅はフローネの時以来だった。
「くっ! まさか邪魔が入るとはな……ここは一時引くか……」
メルキゼデクは魔法陣を出した。
魔法陣がぐるぐると回転する。
「その娘の命、このメルキゼデクがいただく! ククククク!」
そう言い残すとメルキゼデクは消えた。
まるで最初から何もいなかったかのようだ。
その瞬間、アンジェリーナは倒れた。
緊張の糸が切れたのであろう。
それにアンジェリーナには何が起こったのか全くわからなかったに違いない。
「やれやれ……精神的にまいってしまったんだな。それにこの子は……サーシャの検査を受けさせてみるか」
天馬はアンジェリーナをかかえて基地へと向かった。
天馬はアンジェリーナを検査するため、医務官のサーシャのもとに連れてきた。
ちなみにサーシャのフルネームはアレクサンドラ・ヴァシーリエヴナ・プラトーノヴァ(Aleksandra Vasilyevna Platonova)である。
サーシャが検査機器をくっつけて、アンジェリーナを調べてく。
天馬はそれをガラスの窓から見守っていた。
一通りの検査を終えたのか、サーシャが部屋の中から出てきた。
その表情は確信に満ちていた。
おそらく天馬が求める答えだろう。
「天馬君の見たとおりだったわ。彼女も能力者よ」
「そうか……連れてきて正解だったな」
天馬は心から安堵した。
「ただ……」
「ただ?」
サーシャが言葉をつなげる。
「まだ能力の覚醒が為されていないから、彼女は非常に不安定なの。おそらくダエモノイドとの接触、そして天馬君に近づいたせいね」
「となると、軍で一時的に保護する必要があるな。ユーリア大佐には俺から言っておく。サーシャは起きたらこの子に事情を説明してくれないか?」
天馬がサーシャに頼む。
この二人はこんな所でも息があっていた。
馬が合うというか、自然に話せるのだ。
これはだからと言って恋愛感情につながるわけではないのだが……。
「ええ、いいわよ」
サーシャが承諾した。
「なるほど……連れてきたのは能力者予備群だったのね……」
それが報告後のユーリアの第一声だった。
ユーリアは今能力者を求めている。
それは特殊防衛隊の拡大が必要だと考えているからだ。
「そこでユーリア大佐、彼女を軍で保護してもらいたいのですが……」
天馬は名前も知らないアンジェリーナの保護の必要性を説いた。
天馬は面倒見がいい。
それも年下や、女性になるとなおさらのことだ。
天馬は見ず知らずとはいえ、倒れて目を覚まさないアンジェリーナを放っておけなかった。
「わかったわ。でも彼女を一人にするわけにはいかないでしょう。誰かが護衛をする必要があるわ」
ユーリアが話の筋をつなげる。
「といいますと?」
天馬はそれが誰になるか気になった。
アンジェリーナには女性の護衛の方がいいかもしれない。
そんな事を天馬は考えていた。
「天馬大尉、あなたに彼女の護衛を命じます」
ユーリアから発されたのは驚きの一言。
「は?」
「は、じゃないわよ。あなたよ、あなた。猫じゃないんだから連れてきた責任を取りなさい」
ユーリアがあきれた口調で言った。
「は、はあ……」
天馬は肯定とも否定とも言えぬ返事をした。
実際天馬は驚いていた。
まあ、ユーリア大佐には何か考えがあるのかもしれないが。
「ところで、彼女の名前はわからないの?」
「生徒手帳から彼女の名前はわかっています。彼女の名前はフルネームでアンジェリーナ・デッラ・キエーザ。おそらく名前からイタリア系月州人だと思われますが……」
月州では移民は珍しくない。
月州市民は移民の子供たちで構成されている。
いわば移民が月州を作ったのだ。
移民がいるとはいえ、、月州人の中枢は本国生まれの多数派ミズラヒームである。
月州は移民の存在によって多文化の社会でもあった。
それでも月州の統治が行き届いているのはシベリウス教を多数派が信仰しているからである。
宗教は国民統合の手段であると同時に、理念――ヒエロクラティア(Hierokratia)でもあった。
「何にしても、目が覚めたら事情を聞く必要があるわね」
ユーリアが何かを考えたようだ。
「彼女の両親にはどう説明いたしますか?」
天馬はこの後、アンジェリーナをどうするのか知りたかった。
ここまで事件に巻き込まれてしまったら、異世界の勢力はアンジェリーナを狙うだろう。
実際、交戦したダエモノイドはそう言っていた。
両親への説明は頭の痛い問題である。
「彼女自身の口からしてもらいましょう」
「わかりました。それでは」
天馬はユーリアとの会話を終えて、退出していった。




